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新変異株に関する不安要素の影響強し…2021年12月景気ウォッチャー調査

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
新変異株への不安が景況感の足を引っ張る。実影響も出始めている(写真:中尾由里子/アフロ)

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2022年1月12日付で2021年12月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響は残るものの、持ち直している。先行きについては、持ち直しが続くとみているものの、コスト上昇等や変異株をはじめ内外の感染症の動向に対する懸念がみられる」と示された。

2021年12月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス0.1ポイントの56.4。

 →原数値では「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは58.6。

 →詳細項目は「小売関連」「雇用関連」で上昇。「飲食関連」のマイナス6.1ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス4.0ポイントの49.4。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは49.5。

 →詳細項目は全項目が下落。「サービス関連」のマイナス9.1ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「雇用関連」。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年11月では各種規制はすでに解除され、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少を受けた、人や物の動きの復調を反映し、わずかだが上昇を示している。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年12月では新型コロナウイルスの新変異株にかかわる国内外情勢への懸念や、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足による不安が強くなっており、下落を示している。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2021年12月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2021年12月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年12月は新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少やそれに連動して人や物が動き出した実情を反映する形で、全体では前回月比でプラスを示している。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2021年12月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2021年12月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」と「雇用関連」。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展へ期待がある一方で、変異株の猛威への不安が強まっており、さらに半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰による懸念が足を引っ張る形となっている。

先行きの不透明さと物不足の足かせと

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・緊急事態宣言が解除されてから人流が一定程度回復している。防寒商材だけでなく、きちんとしたところに着ていく服なども、2年ぶりの購入というキーワードが目立っている。おせち、クリスマスケーキなど、イエナカ需要に対応した商材も好調に推移している(百貨店)。

・新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていることで航空機利用者が増加している。クリスマスから年末に掛けての利用状況もよく、帰省などの生活需要やスノーボードなどの冬季観光需要も回復してきている(旅行代理店)。

・コロナ禍で外出しない生活に慣れた人も多いが、若者を中心に、クリスマスや年末の少人数での忘年会などに出たい人は増えている(バー)。

・原油高に伴い、ガソリン価格、灯油価格が高止まりをしている。なおかつ、原材料の値上げによる食品の値上げが続いているため、日々の生活のなかで節約、倹約志向が更に強まっている(スーパー)。

■先行き

・今後は新型コロナウイルス新変異株の感染状況が心配される。ただし、3回目のワクチン接種が始まり、新規感染も落ち着けば、今までの反動も含めて景気は上向く(スーパー)。

・原油価格の高止まりにより、当面は高い販売価格のまま推移する。それにより現状の節約志向はまだまだ続くとみられることから、販売量の回復は見込めない(その他専門店[ガソリンスタンド])。

・新型コロナウイルス新変異株による新規感染者数が、日に日に増えている。重症者数は少ないものの、今までの経験から先行きは不透明であり、油断はできない(百貨店)。

・年末年始の宿泊予約が伸び悩んでいる。新型コロナウイルス新変異株による感染の再拡大および燃料や食料品などの値上げにより、外食や旅行などの余暇に対する消費の抑制を懸念している(都市型ホテル)。

新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、人や物の流れが回復しつつあることを実感する声が見られる。一方でオミクロン変異株による国内外の感染者数急増による間接的影響、コロナ禍による半導体をはじめとした部品不足の悪影響や商品価格の値上がりへの言及が見られるのが気になるところ。

企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。

■現状

・新型コロナウイルスの感染状況も落ち着き、取引先の発注に向けた動きが活発化している。年内の予算を使い切るために、見積りの引き合いや問合せが、2-3か月前と比べ増加している。データセンターの利用ニーズやデジタル化に向けたICT関連のニーズが明らかに増加している(通信業)。

・主要原材料価格の大幅な上昇があり、取引先に価格転嫁の依頼をしている状況で、非常に悩ましく、やや悪くなっている(化学工業)。

■先行き

・地元完成車メーカーの生産が回復基調にあるため、今後も忙しくなる(輸送用機械器具製造業)。

・市場マインドは上向きつつあるものの、新型コロナウイルス感染症の影響および世界的な電子部品供給不足などによる部品調達の遅滞や原材料価格の高騰など、不確定な要素が多く懸念される(一般機械器具製造業)。

コロナ禍による厳しさは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、また各種規制が解除されたことで和らぐ、回復しているとの実感、今後への期待や観測が受けられる。他方、コロナ禍も影響している、半導体をはじめとする部品不足によるビジネスへの悪影響を受けている、さらに今後悪化するであろうとの懸念を持つところもある。他方、新型コロナウイルスの新変異株への不安もある。

雇用関連では経済の新型コロナウイルスの流行による沈滞からの回復過程にある現状と、問題点が垣間見られる。

■現状

・新型コロナウイルスの新規感染者数の激減による客の増加で、飲食や観光、宿泊業の需要が戻り、求人数は回復している。消費者もウィズコロナのライフスタイルに慣れて、活発に活動しており、現時点では景気は上向いていると感じている(新聞社[求人広告])。

■先行き

・求人の動きに対して求職者の動きが鈍い。現状より好条件でない限り人が動かない傾向にある。コロナ禍でリモート整備などがされた企業の求人へは人が集まるが、以前と同等の求人に対してのマッチングが厳しい(人材派遣会社)。

規制の解除や新型コロナウイルスのワクチン接種の進展による感染者数減少で生じる人の流れの回復と、それによって生じる経済の復調への期待が確認できる。他方、「コロナ禍という環境の変化に対応した企業」と「していない・できない企業」との間で、労働力確保のハードルに大きな差が生じている実情がうかがえる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない(雇用関連の先行きコメントでその気配を覚えさせるものが確認できる)。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。合わせてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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