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可能性を見せ付けたWBOフライ級王者

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Photo 山口裕朗

 7月20日、両国国技館の記者席で、第35代WBCライトフライ級チャンピオン、木村悠氏と隣り合わせた。

 第2試合となったWBOフライ級王座決定戦、アンソニー・オラスクアガvs.加納陸戦のゴング前、氏は「5~6ラウンドでオラスクアガがKO勝ちすると見ている」と語った。筆者は、「いや、3ラウンドで終わる」との予想を彼に伝えた。

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 2023年4月8日、オラスクアガは寺地拳四朗の持つWBA/WBCライトフライ級タイトルに挑み、9回TKOで敗れた。寺地の対戦相手が病気でキャンセルとなった為、本来フライ級のオラスクアガが、急遽1階級下げて代役を務めたのだ。試合が正式に決まったのは、試合の2週間前だった。

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 昨夏、インタビューした際、オラスクアガは語っていた。

 「直前の話だったけれど、タイトルマッチだからさ、断る理由なんか無かったよ。即、受けた。でも、ライトフライは減量がキツかった……。是非、112パウンド(フライ級)でケンシロウと再戦したい。勝つ自信はある。

 実はあの時、ケンシロウとは別の相手とのファイトが114パウンドで決まりかけていたんだ。既に体を絞り始めてはいたんだけど、120~122パウンドくらいあった。108パウンドにするためにサウナスーツを着て走って、ジムワークでも厚着して……どう戦うかよりも、体重を落とすことが課題だった」

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 寺地戦のオラスクアガは、初回から左右のストレートをヒットし、2回には右フック、3回序盤には左ボディ、左フックのコンビネーションで2冠王者を追い込んでいった。だが、同ラウンドにカウンターの左フックを浴び、徐々にペースダウンする。終盤には足が揃ったところに右ボディを食い、キャンバスに手をつくようにダウン。ライトフライ級での調整不足は明らかだった。そして第9ラウンドに寺地の連打に沈む。

 とはいえ、デビューから僅か6戦目、たった2週間の準備期間で寺地を追い詰めたオラスクアガの能力に、誰もが可能性を感じた。

Photo 山口裕朗
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 実際、加納陸とはレベルが違った。第3ラウンド、オラスクアガは左フックを加納の顎にヒットし、2分50秒で試合は終了した。

 木村氏はしみじみと言った。

 「強いなぁ! 寺地拳四朗との再戦や、ユーリ阿久井政悟との統一戦が見たいです。ロマゴンみたいになってほしいですね」

 帝拳ジムOBである元WBCライトフライ級王者にとって、新WBOフライ級チャンプは後輩にあたる。木村氏はオラスクアガに輝かしい未来があると感じたようだ。

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 ボクシングを齧った15歳の時、中谷潤人とのスパーリングでオラスクアガはボディブローで倒された。その日を境に、真剣にボクシングと向き合うことを決めている。

 WBCバンタム級チャンピオンと切磋琢磨しながら、更なる高みを目指すであろう。愛称、「トニー」。期待の25歳だ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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