人気ゲーム「艦これ」 なぜ10年も続く
アニメなども展開している、DMM.comの人気ブラウザーゲーム「艦隊これくしょん―艦これ―」が、サービス開始から10周年を迎えました。基本利用料無料(アイテム課金)の競争はスマホゲームを中心に激しく、かつての人気作でも淘汰(とうた)される時代ですが、「艦これ」はなぜここまで続いているのでしょうか。
◇ツイッターのフォロワー数は100万超え
「艦これ」は、大和や武蔵、雪風などの艦艇を美少女化したキャラクター「艦娘(かんむす)」を集めて育成、艦隊を組み、敵と戦うシミュレーションゲームです。
2013年にサービスが始まると、ゲームファンの間で話題になって人気が爆発し、一時期は新規登録ができないほどでした。公式ツイッターのフォロワー数は約118万で、2年前に社会現象化した「ウマ娘」(約152万)にこそ及ばないものの、「ラブライブ!」(約110万)や「グランブルーファンタジー」(約102万)を上回っていることからも、人気ぶりがうかがえます。
◇説得力のあるキャラ設定
「艦これ」のサービスが始まる2013年より数年前から、戦国武将や英雄などを美少女化するコンテンツが次々と登場し、いわゆる擬人化・キャラの美少女化が注目を集めていました。本来無骨な艦艇を美少女化した「艦これ」もその流れにあるといえます。では、なぜ「艦これ」は、長期にわたってサービスを持続できているのでしょうか。
一つ目の理由は、バリエーションに富んだキャラの見た目の可愛さに加え、背景・設定がしっかりしていたこと。キャラのセリフ一つをとっても、モデルとなる艦艇のエピソードなどが巧みに反映されていて、存在感に説得力があることです。そして制作側は設定の詳細についてあまり語らず、想像の余地を残したことも、ゲームファンの心をくすぐったといえます。さらに、艦艇について知ることで、現実の艦艇を見たときに知識があるゆえに愛着がわき、ゲームへのロイヤリティー(忠誠心)につながることは想像できます。
もちろんアニメ化などのメディア展開が、ゲームの人気の後押しをしたのは間違いありませんが、元にあるゲームの強さがあってこそです。人気になるゲームはキャラのインパクト、可愛さがあるものですが、「艦これ」には、そこにプラスアルファがあったといえるでしょう。
◇シンプルながら奥深いゲームシステム
二つ目の理由は、ゲーム自体が面白いことでしょう。システムはシンプルでありながら奥深いのです。
プレーヤーは原則6隻(イベントなどでは最大12隻も)で艦隊を編成し、「進軍」と「撤退」こそ選べますが、操作時のテクニカルな指さばき、瞬間的な判断は求められず、じっくり考えられます。その代わり、ターゲットにする敵を選べず、強力な攻撃が出るかもやってみないとわからず、ただ見守るだけです。運に左右されるのは確かで、さらに自身のキャラに無理な進撃をさせて敵に倒されてしまうと「轟沈」し、二度と復活しません。
ただし運に左右される要素があるからこその「面白さ」があります。野球やサッカーの監督のような立場といえば、理解しやすいのではないでしょうか。そして勝利の確率を少しでも高めるため、準備が重要になるのです。
まずステージの特性を踏まえ、艦艇の種類、キャラのレベル、能力などさまざまな要素を考慮して誰を起用するか。編成の順番、装備などで結果がガラリと変わります。強敵が立ちはだかる期間限定イベントでは、自分の艦隊の実力を判断して、難易度を落とす、レベル上げをするなどの対応を迫られる必要もあります。逆に、強敵を相手に試行回数を増やしてイチかバチかの突破を目指す作戦もありでしょう。
さらに言えばゲームの仕組みの基本的な説明はあるものの、判然としない部分もあり、それゆえ手探りになることもあります。熟練プレーヤーや有志による攻略・分析サイトも充実していますが、自分の艦隊の力量を踏まえて、臨機応変に変えることも必要です。手ごわいゲームを求めるプレーヤーの要望に応えているともいえます。
◇課金を避けるよう促す文言も
三つ目の理由は、ユーザーに配慮した課金システムです。
多くのスマートフォン用ゲームは、ガチャを活用して、課金を促す仕組みになっていますが、「艦これ」は、課金を避けるように促す文言があったりします。実際、無課金でかなり遊べるのです。
では「どこで課金を?」と言えば、基本的にゲームにかなり熱中してから、より快適に遊ぶためにする形でしょうか。具体的には、修理時に必要なドックの数を増やす、キャラの装備枠を一つ増やす「補強増設」、キャラの限界レベルを引き上げる「ケッコンカッコカリ」などです。いずれにしても、10年前は、今よりも課金に対する忌避感がありましたから、運営側から「(無理な課金を)避けてほしい」と明言するのは、ユニークでした。
なおイベント時には、新キャラやレアなキャラも手に入りますが、出撃を繰り返して敵を倒す……という「ゲームをきちんと遊ぶこと」が求められます。課金だけにものを言わせることが難しいのです。
ビジネス視点であれば、新キャラと課金(ガチャ)をもっと連動させる方が得策なのですが、そうなっていないのです。多くのスマホゲームは「いかに収益を上げるか」という方向性があるのですが、「艦これ」は、課金はほどほどでよいから、長く遊んでほしい……という、一貫した“哲学”を感じます。
近年は豪華なグラフィックを押し出すスマホゲームが増えています。その中で人気になるには、そのゲーム(商材)が時代の消費者が求めるものかという要素もあるのは確かですが、まずはゲームそのものが面白いこと。かつキャラの魅力が立っているか。ファンを楽しませる運営ができているか。その重要性を示唆しています。
◇ゲームの知識 現実社会の学びに
「艦これ」を遊ぶほど、モデルとなった艦艇に詳しくなっていきます。これは「信長の野望」で大名の名前、旧国名を覚えたり、「桃太郎電鉄」で地名や特産品に詳しくなるのと同じことで、現実社会の学びになります。
例えば「艦これ」をある程度プレーした後で、広島県呉市にある「大和ミュージアム」に足を運ぶと、見る世界がガラリと変わります。「艦これ」のファンと思われる人たちが、呉や横須賀、舞鶴などに足を運んでいるSNSをよく見かけますが、興味を持つことで、日常に刺激が生まれているのです。気になって自ら調べると、新しいことも、どんどん分かってくるでしょう。
つまり「艦これ」はゲームの枠だけではなく、艦艇という世界を通して、現実とうまく溶け合っている面があります。「ウマ娘」は競走馬、「Fate/Grand Order」は歴史上の英雄といったように、人気ゲームの中には、現実の知識をゲームの中にアレンジしながら取り込んでいて、ゲームにとどまらない楽しみ方を提供している面があります。
優れたコンテンツにとってネックの一つは、長期のプレーによる「飽き」です。それを食い止めるためにも、現実の知識と溶け合っておくのは、「飽き」の防止、そして「復帰」の布石として、有効と言えるのではないでしょうか。
「艦これ」は、多い情報量や操作を考えると、PCのプレーが適していると思いますが、スマートフォンなどでも遊べます。また10周年に合わせて、三越とタイアップ企画を実施しています。まだまだ元気な「艦これ」が、今後もどうなるのか注目です。