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浜辺美波がドラマ『私たちはどうかしている』で見せる戦慄的な魅力 清純派に留まらないその底力

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

コマーシャルでとにかくよく見かける浜辺美波

浜辺美波は気になる役者である。

コマーシャルでよく見かける。

星野源と長谷川博己と一緒にでているやつ、有村架純に「おねえちゃん…」と声かけるやつ、竹内涼真と食事作ってるやつ、化粧品のもの、洗顔剤のもの、コンタクトレンズのもの、着物姿で艶然と立ってるもの、チョコレートを食べてるもの、ちょっとおもいだしてみるだけで次々と浮かんでくる。それぐらいコマーシャルに出ている。

ドラマにもそこそこでているが、テレビではコマーシャルの印象のほうが強かった。

いま日テレ系水曜ドラマ『私たちはどうかしている』の主演で、インパクトのある役どころを演じている。

ドラマでは、過去の愛憎劇の真相を探ろうと老舗の和菓子店で働き、憎いとおもっていた店の若旦那(横浜流星)に近づいていく。芯はまっすぐだが、ひとくせふたくせある役どころである。

「ドロドロした展開」を見せるドラマだ。

とはいえ、かつての昼ドラや大映ドラマのような粘着性はなく、そのへんは令和らしく少し柔らかくなっている。ドロドロした部分は、観月ありさが一人でしょって立ってる感じである。

浜辺美波の役どころは、和服姿のことが多く、胸にいくつものことを秘めているから、かなり妖しい雰囲気を出すことに成功している。いままで屈託のない少女役が多かったが、少しキワモノじみた妖しい役を演じ、これが見事に似合う。

『私たちはどうかしている』が展開するドロドロ愛憎劇の浜辺美波

ドラマは「とても古いパターンの物語」を見せている。

15年前に殺された和菓子屋の旦那をめぐる愛憎劇と、それぞれの「血縁」に関しての謎が物語の中心にある。

古さでいえば、20世紀的でさえなく、きわめて19世紀なロマンスの香りがする。

落語だと三遊亭圓朝(1839-1900)がこういう因縁ものをこしらえるのが得意だった。

『私たちはどうかしている』でも、惹かれあってる二人がじつは兄妹ではないか疑われるシーンがあり(そうではないようだったが)、19世紀的な(徳川時代ふうの)の因縁ものを見てる気分になった。

その古風な世界観を強く支えているのが観月ありさである。

彼女は老舗和菓子屋の女将であり、横浜流星の母として前半ではヒロインをいびる役どころだった。観月ありさは顔の持つ力が強く、迫力が尋常ではない。

いびられる浜辺美波は、それに耐える健気さを見せるが、ただのやられっぱなしではなく、しっかり「あざとさ」も持っている。

反撃の意志を見せた浜辺美波の強い表情は、きわめて魅力的である。

冷たさを心の中に抱くとき、浜辺美波はすさまじい美しさを見せる。

ちょっとキワモノ的である『私たちはどうかしている』に主演している姿を見ていると、おそらく浜辺美波は2020年代を代表する女優になっていくのだろうな、と感じてしまう。

浜辺美波は、清純派女優でもある。恋愛もののヒロインとして活躍する正統派美人女優ということもできる。

浜辺美波のめんまが鮮烈だった『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』

彼女をドラマで見ていたのは、『僕のいた時間』や『まれ』あたりからであるが、強くその存在を意識したのは2015年の『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』の実写ドラマからである。

めんま(芽衣子)の役だった。

この物語のキーになる登場人物で、小学生のときに死んでしまったのに、死んだあとも成長して十代半ばになった霊の役である。

2011年に放送され、カルト的大人気だった深夜アニメの実写化である。

死んだけど成仏してない「めんま」は、仲間内のじんたん(村上虹郎)にしか見えず、ほかの仲間たちは、どうしておれたちには見えないんだということで悩み、めんま自身も、どうしてだろうね、と不思議がっている存在で、つまり「霊」ではあるが、みんな、その姿を見たいと切望されている存在で、この設定の妙が、原作アニメが名作となったゆえんであったのだが、この浜辺美波演じるめんまは、そのアニメに迫る「きちんと見てる者の胸に強く突き刺さる存在」だった。(アニメと髪の毛の色が違っていても、そこはそれでよかったと私はおもっている)

