英国の約5万社が経営破綻の危機に直面―春の減税拡大も期待薄(上)
英国経済はインフレ加速に伴う企業の借入金コストの上昇と大規模増税により景気が悪化、ロンドンとミッドランズなど南東部を中心に約5万社に及ぶ企業が経営破綻の危機に直面している。
こうした中、英国の老舗百貨店チェーン大手ジョン・ルイスが経営立て直しのため、今後5年間で全従業員(7万6000人)のうち、最大で15%に相当する1万1000人を自然減耗も含めて解雇する方向で検討していると、英紙デイリー・テレグラフが1月27日付で報じた。
また、英有力紙ザ・タイムズもジョン・ルイスが企業再生資金として、すでに約2億6000万ポンド(約480億円)を銀行借り入れや、傘下の高級スーパーチェーン大手ウエイトローズの11店舗の売却とリースバック(売却後リースを受ける取引)により調達を完了したと、伝えている。
ジョン・ルイスの経営が悪化した要因について、テレグラフ紙のシャーロット・ギフォード記者は1月27日付コラムで、高インフレの長期化による人件費の高騰を挙げている。昨年3月、ジョン・ルイスのデイム・シャロン・ホワイト会長は同紙のインタビューで、「高インフレが我々の事業をハリケーンのように襲った」と指摘、人員削減を含めたコスト削減が喫緊の課題になっていると強調している。
ちなみに、ジョン・ルイスの人件費は2023年が18億ポンド(約3330億円)で、売り上げ全体(105億ポンド)の17%も占め、同上期(1-6月)だけで、5900万ポンド(約109億円)の赤字を出している。
経営難に陥っている企業の経営再建を専門とする英国のベグビーズ・トレイナー傘下のレッド・フラッグ・アラート(本社・マンチェスター)はテレグラフ紙の1月23日付で、英国企業の経営健全度調査の結果を公表した。それによると、2023年末時点で4万7477社の英国企業が「危機的な財務ひっ迫状態」に陥っており、同10-12月期だけで前期比26%増、実数で1万社も増加した、とショッキングなデータを示している。
レッド・フラッグ・アラートは、「安いお金(低金利)の時代は終わった。数万社もの企業が崩壊の危機にあり、今後、多くの企業が経営破綻、労働者は失業、債権者も生活困窮に陥ることが予想される」と予想。その原因について、インフレ阻止のためのイングランド銀行(英中央銀行、BOE)による政策金利の引き上げと、個人消費の低迷という「二重苦」を挙げている。その上で、「法人税増税と全国最低賃金の引き上げも多額の負債を抱えている企業の財務コストを増大させる」と懸念している。
政府の財政政策による企業のコスト負担増となっている全国最低賃金は今年4月1日から時給1ポンド(10%)引き上げられ、11.44ポンド(約2100円)となる。すでに法人税の税率は昨年4月から19%から25%に引き上げられている。
前回の投稿「英国のステルス大増税」(昨年12月)でも伝えたが、ジェレミー・ハント財務相は昨年11月22日、秋の予算編成方針(補正予算)を発表し、2028年4月まで、2023/2024年度の個人所得税の課税最低限と、累進税率(20%、40%、45%)の課税所得金額の最低限の引き上げを2028年まで凍結したことを受け、英国営放送BBCは、「(数年後には)最終的に50年ぶりの大増税となる」と報じた。
これは3つの税率区分(20%、40%、45%)からなる課税所得金の最低限が引き上げられず、凍結されたため、インフレ高騰に伴う賃金引上げで所得が増えた低・中所得層の世帯の大半(数百万人)がより高い税率区分に移り、結果的に増税となる。いわゆるステルス増税(偽装増税)の罠にはまるからだ。
また、昨年10月6日のBBCによると、シンクタンクのリゾルーション財団は当初、2027/2028年度までに年間300億ポンド(約5兆6000億円)の大増税になると予想していたが、BOEの最新の経済予測によると、インフレ率の高止まりがこれまで予想していたよりも長期化する見通しのため、年間400億ポンド(7兆4000億円)という、約50年ぶりの大増税に上方修正。その上で、「これでは景気回復は望めない」と警告している。(『中』に続く)