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第5次中東戦争の危機に進むのか?:イランがイスラエル地上戦開始に「対応」を警告。米ネットメディア報道

川上泰徳中東ジャーナリスト
13日、テヘランで星条旗を燃やす、パレスチナ支持の民衆のデモ(写真:ロイター/アフロ)

 米国のネットメディア「Axios(アクシオス)」が15日、「特報:イランがイスラエルに国連を通じてガザでの地上侵攻に警告」と報じた。イランのアブドラヒアン外相が15日レバノンで国連の中東問題担当と会見し、ガザ情勢のこれ以上の悪化を望まず、イスラエルが地上戦に入れば、イランは対応しなければならないと伝えたと複数の外交筋の情報として報じた。

 この報道の後、国連のイラン代表部はXサイトで、「もし、イスラエルがガザでの戦争と大虐殺を直ちに停止しなければ、状況はコントロールを失い、遥かに広範な影響をもたらす」として国連安保理の責任を非難するポストを上げた。

 Axiosによると、イランは直接または間接的に介入を示唆したが、アブドラヒアン外相の言葉として「ヒズボラが動けば(イスラエルへの)大地震となる」と語ったと伝えている。

 イスラエルの地上戦開始が秒読みとなり、イランが警告したことで、地域の緊張は極度に高まり、ガザ戦争が引き金となって、第5次中東戦争の危機さえ見えてきた。

 米軍はすでに米軍は既に、イスラエル沖に空母「ジェラルド・フォード」を展開し、さらに14日にオースティン国防長官は米海軍空母「ドワイト・アイゼンハワー」をイスラエル沖の東地中海への派遣を指示した。これはヒズボラやイランからのイスラエルに対する攻撃を抑止する狙いと見られるが、湾岸での米軍とイランの関係が高まることも必至だ。

 イランはイラク戦争の後、イラクのシーア派政権の後ろ盾となり、さらにシリア内戦ではレバノンのヒズボラを送ってアサド政権を支援し、同国で強力な影響力を確保した。これでイランはテヘランからヒズボラが支配する南部レバノン国境まで「シーア派ベルト」を押さえて、イスラエルと対峙する形となっている。

 一方でイランはガザのハマスを経済的、軍事的に支援しており、ヒズボラとハマスの関係も90年代初めから続いている。シリア内戦にはイランの革命防衛隊の指揮下で、ヒズボラだけでなく、イラクやアフガニスタンのシーア派民兵も参戦している。それらの民兵勢力がイランの指令の下で、本格敵なイスラエル攻撃を始めれば、イスラエルはガザ攻撃どころではない重大な危機に直面する。

 イランはヒズボラが支配するレバノン南部の国境地帯に膨大なミサイルや口ケツトを運び、いつでもイスラエルに向けて大規模攻撃ができる態勢を取っているとされる。

 ワシントンの戦略国際問題研究所 (CSIS)のミサイル防衛プロジェクトによると、ヒズボラは対イスラエル向けに13万発のミサイルを所有しているとの見方が出でいた。その多くは人が運んで発射できる携帯式のロケットだが、中には「ファテフ110」と呼ばれるイラン製の短距離弾道ミサイルも数百発あり、射程は250キロから300キロで、レバノン南部やゴラン高原からテルアビブやエルサレムを射程に入れることができ、 450キロから500キロの爆発物を搭載する。

 イランはこのミサイルをシリア内戦に本格的に介入した2014年からヒズボラに提供し始めたとされる。イスラエルが最後にレバノン侵攻したのは 2006年夏の34日間であるが、その時点ではヒズボラは 1万5000発のロケット・ミサイルを所有し、 4000発をイスラエルに向けて発射した。その時に比べると、量的に10倍近いミサイルが蓄積・配備されていることになる。

 イランのミサイル技術も急速に進化している。2020年4月イラン革命防衛隊は同国初の軍事衛星「ヌール (光 )」を打ち上げ、軌道に乗せることに成功したと発表した。「この成功はイランの防衛力を新たな段階に進化させる」と革命防衛隊司令官はコメントした。イランはそれまで人工衛星の開発は民生用であり軍事目的はないと主張していたが、軍事衛星であることを宣伝した。イランが大陸間弾道弾ミサイルの開発にも転用可能な技術を開発しようとしていることに米国は「安保理決議違反」と反発した。

 イスラエルにとってより直接的な脅威は、2019年7月、イランが中距離弾道ミサイル「シャハブ3」の発射実験を行い、成功したというニュースである。イラン南部から首都テヘラン近郊まで約千キロ飛行したと報じられている。シャハブ3は射程1300キロで、車両に積んで移動できる形で、機動性がある。イスラエルや湾岸を含めて中東東部をすべて射程に収めることができる。

 CSISによると、シャハブ3は1990年代半ばにイランが北朝鮮から購入したノドンミサイルを改良して、イスラエルやサウジ西部を標的とすることができるように改良されたという。

 イランはトランプ政権時代に、繰り返し緊張の高まりや危機を経て、大統領も議会も保守派が占め、常時、戦争体制を維持している。一方、バイデン政権はイランとの緊張緩和を探って、話し合いを続けてきた。9月中旬、イランが拘束していた米国人5人、米国が訴追していたイラン人5人が共に解放され、米国はイラン凍結資産の一部を凍結解除した。今後、さらに緊張緩和が進むと見られたところへ、今回のパレスチナ危機が始まった。

 もし、イスラエルによる地上戦開始を受けて、ヒズボラからイスラエルへの本格的なミサイル攻撃が始まれば、米軍も対ヒズボラで介入する可能性が高く、イランと米国の間の緊張も極度に高まるだろう。今回のイランの警告は、イスラエルのガザへの地上戦突入に対して、事実上のヒズボラ参戦を通告するものであり、米国を巻き込む中東戦争という最悪の事態が見えてきたと言えよう。

中東ジャーナリスト

元朝日新聞記者。カイロ、エルサレム、バグダッドなどに駐在し、パレスチナ紛争、イラク戦争、「アラブの春」などを現地取材。中東報道で2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2015年からフリーランス。フリーになってベイルートのパレスチナ難民キャンプに通って取材したパレスチナ人のヒューマンストーリーを「シャティーラの記憶 パレスチナ難民キャンプの70年」(岩波書店)として刊行。他に「中東の現場を歩く」(合同出版)、「『イスラム国』はテロの元凶ではない」(集英社新書)、「戦争・革命・テロの連鎖 中東危機を読む」(彩流社)など。◇連絡先:kawakami.yasunori2016@gmail.com

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