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一発勝負で田中将大でなくセベリーノを選んだヤンキース リーグ2位の中継ぎ陣に託したアスレチックス

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ワイルドカード決定戦で先発に任命されたルイス・セベリーノ投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 カブスとロッキーズのワイルドカード決定戦を皮切りに、MLBのポストシーズンが現地2日、遂に幕を開けた。3日はア・リーグの地区シリーズ進出を賭け、ヤンキースとアスレチックスが激突する。

 試合前日の2日に恒例の記者会見が行われ、両チームの先発投手が発表された。ヤンキースは田中将大投手ではなくルイス・セベリーノ投手を指名し、アスレチックスは中継ぎのリアン・ヘンドリクス投手を選んだ。

 ヤンキースに関しては、メディアや球界OBたちから田中投手を推す声が挙がっていたが、アーロン・ブーン監督が選んだのはセベリーノ投手だった。今シーズンの成績をみれば19勝8敗、防御率3.39のセベリーノ投手に対し、田中投手は12勝6敗、同3.75。数字上は間違いなくセベリーノ投手の方が優っている。

 ただ今シーズンの2投手は、まったく正反対の“浮き沈み”状態にあった。セベリーノ投手はシーズン前半戦が14勝2敗、防御率2.31と絶好調だったものの、後半戦に入ると5勝6敗、同5.57と低迷している一方で、田中投手は前半戦が7勝2敗、同4.54だったのに対し、後半戦は5勝4敗、同2.85と、勝ち星こそ少なかったが素晴らしい安定感を披露している。それ故に田中投手を推す声が多かったわけだ。

 それでもセベリーノ投手を選んだブーン監督は、以下のように説明している。

 「土曜日にスタッフと話し合い、その後キャッシュ(キャッシュマンGM)とも意見交換を行った。そうした意見や情報を得た上で自分はセビー(セベリーノ投手の愛称)でいこうと決めた。

 シーズン後半戦は浮き沈みがあったけれども、終盤は改善傾向にあり、いいボールを投げていたように感じた。休養も十分だし、明日はいい投球を期待している」

 ブーン監督が指摘するように、後半戦のセベリーノ投手は7~9月の月間防御率を見てみると、6.58→4.86→3.98と改善傾向にあり、最後は2連勝でシーズンを締めくくっている。もちろんセベリーノ投手が本来の調子を取り戻しているのであれば、セベリーノ投手起用は決して間違いではないだろう。

 ただ気になるデータもある。3日の試合は公式戦ではなく、地区シリーズ進出を賭けた一発勝負のワイルドカード決定戦だ。やはり大舞台での勝負強さが求められる。そこで過去のポストシーズンの成績をチェックしてみると、セベリーノ投手は4試合に登板し、1勝1敗、防御率5.63に対し、田中投手は同じく4試合に登板し、2勝2敗、同1.38と、安定感は明らかに田中投手の方が上なのだ。

 しかもセベリーノ投手は昨年のツインズとのワイルドカード決定戦に先発し、1回途中で降板するという忘れがたい過去がある。もちろんセベリーノ投手自身は「自分を選んでくれた意味は大きい。自分を信頼してくれている証だ」と粋に感じており、雪辱に燃えている。あとは好投で報いるしかない。

 エースを投入してきたヤンキースに対しアスレチックスは、中継ぎのヘンドリクス投手を先発させるという奇策に打って出た。とはいえ、あくまで勝算があっての策なのだ。

 今シーズンのヘンドリクス投手は9月に入り、8度先発を務めている。一度だけ2回途中まで投げているが、それ以外はすべて1回を投げて交代している。この起用についてボブ・メルビン監督は「彼は(先発として)素晴らしい仕事をしてくれた。信頼しているから任せた」と説明しているのだが、実はヘンドリクス投手の今シーズンの防御率は4.13と決して冴えないものの、先発した8試合に関しては2.08とかなり安定している。

 しかも今シーズンのアスレチックスの中継ぎ陣防御率は、ア・リーグ2位の3.37と抜群の安定感を誇っている。一方で先発陣はシーズンを通して安定した投球をしたエース格の投手はおらず、唯一二桁勝利を挙げたショーン・マニユー投手は故障者リスト入りしている状態。またチーム1位の防御率を残したのは、シーズン途中で獲得した35歳のベテラン、エドウィン・ジャクソン投手の3.33ということを考えれば、一発勝負の場で最も安定した投球を期待できる策こそ中継ぎ陣による継投リレーだったのだ。

 エースの復活に賭けたヤンキースに対し、大舞台で奇策を用いたアスレチックス。勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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