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藤井聡太竜王(22)竜王戦七番勝負開幕戦で勝利 挑戦者・佐々木勇気八段(30)に終盤で競り勝つ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月5日・6日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において、第37期竜王戦七番勝負第1局▲藤井聡太竜王(22歳)-△佐々木勇気八段(30歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。


 5日9時に始まった対局は6日18時32分に終局。結果は117手で藤井竜王の勝ちとなりました。藤井竜王は4連覇に向けて、幸先よく1勝をあげました。


藤井「一手一手が本当に、非常に難しい将棋で。ずっと、急所がつかめないまま指していたという感じで。非常に難解な一局だったのかなというふうに感じています」「本局も難しい将棋の中で、一手一手考えることができて。自分としても、充実感のある時間を過ごすことができたので。また第2局以降は先後が決まっての対局になるので。しっかり準備をして、面白い将棋が指せるようにまたがんばっていきたいと思います」


佐々木「途中はちょっと苦しくて、大盤解説までもつかなっていうところもあったんですけど(笑)。終盤はいい勝負にできたかなっていう部分もあって。でもなんかそこでやっぱり、終盤の距離感というか、終盤力の差が出てしまったかなというふうに思います。言葉は正しいかわかんないですけど、このタイトル戦、初めての一局になったんですけど、まあ、楽しかったので(笑)次もがんばりたいと思います」


 第2局は10月19日・20日、福井県あわら市「あわら温泉 美松」でおこなわれます。

佐々木八段、タイトル戦初陣


 佐々木八段にとっては本局、タイトル戦番勝負で指す始めての一局でした。

佐々木「まずこれだけ多くの方々に将棋を見ていただく機会は本当になかったので、自分としては本当、嬉しいことです」

 振り駒の結果、第1局は藤井竜王が先手。戦型は角換わり腰掛銀に進みました。


 42手目。後手の佐々木八段は自玉に近い3筋から歩を突っかけ、守りの銀を前線に押し上げて、積極的に動いてきます。

佐々木「やってみたい形の一つではあったんですけれど」

藤井「△3五歩(▲同歩)から△4四銀と出られて。こちらも手が広い局面かなとは思ったんですけど。本譜は少し穏やかな感じで。ちょっと角換わりというより、相掛かりのような展開になったんですけど。ちょっとなかなか急所がつかみづらい将棋になったのかなというふうに感じていました」

 佐々木八段が8筋、飛車先の歩を交換してきたのに対して、57手目、藤井竜王は8筋ではなく、6筋に歩を打ち、こちらを補強します。

藤井「▲8七歩と打たずにちょっと突っ張ってみて。ただ、そうですね。こちらもその、△8七角とか、△8七歩とか、気になる筋がいろいろあるので。きわどい局面かなというふうに思っていました」

佐々木「本譜、▲6七歩って打たれた手が、プロ的にはけっこう強い手というか。長考したんですけど、一手しか指せないので。△8七歩とか△8七角とかが有力だった気はしたんですけど。でもなんか、厳密には割り切られてるイメージがあったので。でも、ただ、ちょっと▲6七歩を、先手を持っては指し切れないぐらいの難しい変化が潜んでた気がしたんですけど。実際指されてみると、どうやって一局にするのか。第3の手が必要だった気がするんですけど、それがなんだったのか、思い出せなかったですね」

 ここで1日目の昼食休憩に。本局では終始、佐々木八段の健啖ぶりが話題となりました。


 佐々木八段は昼食休憩をはさんで長考の上、じっと3筋に歩を打ち、渋く自陣のキズを消しました。


 序盤である程度までハイペースで進め、そのあとは時間を使い合うのが現代調の進行です。1日目午後はスローペースで進み、62手目を佐々木八段が封じることになりました。

佐々木八段、崩れずついていく


 明けて2日目。佐々木八段の指し手は、あたりになっている銀を常識的に逃げる手でした。問題はこの次。藤井竜王は9筋の歩を突っかけて揺さぶりました。佐々木八段にとっては、想定外だったようです。

