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衝撃! ロナウド&メッシ時代のバトンを受ける2人の怪物が、破壊的な“個の力”で戦術を無力化する

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

今後10年のサッカー界を担う怪物2人

 ロナウド&メッシの時代はいつまで続くのか?

 この約10年間、世界のサッカーシーンはクリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシの2大スターを中心に回ってきた。今も現役として活躍する彼らがこれまで刻んできた数々の足跡を直視すればするほど、その答えをそう簡単に出せるはずもない。

 しかし、長年サッカーファンが探し求めていたその答えが、ようやく我々の前にくっきりと浮かび上がってきた。

 2021年2月16日と17日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのラウンド16。バルセロナ対パリ・サンジェルマン戦とセビージャ対ドルトムント戦で、ひときわ輝きを放った2人の怪物こそが、おそらく今後10年のサッカーシーンをけん引するはずだ。

 下馬評を覆し、それぞれのチームを勝利に導いた2人。パリ・サンジェルマンのキリアン・エムバペと、ドルトムントのアーリン・ホーランドである。

 もちろん、以前からこの2人の怪物ぶりは数々の衝撃を世界に与えてきた。しかし、この2日間、世界が目撃した2人の圧巻のパフォーマンスは、これまで続いてきた「ロナウド&メッシ」時代からバトンを受け取るための“保証書”ともいえるシロモノだった。

 1998年生まれのエムバペは現在22歳で、2000年生まれのホーランドは現在20歳。単なる偶然なのか、それとも神の思し召しなのか、まるで1985年生まれのクリスティアーノ・ロナウドと1987年生まれのリオネル・メッシのように、2人は同じ2歳差の関係にある。

 カンプ・ノウでトリプレを決めたエムバペと、ラモン・サンチェス・ピスファンでドッペルパックを決めたホーランド。それぞれのプレースタイルは異なるものの、しかしいくつもの共通点を持つ現代的かつ近未来的ストライカーであることに、もはや疑いの余地はない。

将来を約束する天賦の才能の持ち主

 まず、2人の共通点として挙げられるのが、将来が約束されたかのようなその出自と、生まれながらの才能だ。

 エムバペは、フランスが初めてW杯優勝を遂げたその年に、ディディエ・デシャンがトロフィーを掲げたスタッド・ド・フランスのあるサン=ドニ地区ボンディに生まれた。カメルーン人の父親の職業はサッカーコーチで、アルジェリア人の血を引く母親は元ハンドボールの選手というスポーツ一家である。

 10歳の頃には複数クラブのリクルート合戦が始まる一方、13歳で選抜テストに合格して数々の名選手を輩出する育成の名門クレール・フォンテーヌに入学。入学前には、すでにリーグアンのカーンから下部組織入団の約束を取りつけていた(その後、カーンが降格したことで白紙になり、モナコ入り)。

 一方、ホーランドが生まれたのは母国ノルウェーではなく、イングランドのリーズだった。父親は、当時プレミアリーグで旋風を巻き起こしていたリーズ・ユナイテッドの元ノルウェー代表MFアルフ・インゲ・ホーランド(当時日本ではハーランドとして知られていた)。いわゆる、サラブレッドである。

 父親がプロデビューを果たした地元ノルウェーのブリンFKのアカデミーに入団したのは5歳の時。そして15歳からは、常にノルウェーの世代別代表でプレーするスペシャルな選手であり続けてきた。

 それぞれの出自と才能に恵まれた2人は、しかしそれにおごることなく、真摯にサッカーだけに集中する。エムバペもホーランドも、夜遊びなどといったピッチ外のゴシップネタとは縁がないこともよく似ている。

 そのストイックなまでにサッカーに取り組む姿勢も、ロナウドやメッシに共通した部分であり、バトンを受けるに相応しい人物像だ。

今も進化を続ける底知れぬ可能性

 そしてもうひとつの重要な共通点は、スピード、フィジカル、テクニックといった現代サッカーにおいて絶対に欠かせない要素を2人が備えている点だろう。そのすべてがすでに別次元のレベルにあり、しかも現在もまだ進化の途中にあるという点も共通する。

 おそらく現時点においては、フィニッシュワークのバリエーションと精度ではホーランドが上回るだろう。逆に、ボールテクニックやプレーそのもののバリエーションでは、エムバペに一日の長がある。

 今後、2人はどのような進化を遂げ、どのようなかたちで歴史を塗り替えていくのか。確かにすでにW杯優勝という限られた選手しか手にできない勲章を持つエムバペと違い、ホーランドがノルウェー代表としてそれを叶える可能性は高いとはいえない。

 しかしクラブシーンでいえば、2人の未来には無限の可能性が広がり、今後もお互い切磋琢磨しながらゴールを量産し、チャンピオンズリーグをはじめとする数々のタイトルを手にしていくことだけは間違いないだろう。

 現時点でエムバペがチャンピオンズリーグでマークしたのは24ゴール。一方のホーランドは、わずか13試合で18ゴール。モナコ時代、2016-2017シーズンの決勝トーナメントで世界に衝撃を与えたエムバペよりも、ハイペースでゴールを量産する。

 これまでの約10年、世界はロナウドとメッシの異次元のパフォーマンスに心酔してきた。そしてこれから10年は、エムバペとホーランドの規格外のプレーに夢を見ることになるだろう。

 年々高度かつ緻密に進化を遂げるサッカーの戦術の中で、それでも、それを無力化する破壊的な個の力。それを目撃する喜びは、サッカーの魅力の原点でもある。

 かつてのペレやマラドーナのように、そしてロナウドやメッシのように、彼ら2人は今後も凡人には決して想像もつかないような異次元のプレーで、世界に驚きと感動を与えてくれるに違いない。

 現在も進化を続ける怪物2人の一挙手一投足は、だからこそ一瞬たりとも見逃せない。返す返すも、2人の雄姿をスタジアムで拝めない現状が、残念でならない。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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