数字のマジックに気をつけよ
基礎的な数学が産業にとって、いかに重要であるか、「『サイン、コサイン何になる』に真摯に答えよう」(参考資料1)で紹介してきた。基本的な数学を身に付け、数字が意味するものを正確にとらえていなければ、企業の進むべき道を見失う。特に企業の成長を数字で表現する場合はなおさらのこと、数字の持つ意味をじっくり考えてみる必要がある。
日本の電機産業の多くは、リーマンショック前の売上額にまだ達していない。リストラを進め利益は出るようになったものの、売上がいまだに伸びていない、すなわち成長していないのである。この原因はいろいろあるが、成長する産業を成長しないと見誤ったことが最も大きいように見える。その典型例が半導体産業である。
半導体市場(半導体メーカーの売上額)は、対数スケールで表現するか、正規スケールで表現するかによって全く異なる。図1と図2を比べてみよう。対数スケールで表した図1を見ると、もはや成熟産業でいずれ停滞してしまう産業に見える。しかし、図2のように正規スケールで表せばまだ成長しているように見える。電機産業の経営者は半導体産業を図1のような対数スケールでみていたのである。この二つのグラフの数字は、WSTS(世界半導体市場統計)から拾ったもので、全く一緒である。違いは対数スケールか、正規スケールかだけである。
図1だけを見ていると、半導体産業は成熟し、もはや成長しないように見える。半導体産業は1995年ごろまで、年率20%という驚異的なスピードで成長していた。半導体産業界では、ムーアの法則としてごく当たり前の経済現象ととらえていた。このため1995年ごろからの5~6%成長は鈍化あるいは飽和、と映っていた。電機企業の経営者は半導体がダメになったから半導体部門を切ってしまえとばかりに本体から切り離した。ところが、半導体を切り離したはずのリーマンショックの後からは利益は減り赤字に転落、売り上げは下がる一方、という状況が明確になり、電機本体がダメなことにようやく気が付いた。
これに対して通常のスケールで表した図2のグラフは着実に成長していることが読み取れる。つまり半導体産業は着実に成長していることに気が付かなかったのである。2010年に「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」という本(参考資料2)を出版した時、すでにこの傾向が見えていたから、警告する意味でこの本を書いた。しかし、この本は正直言ってあまり売れなかった。電機企業の経営者は半導体部門をどんどん手放していった。今や、グーグルやマイクロソフト、テスラ、アマゾン、アップルなど、今最先端を行く高い時価総額の企業が自分の半導体チップを持ち、他社を寄せ付けないように差別化している。日本が半導体を手放してダメになった状況と対照的だ。
この様子は、数字の意味を理解していれば納得がいく。図1の対数表示は、等比数列で表しており、図2の正規スケール表示は等差数列で表していると読める。等比数列とは、成長率を表す、パーセントで表記する。例えば、20%成長なら、1.0の次は1.2、その次は1.44、さらに1.73、2.07、2.49、2.99、3.58、4.30へと増えていく(図3)。その各数字の差は、0.2、0.24、0.29、0.34、0.42、0.50、0.59、0.72とどんどん広がっていく。
これに対して、等差数列的な成長は、1.0の次は1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6となる。どちらも成長しており、飽和傾向は見えない。等比数列は急成長、等差数列は着実な成長と表す。
半導体の成長は、図2を見るとやはり着実に成長しているとみるべきだろう。電機の経営陣はこれを成長が止まると判断したのだ。だから大きな間違いを犯し、道を誤ったのである。では、今はどう見えるか。2017年は直線的なこれまでの伸びよりも飛びぬけて大きな成長をしており、バブル的と言わざるを得ない。それもメモリだけが前年比で60%も成長したのだから、メモリバブルとした(参考資料3)。
(2018/05/14)
参考資料
1. 『サイン、コサイン何になる』に真摯に答えよう、2018年5月10日