2017年には映画『君の膵臓を食べたい。』のヒロイン役を演じ、これも心に残る役どころだった。

どちらも儚い美少女の役である。

屈託なく笑う明るい女の子なのだが、すでにもう身近にはおらず、「人の記憶のなかにある美少女」を演じていたのだ。

十代半ばの浜辺美波には、そういう役がとても合っていた。

透明感の強い役どころで(『あの花』では存在そのものが透明的であるが)、見てる人みんなに清冽な印象を残す正統派美少女という存在である。

ギャンブルに強い女子高生を演じ戦慄的な美しさを見せた浜辺美波の『賭ケグルイ』

でもそのあと、浜辺美波は「キワモノ」感の強い役も演じるようになる。

2016年のドラマ『咲-Saki-』に主演、役どころは「麻雀の強い女子高生」だった。

いちおう高校の「麻雀部」の活動なので、青春学園ものの要素はあるのだが、やはりメインは麻雀競技にあり、麻雀の強い女子高生というのは、そこそこのキワモノ感がある。続編は映画になった。

さらに二年後2018年にはドラマ『賭ケグルイ』で主役ヒロインを演じる。

これまた高校を舞台にした「ギャンブル」のドラマだった。

じゃんけんや神経衰弱やインディアンポーカーなどに手を加えた新たなギャンブルで勝負するものだった。だいたい女子高生同士で対決する。

そこで圧倒的強さをみせる主人公・蛇喰夢子(じゃばみゆめこ)を演じて、浜辺美波の存在感は尋常ではなかった。

もともとは高校内での階級を上げるための戦いのはずが、何度も命懸けのギャンブルとなり、森川葵や松田るか、中村ゆりかなどの異能ギャンブラーと対決する。

浜辺美波はヒロインだから腹の据わりぐあいが頭抜けており、常に冷静に対処して、勝ち続ける。

大勝負に集中したときの浜辺美波の表情は、強さと冷たさに満ちており、演出とあいまって、見てる者を戦慄させる美しさを見せた。

キワモノのきわみのような役どころであるが、だからこそ、浜辺美波が演じると凄まじい存在感でまわりを圧倒していった。

この女優は、内に秘めた強さと冷たさを出させたら、世界を覆うほどの気迫を見せられるのだ、と驚いた。

それでいて、ふつうの笑顔になると、屈託のない女子高生らしく、かわいらしい。

この二面性こそ、彼女の秘める底力を現しているのだと強くおもった。

清純派でありながらキワモノ的でもある浜辺美波の圧倒的魅力

そのあとドラマでは2018年『崖っぷちホテル』に出演、2020年2月には『アリバイ崩し承ります』に主演もした。

これはどちらも「明るく屈託のない少女」のほうの浜辺美波である。

『崖っぷちホテル』は岩田剛典と戸田恵梨香に加え、りょう、渡辺いっけい、鈴木浩介、中村倫也などの錚々たるクセの強い役者に囲まれ、芯の強い若いパティシエ役をこなした。

『アリバイ崩し承ります』は名探偵コナンのコナンくんのような役どころで、本業は時計店だが、刑事に頼まれ、いろんな「アリバイ崩し」をきっかけにいろんな難事件の真相を明かす名探偵的な役どころだった。ただ彼女は5千円だけもらって推理する係で、手柄は知り合いの刑事(安田顕の演じる管理官)がすべてもっていくという話。そういう意味ではとても軽いドラマだった。

このドラマ二作は、どちらも「愛敬ある少女」というふうな役どころだった。清純派女優が受け持つ役である。

ただ、彼女は、その手の役だけでは終わらない。

いくつかのキワモノな役を見てるとよくわかる。

そして、その流れのなかで今回の『私たちはどうかしている』がある。

浜辺美波はドラマ『私たちはどうかしている』でその魅力を全開にしそうである

お話は19世紀的だから、21世紀的な「わかりやすいキャラクター」を期待して見てるとちょっと違ってくる。

そのぶん、清純派的な「芯が強くがんばる女の子」と、キワモノ的な「因縁的な愛憎にこだわるキャラ」の両面を浜辺美波は演じており、演じるのはたぶんどんな女優さんだってやれるとはおもうけど、そのどちらもとんでもなく魅力的というところがすごいのだ。

「きらきらしてあったかくなるやさしい少女」と、「見つめられると胴震いしそうな戦慄的な美少女」をどちらも演じ、つまり朝日が似合う健康的な少女と、暗闇から突き刺すような視線で見つめる美少女とを演じ、無理を感じさせない。そこが浜辺美波の圧倒的な力であり、このキワモノ的ドラマ『私たちはどうかしている』だからこそ見られる二面性なのである。

少し古い感じがするドラマだが、だからこそ『私たちはどうかしている』の浜辺美波から目が離せないのである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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