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世界一へ、遠かった1点。ヤングなでしこが破れなかったアジアの壁

松原渓スポーツジャーナリスト
決勝はアジア対決となった(写真:FIFA)

【遠かった1点】

「3度目の正直」ならず――。

 コロンビアの首都・ボゴタのエル・カンピンスタジアムで行われたU-20女子ワールドカップ決勝戦。日本時間の23日早朝に行われたこの試合で、ヤングなでしこは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)とのアジア対決に0-1で敗れ、2大会連続準優勝となった。

 AFC U-20女子アジアカップを含め、今年で3度目の対戦となったが、3連敗。メンタル、戦術、フィジカル。北朝鮮はいずれも、他国を凌駕する強さがあった。

 日本にとって、今大会初めて許した先制点が、立ち上がりの15分と早かったことも、精神的なダメージにつながったのではないだろうか。

 それが、相手の戦略だった。高地で行われ、コンディション的にもハードな連戦が予想された今大会、北朝鮮は全試合で「早い時間の得点を狙っていた」(リ・ソンホ監督)という。決勝が行われたのは最も標高が高いボゴタ(約2500m)で、最も標高が低いカリ(約1000m)で行われた準決勝からの準備期間は2日。これまでの6試合で、時間と共にギアを上げる傾向があった日本に対し、相手は立ち上がりからトップギアで襲いかかった。

大山愛笑とシン・ヒャン(写真:FIFA)
大山愛笑とシン・ヒャン(写真:FIFA)

 連動した強いプレッシャーをかけて日本のビルドアップの歯車を狂わせると、日本の左サイドを攻略。チェ・ウンヨンとジョン・リョンジョンの両翼と、チェ・イルソンの前線のラインが織りなすサイド攻撃は3月の女子アジアカップでも再三見られた形。日本も十分に警戒していたはずだが、止められなかった。

 15分、エリア内に進入したチェ・イルソンが体を捻りながら放った強烈なシュートは、クリアしようとした白垣うのに当たってコースが変わり、守護神・大熊茜も反応できず。

 1点をリードされた日本は後半、松窪真心を中心に反撃を試みる。最大のチャンスが訪れたのは82分。松窪がエリア内で突破して入れたクロスに小山史乃観が合わせたが、強いシュートにはならず、GKにキャッチされてしまった。このチャンス以外はエリア内に進入する場面はほとんどなく、ゴールの匂いは漂ってこなかった。

「点が取れなかったことは自分たちの力不足で、まだまだ足りないなと感じました」

 小山は、2大会連続準優勝という現実を噛み締めるように言葉を紡いだ。

【新たなスタートラインに立つ選手たち】

 3月のU-20女子アジアカップでは0-1(グループステージ)と1-2(決勝)で敗れ、今回は0-1。すべて1点差だが、内容的には差があった。日本は今大会の準決勝まで、1試合平均20本のシュートを放っていたが、この試合はわずか5本(相手は9本)。準決勝まで1試合平均13本だった枠内シュートはわずか1本(相手は4本)にとどまった。

 北朝鮮は過去2大会で優勝しているように、この年代は相当に強い。今大会6ゴールで得点王とMVPに輝いたチェ・イルソンは現在17歳で、今大会は飛び級で出場。5月のU17女子アジアカップでも決勝で日本を破っている。彼女は10月16日に開幕するU-17女子ワールドカップにも出場できる。

得点王とMVPを受賞したチェ・イルソン(写真:FIFA)
得点王とMVPを受賞したチェ・イルソン(写真:FIFA)

 個の強さもそうだが、クラブチームのような連係の良さも、他国とは差があった。サイド攻撃の威力は、前回対戦した6カ月前からさらに脅威を増していた。

 ソンホ監督曰く、「3カ月から6カ月、集中的にトレーニングしました」。国として代表チームにかけるエネルギーが大きく、今大会に向けても相当な期間を費やしてきたようだ。一方、日本は国内組を中心に、プロのWEリーグで出場機会を得ている選手が多く、代表チームとして活動できる期間は一度の活動で4〜5日。その差を埋めるのは、日常の中で個々の成長を加速させることしかないだろう。

 この試合前日に行われたWEリーグで、リーグ2連覇中の浦和を率いる楠瀬監督は、日本女子サッカーの育成年代の変化についてこう話していた。

「日本は年々、(実力のある)選手が増えているし、強くなっている。トレセンや各チームの取り組みや、WEリーグができたこともあって確実に進歩していると思います。けれども、北朝鮮は本当に強く、危機感もちょっと感じています。今大会でスペインに勝ったのは良かったですが、ここから先が重要になる。北朝鮮というよきライバルと切磋琢磨できれば、アジア全体(のレベル)が上がっていくと思います」

 頂点に立てなかったことは残念だが、日本の3大会連続決勝進出という記録が色褪せることはない。日本は松窪真心がMVPに次ぐシルバーボール、土方麻椰がブロンズブーツ(得点王3位)を受賞。2人以外にも、今後なでしこジャパン入りが期待される選手たちの活躍が見られた大会だった。海外リーグのスカウトも目を光らせていたはずだ。

松窪真心(左)と土方麻椰(右)(写真:FIFA)
松窪真心(左)と土方麻椰(右)(写真:FIFA)

「選手たちはこの大会だけでなく、将来的に次の舞台としてなでしこジャパンを目指しているので、失敗してもチャレンジし続ける前向きな姿勢でピッチに立つことを表現してくれました」 

 今大会の期間中に狩野倫久監督が言っていたように、選手たちはこの悔しさを乗り越え、新たなスタートラインに立つ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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