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同じ境遇の北朝鮮とイスラエルが国連でバトル! かつては水面下で直接交渉も

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮制裁決議を採択した2017年9月の国連安保理(英国外交部から)

 国連での米韓と北朝鮮の非難合戦は日常茶飯事だが、敵対関係にあるイスラエルと北朝鮮の国連の場での非難の応酬は滅多にない。ところが、先月、イスラエルと北朝鮮の間で激しく遣り合う場面があったようだ。

 外電が報じた国連軍縮会議の速記録によると、北朝鮮の駐ジュネーブ代表部のチュ・ヨンチョル参事官が先月28日、国連ジュネーブ事務所会場で開かれた軍縮会議高官会議で「イスラエルの恥ずべき態度は余りにも衝撃的だ」と、公然とイスラエルを非難したようだ。おそらく、イスラエルのガザへの攻撃を問題視したのであろう。

 これに対しイスラエルのメイラブ・エイロン・シャハル駐ジュネーブ代表が北朝鮮の大量殺傷兵器の拡散を槍玉に挙げ、「北朝鮮はウクライナだけでなく、中東全域で核とミサイルを拡散することに深く関わっている」と、反撃すると、北朝鮮の参事官は再度発言を求め、「イスラエルは根拠のない我々のミサイルと核拡散を主張しているが、これはパレスチナ人のガザ地区で行われているイスラエルの軍事的侵略への国際社会の非難を他の方向に逸らそうとする意図以外の何物でもない」と述べ、「数万人のパレスチナ人が犠牲となっているガザ地区の人道的危機の深刻性は大量虐殺と反人道的犯罪に該当する」とイスラエルを糾弾したとされている。

 ところが、1度ならず、2度も名指しで攻撃されたことに今度はイスラエルの副代表が反論権を行使し、北朝鮮に対し「イランやシリアと並んで北朝鮮が国際法について説教するのは論外である」と一撃し、「国連安保理決議に違反し、核開発とミサイル挑発を行っている北朝鮮に反人道的犯罪を口にする資格はない」と反撃していた。同副代表はさらに「ハマスが昨年10月7日に行った残酷な行為に対しては沈黙している。これらの国が神聖とみなしている価値は単なる空虚だ」と、北朝鮮をはじめハマスのテロ攻撃を黙認している国々を批判していた。

 両国のバトルは北朝鮮のチュ参事官がもう1度反論の機会を得て「イスラエルが我が祖国に言及し、述べていた主張を拒否する。拒否の理由については説明するまでもない」と言って、終わったそうだが、それにしても、実に珍しい現象だ。

 北朝鮮はイスラエルのガザ侵攻以来、外務省が声明や談話で、あるいは外務省傘下の研究員が署名記事で再三にわたってイスラエルを非難しているが、イスラエルはほとんど黙殺し、これまで公の席で北朝鮮を批判したことは滅多にない。それだけに今回は極めて異例である。

 よくよく考えてみると、北朝鮮とイスラエルは国連では似たような境遇に置かれている。

 仲間が少なく、極端な話、国際的に孤立状態にある。それでもイスラエルは四方八方敵に囲まれていながらも圧倒的な軍事力と米国の全面的なサポートの賜物で崩壊せず、存続してきた。北朝鮮もまた、核とミサイル、そして中露のサポートをバックに体制を維持してきた。両国共に国連から非難声明や決議を頻繁に突き付けられてもその都度、同盟関係にある大国が後ろ盾となり、拒否権を発動してくれている。

 それでも確か、1度、2015年だったか、頼りにしていた大国に裏切られたことがあった。

 国連安保理事国プラスドイツの6か国がイランと核問題で妥協した時、ネタニヤフ首相は米国が主導し、国際社会が容認したとして国連演説の場で怒りに満ちた表情で40秒以上も沈黙したまま演壇から各国代表を睨みつけたことがあった。当時、イスラエルは米国が寝返ったことを苦々しく思っていた。

 この年の国連総会では北朝鮮の李スヨン外相も安保理が北朝鮮の人工衛星発射に制裁決議を採択したことに怒り心頭となり「国連安保理は我々の宇宙平和利用の権利を乱暴にも踏みにじった」と不満をぶちまけていた。非難の矛先はロシアと中国だった。両国が拒否権を発動すれば、安保理での制裁決議を阻止できたからだ。

 ネタニヤフ首相はイランの核ミサイル開発は「イスラエルではなく、欧州や米国を狙ったものである」と主張し、イランとの核合意を「悪い合意である」と扱き下ろし、李外相もまた「決議案に賛成した国に問いたい。我々に対する圧力はいつの日か自らの首を絞める結果となるだろう」と中露を批判していた。

 北朝鮮は第4次中東戦争ではエジプト・シリアに軍事支援を行うなど「アラブの大義」を常に支持している。パレスチナを国家と認め、外交関係も結んでいる。一方、イスラエルは韓国と国交を結び、北朝鮮を敵視している。言わば、両国は不倶戴天の敵同士であるが、興味深いことに、この両国、一度だけ歩み寄り、交渉したことがある。

 今から32年前の1992年に北朝鮮がエジプト、シリア、リビア、イラクの中東4ヶ国に弾道ミサイルを売却していることに危機感を強めたイスラエルが弾道ミサイルの中東流出を食い止めるため北京で北朝鮮側と非公式に接触し、同年11月にエイタン・ベントゥール外務省アジア局長を極秘に平壌に派遣し、交渉を開始したのである。

 平壌での交渉ではイスラエルが北朝鮮にミサイル売却の中止を正式に要請したが応対した北朝鮮のカウンターパートナーの金桂寛(キム・ゲグァン)外務省参事(当時)は「中東とはイデオロギーで結ばれているわけではない。あくまで商業ベースの話だ。イスラエルが見返りを補償してくれるならば、イランなどへのミサイル売却を中止する用意がある」と回答していた。その後、判明したことだが、この時の交渉で北朝鮮は資金難により開発が中断されていた平安北道・雲山にある金鉱山に3億ドルの投資を打診していた。

 両国の交渉は翌年の1993年まで数回続き、北朝鮮はミサイル輸出の停止を約束し、「確認のため、イスラエル監視員を港湾に配置してもよい」と確約したそうだが、北朝鮮の核査察問題で交渉中だったクリントン政権の圧力もあって、イスラエルは途中で交渉を打ち切ってしまった、というのがこの秘密交渉の顛末である。

 「歴史にもしもはない」と言われているが、仮にこの時、交渉が成立していたならば、今回のような両国の国連でのバトルはなかったし、イランへの武器供給も含め北朝鮮が中東に介入することもなかったであろう。
(参考資料:表ではパレスチナを支持しながら、裏ではイスラエルと取引した過去のある北朝鮮)

(参考資料:北朝鮮の武器輸出国と武器価格)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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