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党を批判したとして編集担当者を解雇――中国「南方都市報」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
IT化時代の情報発信を警戒して言論弾圧を強化する中国(写真:ロイター/アフロ)

2月20日にリベラルな報道で知られる中国の「南方都市報」が党を批判し習主席の重要講話を風刺する見出しを付けたとして、3月1日、編集担当者が解雇され副編集長にも厳重処分が下った。言論弾圧を強める中国の実態を追う。

◆抵抗を示した「南方都市報」

2月25日付の本コラム「メディア管理を強める中国――筆者にも警告メールが」に書いた通り、習近平国家主席は中国共産党の総書記として、2月19日、人民日報社、新華社、中央テレビ局を視察し、「党の新聞世論工作座談会(中国共産党メディア世論活動座談会)を主宰したあと「重要講話」を発表した。

翌2月20日の中国の新聞は、いっせいに第一面に視察をした時の習近平の写真とともに、この「重要講話」を載せた。

ところが一つの新聞だけ違っていた。

それが常にささやかな抵抗を示し、リベラル傾向を持つ「南方都市報」の深セン市版だった。

そこには以下の見出しがあった。ここでは日本文字で書くが、実際の見出しはウェブサイト「文学城」「アップル・デイリー」などをご覧いただきたい。

党和政府主弁的媒体 (党と政府が主宰しているメディアは)

是宣伝陣地必須姓党 (宣伝の陣地で、党という姓でなければならない)

の下に

魂帰

大海

という文字がある。 

各行の右端の2文字だけをつなげると「媒体姓党 魂帰大海」と読める。

つまり「党という名前を持つメディアの魂は死んでしまった」という意味となる。

おまけにこの見出しの下には、海に散骨している写真がある。これは1月末に99歳で他界した、深セン招商局の元常務副董事長・袁庚の家族が行なった葬式の場面だ。深セン市の新聞が深センの改革開放に貢献した人物の鎮魂の場面を載せるのは、一見自然なように見える。

最初は誰もこの「風刺」に気がつかなかったのだが、香港の「アップル・デイリー」が「異変」に気がついた。これは南方都市報の抵抗にちがいないと報じたのだ。

すると当局があわてて反応し、すぐさまウェブサイトにおけるこのページを削除し、「南方都市報」広東省版の第一面に差し替えられた。

◆編集担当者の解雇と副編集長に対する厳重処分

その結果、3月1日、編集担当者の劉玉霞氏(女性)は解雇処分となり、副編集長の王海軍氏は「大過」という行政処分を彼の履歴の中に記録するという処分を受けた。

「中華人民共和国公務員法」の第五十六条には、行政処分として「警告、記過、記大過、降級、辞職、解雇」がある。

王海軍・副編集長は見出し決定には(直接的には)関わっておらず、監督不行き届きであったとして「記大過」(大きな過誤を記録する)という処分に留まった。

しかし直接この「風刺的な見出し」を書いた劉玉霞・編集担当者は、最も重い「解雇」になったのである。

全世界の中文メディアが一斉にこの事件を報道しているが、たとえばイギリスのBBC中文版は「“重大な事故”を招いたとして編集者を解雇」という見出しでこの事件を報道している。

これは「事故」なのだ!

アリババの馬雲氏が買い取った「南早(南華早報)」(早報:朝刊)も、「これは事故だった」と謝罪している南方都市報の謝罪文(南字「2016」5号)を載せている。

謝罪広告の名義は「中共南方報業傳媒集団委員会(中国共産党南方報道業務メディア・グループ委員会)」だ。

中国のすべての組織に存在する「中国共産党○○委員会」の中の一つである。

◆文字獄

大陸のネットには当初、「文字獄」というコメントが数多く見られたが、今ではほぼ削除されている。

それにしても習近平政権はなぜここまで言論弾圧を強化しているのか?

それは若者たちのほとんどが中国共産党を信じなくなり、ネット社会の発展に伴い、より多くの交信ツールを使用して自由に意見交換や情報の取得をすることができるようになったからだ。

一定程度の経済力を持ち始めた層も多くなり、権利を主張するようにもなっている。

2月29日付けの本コラム「中国著名企業家アカウント強制閉鎖――彼は中国共産党員!」に書いたように、「資本翻天派」(企業経営者などとして大量の資本を集めたのちに、その資本を用いて政権に影響を与え、欧米型の「憲政の道」を歩ませようと世論を導いていく一派)という群像も生まれてきている。

「銃とペン」により人民をコントロールしてきた中国共産党政権だったが、「ペン」の力はIT化が進んだ世界では、もはやコントロールはできない。自由と民主を奪われた人々が、その「奪われたもの」を求める渇望は大きい。人は奪われて初めて、その重要性が分かるのではないだろうか。

中国共産党による一党支配体制は、経済的によりも、「精神的に」限界に来ているのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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