佐々木「封じ手の局面は、△3三銀に対して▲7七桂を本線に考えていて。本譜の▲9五歩から▲7七銀という手順が全く見えてなかったので。そこで一本取られたなというか。ちょっと形勢を損ねたなって思ったんですけれど」「封じ手のあたりから藤井竜王にいい手を指された気がしていて。ずっと感心する順を指されていました(会場笑)。封じ手の局面、一晩考えたんですけど、全く考えてない手を指されて焦りましたね」

 69手目。藤井竜王は自陣6筋に角を据えます。佐々木陣の左右両翼をにらむ、好点の角打ちでした。

佐々木「▲6六角って打たれたところは、先手の手の流れがすごいいいので。そこで△7五歩だと自信なかったので。そこが一番差が開いてるような気がしていて」

 コンピュータ将棋ソフト(AI)が示す評価値を見れば、ほんのわずかに藤井竜王よし。しかしそれほど離れているわけではありません。佐々木八段は崩れることなく指し進めていきます。

佐々木「苦しい局面で(74手目)△8七歩から△2四角とか指せたのがよかったかなって思ったんですけれど。でもなんか、終始先手にうまく指されていて。こちらがちょっと見切られちゃうというか。なんか一局に見えそうで、やっぱり、じっくり考えてみると苦しい将棋だったかなっていうふうに感じました」

 佐々木八段は1日目昼と2日目昼にビッグハンバーガーを2回続けて頼んでいます。また1日目の午前・午後、そして2日目の午前・午後とシューパリジャンの4連投も決めています。


 このあたり、佐々木八段の天真爛漫な人柄が表れているようです。

藤井竜王、競り勝って先勝


 97手目。藤井竜王は佐々木陣右隅の香を取って、角を成り込みます。形勢は、ほんのわずかに藤井よし。このあたりから大きく駒が振り替わり、一手を争う終盤戦に入りました。

 105手目、藤井竜王は7筋の桂取りに歩を突き出します。持ち時間8時間のうち、残りは藤井1時間3分。佐々木7分。佐々木八段は寄せ合いに出るか、それともいったんと金を取って受けに回るか。

佐々木「本譜、終盤は、もしかしたらいい勝負か、ちょっと指せるかもしれないなと思ったんですけれど。一局通してずっと受身だったので、どっかで反撃したいなと思って」

 106手目。佐々木八段は6筋に歩を打って寄せ合いに出ました。結果的にはこの判断が敗着となったようです。互いに駒を取りながらと金を作り、相手玉に迫る形となりましたが、藤井玉に一手余裕のある最終盤となりました。

 114手目、佐々木八段は相手の香が利いていて、タダで取られるところに桂を打ちます。いかにも佐々木八段らしい才気あふれる勝負手。対して藤井竜王は桂を取らず、自陣に桂を打つ好手で応えます。

藤井「ずっと、ちょっとよくわからないまま指していたので。最後、▲1七桂(△同桂成)から▲3三金という手順を見つけて、勝ちになったかなと思いました」

 117手目。藤井竜王はタダで取られるところに金を打って、王手をかけます。佐々木玉はこのあと必然の手順で必至に追い込まれる一方で、藤井玉は詰みません。佐々木八段がここで投了し、終局となりました。

 どんな時間設定でも強い藤井竜王。特に2日制のタイトル戦ではつけ入るスキがほとんどないように思われます。結果はトータルで53勝10敗(勝率0.841)となりました。


 藤井竜王の今年度成績は19勝5敗(勝率0.792)となりました。

 あと1勝で定位置の勝率8割台となります。


佐々木八段、巻き返しなるか

 本局から3日後の10月9日。佐々木八段は王将戦リーグで広瀬章人九段と対戦。結果は広瀬九段の勝ちとなりました。

 公式戦10連勝と絶好調だった佐々木八段は、ここにきて3連敗となりました。

 竜王戦七番勝負は、まだまだ始まったばかり。佐々木八段はハードスケジュールの中、巻き返すことはできるでしょうか。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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