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#異次元の少子化対策、賛成派の研究者が #高校生扶養控除縮小反対 の理由 #子育て罰 をやめて!

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
支援と引き換えにいちいち子どもに増税する国に未来はあるのか?(筆者撮影)

財務省が、児童手当と引き換えに、高校生扶養控除(こども増税)を主張し、与党税制調査会が、これを検討しています。私は、当初から、高校生へのこども増税は、異次元の少子化対策を無力化する悪手であると繰り返し警鐘を鳴らしてきました。

署名を立ち上げ、わずか1日半で2万超の署名が集まっています。

さっそく12月7日に公明党税制調査会長の西田実仁(まこと)参議院議員に署名提出予定です。

1.異次元の少子化対策、こども政策・教育政策の研究者(私)が賛成派である理由

今が少子化対策のラストチャンスであるにも関わらず、岸田政権の異次元の少子化対策は、世論調査ではまったく支持されていません。これに対し、私自身は、異次元の少子化対策に示された政策は、合理性が高いと評価し、賛成してきました。

親の就労や所得に関わらず、「全てのこども(若者を含む)」を応援する政策という姿勢を打ち出した点は、自民党政権として画期的です。

児童手当の所得制限撤廃や18才までの延長、こども誰でも通園制度のように全てのこどもへの保育アクセスの保障などを制度として確立しようとしていることは、率直に評価できます(産経新聞6月13日の筆者コメント参照)。

そして異次元の少子化対策の最大のポイントは「こども財源」を、全世代の国民の応援で確立するという点にあります。

財源となる支援金制度には国民の負担増という批判もありますが、高齢者に集中していた社会保障費を、子ども若者への政府投資にリバランスすることで、国民の追加負担を避けようとする努力を岸田総理もされています。

こども基本法の衆議院内閣委員会参考人として、意見陳述した際にも、効果あるこども政策のためには、「財源!財源!財源!」と私も主張した経緯もあり、こども財源の確立に取り組む、岸田政権の努力を評価し、応援しています。

2.「異次元の少子化対策」を台無しにする、高校生扶養控除縮小には反対

一方で、こどもへの支援と引き換えに、自民党税調は財務省・財界の強い意向を浮け、高校生扶養控除の縮小(高校生増税)を行おうとしています。

「控除から手当へ」という二者択一の発想で、少子化を改善できず、かえって悪化させた「民主党政権の悪夢」を、財務省はいまふたたび岸田政権で繰り返そうとしています。

私が、高校生扶養控除縮小(高校生増税)に反対する、理由は3点あります。

(1)少子化対策のインセンティブデザインとして悪手

いくら財務省が、児童手当のほうが高校生増税(扶養控除廃止)を上回りますよ、と強調しても、子育て当事者や若者には届いていません。

高校生扶養控除縮小反対の署名コメントや、子育て当事者の意見でも次のような声が大きくなってきています。

高校二年生の娘がいます。本当に扶養控除の縮小はやめていただきたい。縮小するぐらいなら児童手当いりません。余計なことしないで欲しい。なんで、わざわざお金をかけて配るのか意味がわからない。
署名サイトより:#高校生扶養控除縮小反対 #子育て罰 をやめて! #税制による子育て支援 #こども減税を実現してください

私も大学生たちに、異次元の少子化対策は全ての子ども若者を応援しようとする重要な方針であることを説明するのですが、応援と引き換えに増税してくるなら「応援されている気がしない」と返されてしまいました。

「大阪の吉村知事みたいに、増税なく、高校や大学を全員無償化してくれるなら応援されていることが、ちゃんと伝わる」

これは経済学でいうインセンティブデザインの問題です。

A:児童手当を12万円増やす代わりに、子どもにも増税しますよという国

B:児童手当を12万円増やして、子どもには増税せず、全世代や企業で財源を少しずつ出し合いますよ、という国

みなさんなら、どちらの国で子どもを産み育てたいでしょうか。

(2)子ども・若者にだけ不公平な子育て罰税制が、さらに不公平に

―子ども・若者だけ生存権保障のための扶養控除を削られてきた

課税の重要な原則として、公平性、というものがあります。

有名なのは所得税の累進課税ですが、高所得者であってもケアする老親がいれば扶養控除によって減税されます。

同居する高齢者に対しては58万円分の控除があります。

外国人配偶者の親で海外在住の場合の方に仕送り等をしている場合にも48万円分の扶養控除が利用できるそうです。

なお高齢者は、年金や医療費を、政府予算や国民負担で支援されていますが、子ども若者と違って、では高齢者を増税しましょう(高齢者扶養控除の廃止・縮小)とはなりませんよね。

