日本における戦後の上水道普及率の変遷をさぐる(2020年公開版)
戦後まもなくは3割に届かなかった上水道の普及率
多くの人にとって日常生活に欠かせないインフラ、上水道。公衆環境の整備の指針の一つとなる上水道の普及率の推移を、厚生労働省の水道対策に関する政策関連資料「水道の基本統計」から確認する。
最初に示すのは、上水道の普及率推移。水道事業者によって水道の供給を受けている人、専用水道(寄宿舎や社宅などの自家用水道などで100人を超える居住者に給水するもの、または1日最大給水量が20立方メートルを超えるもの)利用者で構成される給水人口が、全人口の何%に当たるかを示したもの。
上水道が完備されている環境で生まれ育った人には不思議、あるいは意外に思えるかもしれないが、戦後直後の1950年では普及率は26.2%でしかなかった。おおよそ1/4程度にしか社会インフラとしての上水道は提供し得なかったわけだ。それが1960年代になってようやく過半数に届き、1970年代で8割、1980年代で9割に達する。
他のインフラや耐久消費財などと同じように、9割を超えたあたりから普及率の伸びは大人しいものとなるが確実に上昇の動きは継続。直近の2018年度では98.0%に達している。後述する事情などで100%となるのはほぼ不可能だが、一方で整備が待ち望まれている地域への整備は継続されている。
都道府県別では大きな差異が
次に示すのは直近となる2018年度分、2019年3月末時点における都道府県別の上水道普及率。
横軸の最低普及率の数値がゼロではなく80%であることに注意。おおよそ都市部ほど高め、地方ほど低めの値が出ている。また近畿地方において普及率の高さが際立っているのが一目でわかる。
これを上位・下位で整理し直して一部を抽出し分かりやすいようにしたのが次のグラフ。
大都市圏と近畿地方において普及率が高いこと、地方圏で低めな値が出ていること、そしておおよそ9割を超えた普及率に達していることが確認できる。
他方熊本県では一段低い値に留まっているが、これは社会生活インフラの整備が遅れているからでは無く、地下水をくみ上げた飲用井戸を使用する世帯が多く、上水道を必要としない場所が多いため。仮にそのような地域に上水道のインフラを整備しても利用されなければ採算が取れず、事業そのものに躊躇してしまっている点もある。
熊本県のように自然に恵まれた地域ばかりではないため、多くの地域では生活には欠かせない上水道の整備、さらにはその維持活動に昼夜を問わずリソースが投入され、さらなる状況の改善が図られている。他方、今後は人口の漸減と高齢化・地方の過疎化が予想されるため、都市部はともかく地方における水道事業の採算性の問題が大きな問題点となる(もっともこれは上水道に限らず、社会生活インフラ全般の問題)。さまざまな決断が求められるかもしれない。
蛇口をひねればいつでも水道水を得る事ができる。この当たり前の状況を維持管理するためにまい進する人達の労苦を、時々でもよいので思い返してみてはいかがだろうか。
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