原油価格がマイナス化した意味、国内ガソリン価格への影響は?
4月20日のNY原油先物市場では、受け渡し期間が最も短い期近物である5月限が、マイナス価格を形成している。取引時間中の安値は1バレル=マイナス40.32ドルであり、終値でもマイナス37.63ドルとなっている。原油先物市場の歴史上、マイナス価格の実現は初めてのことである。
NY原油先物5月限5分足
(画像出所:CMEウェブサイト)
原油には価格が付いており、通常であれば買い手が売り手に対して代金を支払うことで、原油を確保することが可能になる。例えば、4月17日終値は18.25ドルだったが、これは「買い手が保有するドル」と「売り手が保有する原油」の交換レートが、1バレル=18.25ドルだったことを意味する。では、「マイナス原油価格」はどのような状態かと言えば、売り手が買い手に対してドルと原油を渡すことで、買い手に引き取ってもらう状況になる。マイナス37.63ドルであれば、原油1バレルについて37.63ドルを支払うことで、買ってくださいという完全な買い手市場になっていることを意味する。
常識的に考えれば、このような売買を行う必要はないが、現在のNY原油先物の置かれた特殊な需給環境が、マイナス価格を実現させている。新型コロナウイルスの影響で移動規制が行われる中、輸送用エネルギー需要が大きく落ち込み、在庫が急増している。特にNY原油先物5月限は4月21日が取引最終日だが、現物の受け渡しが行われるオクラホマ州クッシング地区は貯蔵能力の限界に近付いており、売り手は在庫を捌きたい一方、買い手は価格がいくら下がっても在庫を貯蔵する能力を有していない状況になっている。これが海上付近であれば、タンカーによる一時保管といった選択肢もあるが、クッシング地区ではその選択肢はない。
では、シェールオイルの減産を進めれば良いではないかとなるが、話は単純ではない。現在が新型コロナウイルスの影響で需要が一時的に大きく落ち込んでいるだけであれば、年後半に向けて需要は回復に向かう。仮に生産を一時停止すると、再開した際の操業効率は著しく低下することになり、原油安で一時的に収益が悪化しても操業を維持したいとのニーズがある。また、石油各社は当然にヘッジ売りで将来の売却価格を固定しているため、仮に足元で原油価格がマイナス化しても、直ちに減産を行う必要性は高まらない。将来的には、石油産業に対する投資の減少、人材確保難など大きな問題が生じる可能性があるものの、当面のシェールオイルの減産は緩やかなペースでしか進まないことになる。
そもそも、「マイナス原油価格」が実現しているとは言え、これはNY原油先物の5月限に限定された動きである。6月限以降は20ドル台という安値圏ではあるが、プラスサイドを維持している。また、北海ブレント原油、中東産ドバイ原油など他の油種では、期近物でも「マイナス原油価格」は実現していない。このため、主に中東産原油を原料とする国内のガソリン価格も、NY原油先物の「マイナス原油価格」とは無縁であり、緩やかな値下がり傾向に留まることになる。