大学と社会人の差を痛感させられた天皇杯1回戦 筑波大学(茨城)vsブリオベッカ浦安(千葉)
■関東1部で天皇杯に出場するのは浦安のみ
キックオフ36分前、いきなり携帯電話から不穏なアラーム音が鳴り響く。そして「地震です! 地震です!」という自動アナウンス。震源地は茨城県沖ということで、ひたちなか市総合運動公園陸上競技場のメディアルームも、それなりに揺れた。窓越しにピッチを確認すると、両チームの選手たちは、まったく動じる様子もなくアップを続けている。もしかしたら、地震そのものに気づかなかったのかもしれない。
今月21日と22日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の1回戦が開催された。今大会はJ1・J2の40チームに加えて、都道府県代表47チーム、そしてアマチュアシード1チームの合計88チームが、トーナメントの頂点を目指して熱戦を繰り広げる。ちなみに今年はワールドカップ・カタール大会が11月に開催されるため、決勝戦は10月16日。会場も国立競技場ではなく、日産スタジアムで行われることが発表されている。
さて24試合ある1回戦のうち、私が選んだカードは茨城県代表の筑波大学と千葉県代表のブリオベッカ浦安という顔合わせ。浦安は現在、関東リーグ1部に所属している。このリーグで今季最も注目を集めているのが、ワールドカップ出場経験のある元日本代表を相次いで獲得した南葛SC。それ以外にも、VONDS市原FC、栃木シティFC、東京23FCといった将来のJリーグ入りを目指すクラブがひしめく、極めてコンペティティブなリーグである。
ところが今年の天皇杯で、関東1部で出場権を勝ち取ったのは浦安のみ。1都7県のうち、千葉と栃木(ヴェルフェ矢板)以外は、すべて大学チームで占められていた。社会人チームと大学チームを比べた場合、前者が後者を凌駕するのは難しいのだろうか? そう考えたときに浮上したのが、筑波大vs浦安というカードであった。キックオフは13時。ひたちなかのピッチには、強い風が吹きつけていた。
■逆転に成功した浦安だったがPK戦に持ち込まれ……
試合に入る前に、簡単に両チームの紹介から。ホームの筑波大は、今大会の大学チームでは最多32回の出場を誇る。田嶋幸三JFA会長をはじめ、サッカー界に幾多のOBを輩出していることでも知られるが、近年はJクラブユース出身者が目立つようになった。この日のスターティングイレブンも、全員がJクラブの下部組織出身。ここからまた、三笘薫のようなタレントが出てくるのかもしれない。
対するビジターの浦安は、1989年に設立された地元の少年団が前身。その後は子供たちの成長に合わせて、ジュニアユースやユース、さらにトップチームが整備されていった。トップチームは、千葉県3部を振り出しに着実なステップアップを続け、2016年にはアマチュア最高峰のJFLにまでたどり着く。その2年後には関東1部に降格したが、JFLへの復帰、さらにその上のカテゴリーを目指しているクラブだ。
前半は、多くの時間帯で筑波大がペースを握った。風上に立っていることもあったが、それ以前にテクニックと体幹の強さで、平均年齢19.5歳の大学生チームは、同28.0歳の社会人チームを圧倒していた。そして18分、筑波大が先制。2年生のMF角昴志郎が、エアポケットを突くようなミドルシュートを放ち、これが浦安ゴール右上に吸い込まれていった。前半は筑波大の1点リードで終了。
エンドを替えた後半、今度は風上に立つ浦安が盛り返していく。75分、左サイドを駆け上がった小泉隆斗が低いクロスを供給すると、クリアを試みた林田魁斗の足に当たってオウンゴール。同点に追いついた浦安は延長前半の101分、井上翔太郎の右足が筑波大のゴールをこじ開け、ついに逆転に成功する。
しかし、筑波大も諦めない。終了5分前の115分、オウンゴールを献上した林田が味方のクロスを頭で折り返し、これを和田育が右足で合わせてイーブンとする。その後はPK戦に突入。先攻の筑波大は5人全員が成功したのに対し、浦安は4人目の西袋裕太が相手GK高山汐生のセーブに阻まれてしまう。かくして2回戦の柏レイソルとの挑戦権は、筑波大が手にすることとなった。
■「あれだけ質の高いミドルは関東リーグでは見られません」
「普段は大学生とばかり試合をしているわれわれにとって、関東リーグの浦安さんとの対戦は勉強になることが多かったです。今日は風が強かったですが、われわれは天皇杯予選も含めて、ひたちなかではよく試合をしていました。ホームアドバンテージは、われわれのほうにあったと思っています」
そう語るのは、筑波大の小井土正亮監督。清水エスパルスやガンバ大阪では、長谷川健太監督(当時)の下で分析担当のアシスタントコーチだったことで知られているが、それ以前は柏のテクニカルスタッフだった。天皇杯での古巣の対戦に、選手たちとは違ったうれしさが伝わってくる。一方、浦安の都並敏史監督もまた、柏との対戦を強く望んでいた様子。
「自分は(柏の)ネルシーニョ監督が恩師だと思っていましたので、2回戦での対戦がなくなってしまったのは本当に残念です。われわれのプランとしては、延長戦で2-1となった状態で試合を終わらせたかったのですが、受け身に回ってしまう選手もいました。そこも含めて、われわれの力が足りていなかったと感じています」
社会人チームと大学チームとのレベルの差についても質問してみた。すると浦安の指揮官は、こちらが拍子抜けするくらい、あっさりと認めた。
「今日の2(失)点を見れば明らかですが、あれだけ質の高いミドルは関東リーグでは見られません。ひとつミスするだけで、ストンとやられてしまいます。われわれにとっては小さな守備のミスでも、それを出さないレベルで戦っていかないと、こういう試合には勝てないですよね」
この1回戦は17の大学チームが出場し、そのうち9チームが2回戦に進出(大学チーム同士のカードは4試合)。過去の大会を振り返ると、突出して増えているわけではない。それでも個々の試合で見ると、大学チームと社会人チームとの明白な差を痛感する。普段、JFLや地域リーグを取材する機会が多い人間からすると、さまざまな気付きを与えてくれた、天皇杯1回戦であった。
<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>