Yahoo!ニュース

野球賭博:本当の地獄は「バレなかった」先にある

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

ニッカンスポーツから以下のようなニュースが報道され、心からガッカリしているワケです。以下、同記事からの転載。

ヤクルト、賭博問題受け試合後に全体ミーティング

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160309-00000095-nksports-base

ヤクルト球団は、巨人の野球賭博問題を受けて、試合後に全体ミーティングを行った。真中満監督(45)は「これからも気を付けていこうというような話がありました」と説明

新たに発覚した巨人の野球賭博問題を受けて、ヤクルトでは全体ミーティングにて「これからも気を付けていこう」という意思確認が行われたという事ですが、そうじゃない。そうじゃないんだよ、プロ野球よ。

今朝ほど、昨日行われた高木京選手の謝罪会見の全文をスポーツ報知で読んだのですが、私が心の中で抱いていた「一つの疑念」が確信にも似た感覚に変わりました。高木さん、世の中では「良心の呵責に耐えかね、家族からの説得を受けて告白」みたいな報道をされていますが、アナタ、「野球賭博を仲介していた」とされている人物に脅されたりしていませんか? 以下、スポーツ報知からの転載。

【巨人】高木京、15分間の謝罪会見全文「これ以上ウソをつき通すのは限界」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160309-00000101-sph-base

なぜ2015年10月に発覚したのに、この時期の報告になってしまったかというと、まず最初に2015年10月に福田さんの賭博が発覚したことで僕はすごくビクビクしていました。そこに笠原さんの野球賭博をしていた相手の人が家の方に訪ねてきて、ちょっと話をしないか、ということでした。そして車の中で「君は大丈夫だから」と言われ、そこで安心してしまいました。その後も野球賭博をして3人が事情聴取を受けている間、笠原さんの賭博の相手の人から頻繁に連絡がきて、僕を安心させるようなことを言ってきました。それで僕はその人がいい人だ、と思い込んでしまいました。

会見の内容自体は、先に解雇された笠原元投手と共に野球賭博の仲介をしていた人物から「君は大丈夫/黙っていれば判らない」などと言われてその時は安心してしまったが、その後、良心の呵責に苛まれ家族に相談したところ、全部を話すべきだという事になったというストーリーです。ただ、高木選手自身の会見の中で幾度となく登場してくる「野球賭博の仲介をしていた人物」に関して、「ものすごく怖い人」、「連絡をしないで欲しいと言っても頻繁に電話が」などという表現がちょくちょく出て来るんですよね。

これはあくまで一般論でありますが、野球賭博を含めて世の中の多くの違法な賭博というのは何らかの形でその背後に反社会的組織が関与している事が多いワケで、そのような違法な賭博に手を染めるということは彼らに対して「弱み」を握られるということでもあります。それが彼らにとって「良いお客」である内はトラブルとはなりませんが、借金がかさんで支払いが滞ったり、はたまた逆に今回の高木選手のように関係を断ち切ろうとしたりという方向に事態が動いた場合、当然ながらそういう反社の人間は豹変するワケです。特に高木選手のように一定の「クリーンな」社会的評価を必要とする職種の人間に対しては「会社にバラすぞ/家族にバラすぞ/週刊誌に売るぞ」などという形でその弱みに付け込んで様々な脅しをしかけ様々な要求を行ってくることがある。

また、特に野球選手がこのような状況に巻き込まれてしまう事の最大の問題は、それが容易に八百長の問題に発展してしまいがちという事。野球賭博の胴元となる反社組織にとっては、野球選手自身から金品を巻き上げずとも、特定の局面で「ちょっと手心を加えたプレーをしてくれるだけ」で、それ以上の莫大な利益が期待できるもの。その為に「脅し/スカし」とあらゆる手を使いながら、選手をがんじ絡めにしてゆくワケで、高木選手自体がどのような状況にまで発展していたのかは判りませんが、少なくとも先の会見からは何らかの脅しを受けており、それに耐えかねた挙句に自白に至ったのではないかという印象が否めません。

そして今回、新たな選手の野球賭博関与が判明したという事は、昨年NPBが実施し「他の選手には有害行為に係わっていると認められるような確度の高い具体的情報は得られなかった」として幕引きを行った内部調査自体が、不十分なものであったということ。冒頭でご紹介したヤクルトの全体ミーティングでは「これからも気を付けていこう」という意思確認が行われたということで有りますが、今、本当に野球界全体を挙げて行わなければならないのは「過去に本当にそのような事実がなかったのか」を再検証することであります。

野球賭博問題においてこれから先に起こり得る最悪のシナリオは、読売巨人軍、はたまたその他球団の中に他にも本当は野球賭博に関与していた人物が複数人おり、それぞれが高木選手と同様に反社会的人物から「弱み」を握られている状況にあるということ。こういう人間がリーグ内にゴロゴロと居るという事になれば、それら選手が現役で活躍している限りにおいてプロ野球の八百長リスクは延々と内在してゆくワケで、「出すべきものはしっかり出す」ということに本気で取り組まなければ、その後のより大きな問題の「引き金」になってしまうという事です。

即ち、今回の高木京選手を教訓とするのならば、野球賭博は「バレなかった」から助かるワケではなく、本当の地獄は「バレなかった」先にあるのだということであります。

そして「身から出た錆」で有るとはいえ、もし本当に現時点で反社会的な人物に弱みを握られて苦しんでいる選手がプロ野球界に居るのだとすれば、先ずは然るべきところに相談をして欲しい。警察は反社組織関連の事案に対して電話相談ができるホットラインを設置しています。勿論、違法賭博や恐喝などが事件として立件された時点で、野球選手としての身分の保証がなくなってしまう可能性はありますが、延々と不埒な人物達から脅されるよりはナンボかマシ。まずは、こういう窓口があるのだという事を認知頂いた上で、相談を検討して頂ければ幸いです。(私は警察関係者でも何でもないのだが・笑)

警視庁:暴力ホットライン(24時間対応)

http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kouhoushi/no2/wide/wide.htm

暴力団と思われる者からアプローチを受けたり、トラブルが起きたら一人で解決しようとしないで気軽に相談してください。秘密は厳守します。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事