なぜ全世代の中で、子ども若者だけが、増税で狙い撃ちされるのでしょうか。

日本で生まれ育つ赤ちゃん小中学生(0-15才)には、減税措置(扶養控除)はありません。

民主党政権時代に、子ども手当と引き換えに、0-15才の年少扶養控除は廃止されてしまったのです。

しかも、子ども1人に2.6万円と約束されていたこども手当は、今もせいぜい1.5万円、日本の子どもたちは、ずっと「こども増税」のままなのです。

扶養控除は国民の生存権保障のための仕組みですが、全世代の中で赤ちゃんから中学生までは、唯一、税制により生存権を否定された状態なのです。

今回は、高校生扶養控除を、33万円から25万円に減額する方針とのことですが、高校生扶養控除は民主党政権時代に、高校無償化と引き換えにすでに縮小(高校生増税)されています。

さらに自民党・下村博文文部科学大臣が、高校無償化に所得制限を導入したせいで、多くの世帯が高校生増税となってしまい、やはり子育て罰を受けているのです。

このように、こども増税や高校生増税による子育て罰を経験してきた現在の子育て世代や若者は、高校生扶養控除の縮小は、民主党時代からの「控除から手当へ」の悪夢の再来としか思えない状況なのです。

財務省は民主党政権の悪夢に続き、自公政権でも悪夢を繰り替えすのでしょうか。

(3)高校無償化からの排除という高校生への実害

財務省は、高校生増税(扶養控除縮小)より児童手当のメリットのほうが上回ることを強調していますが、高校無償化から排除される高校生が出現する可能性については、いっさい言及していません。

高校無償化は、市町村民税の課税基準額がもとになっているので、高校生増税(扶養控除縮小)により、今までであれば受けられていた高校無償化が、受けられなくなる高校生が出てくるのです。

特に私立高校無償化の対象となる年収590万円前後の世帯や、高校無償化対象となる年収910万円前後の世帯で、無償化から外れる高校生が出てくる可能性があります。

高校生に生じうる実害について、財務省の試算や、政府対応は今のところ方針は示されていません。

3.少子化改善のために、いま必要なのは抜本的なこどもまんなか税制

-こどもまんなか税制×現物給付×現金給付の三位一体パッケージこそ「真に効果ある少子化対策」

NHK報道では、 与党税調が税制で"子育て世帯を支援”検討、と報道されています。

これはかつてなかった動きであり、子育て当事者として、希望も感じています。

また、NHK報道では与党内でも高校生扶養控除縮小への反対意見も強いことが把握できます。

いまの(高校生)扶養控除の制度を維持すべきだという意見も出ていて、政府・与党は扶養控除の取り扱いも含めて子育て世帯を税制面でどう支援していくか丁寧に議論を進めることにしています。
※NHK「来年度税制改正に向け “子育て世帯を支援”検討へ 政府・与党」(12月5日)

研究者として、継続して訴えてきたのは、こどもまんなか税制×現物給付×現金給付の三位一体パッケージこそ「真に効果ある少子化対策」となる、ということです。

-こどもまんなか税制(0-15才の年少扶養向上復活・拡充、16-18才の高校生扶養控除の拡充)で、子どもを産むと家計の手取りを増やし、

-現物給付(出産無償化、所得制限のない教育・保育無償化)を、全ての子ども若者に保障し、

-現金給付(児童手当・児童扶養手当による再分配)を、中所得層低所得層にしっかり行う

こども減税(子ども若者の扶養控除の復活・拡充)も、現金給付も、ということまでは求めていない、子ども若者自身が応援される現物給付が充実するなら、児童手当などの現金給付は中所得層や低所得層に手厚くする方が良いのではないか、と冷静に指摘される子育て当事者もいます。

財源は、少子化対策で注目されるフランスを見習って全世代や企業の負担とともに、全ての世代からの所得累進課税の強化や、金融資産課税なども想定されるでしょう。

私自身も、子ども若者や子育てする家族が「国から応援されている」と実感できる国家に進化するために、国民として必要な負担はしていくつもりです。

こどもまんなか税制×現物給付×現金給付の三位一体パッケージにより、子育て罰は日本からなくなり、「子育てボーナス」が若者や子育てする家族にも明確に意識されることになるからです。

その基盤は、やはりこどもまんなか税制です。

自公税調会長に提出予定の署名・要望書でも、少子化改善のために、いま必要なのは抜本的なこどもまんなか税制でありその実現のために、ご尽力いただけないかお願いしています。

以上、異次元の少子化対策に賛成派の研究者(私)が 、高校生扶養控除縮小(高校生増税)反対の理由を述べてきました。

少子化は我が国最大の国難です。

国をあげて、税制からこそ子ども若者、子育てする家族を応援すべき時ではないでしょうか。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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