コンサドーレにスポンサーを連れてきたツイッターの「祭り」 一体何があったのか「中の人」に聞いてみた
全国に60あるJリーグのクラブにとって、コロナ禍の影響で入場料収入が減少している状況下、新規のスポンサー獲得が最優先課題のひとつとなっている。
スポンサー収入を増やそうとしても、Jクラブは所詮中小企業であり、営業部の社員数も限られている。猫の手も借りたいのが本音ではないだろうか?
そんな厳しい経営環境の中で、クラブのサポーターがSNSで営業ツイートをしたことが切っ掛けとなって、ある地元企業がクラブのスポンサーになった成功事例を紹介したい。
とある呟きを契機に「祭り」状態に
北海道の老舗食品メーカー、ベル食品が2月1日、北海道コンサドーレ札幌のクラブパートナーになったことが発表された。
ことの発端は昨年9月にさかのぼる。
とあるコンサドーレのサポーターが「ベル食品、コンサドーレの鎖骨スポンサーになって欲しい。どうでしょう」とツイート。
この呟きに対して、ベル食品公式アカウントの「中の人」がいわゆるエゴサーチ(※)をして反応したのが以下のツイートだ。
(※エゴサーチとは自分自身や自社サービスなどについて、世間からどのように思われているのかを知るために検索することを指す)
このツイートを契機に、コンサドーレサポーターがこぞってベル食品公式アカウントをフォローし、スポンサーになってほしいと懇願するリプを送りまくる事態、いわゆる「祭り」状態となった。
エゴサしても追い付けないレベル
ベル食品公式アカウントの「中の人」に取材をして、当時の祭り状態を振り返ってもらった。
「普段SNSについて一任してくれている社長からも”なんかツイッターが大変なことになってるらしいけど大丈夫?”と声をかけられるくらいに、社内でも反響がありました。これだけ盛り上がってるんだったらということで2022年は、予算規模の小さいリレーションシップパートナーとしてまず参画しました。シーズン途中からの出資でしたが、短い期間でも十分にその価値を感じることができたので、2023年からクラブパートナーとして協賛することになりました」
コンサドーレサポーターのツイートに反応する直前(2022年9月27日)における公式アカウントのフォロワー数は10,800人だったが、当原稿を執筆している2023年2月9日現在、30,700人にまで増えている。コンサドーレに協賛した結果、フォロワー数が約2万人純増したというわけだ。
世間にはたくさんの企業公式アカウントが存在するが、どの公式アカウントもフォロワー数を増やすことに悪戦苦闘している。そんな中、このベル食品の事例はひとつの成功モデルと言えるのではないか?
「単にフォロワー数が増えただけじゃなくて、弊社の主力商品である成吉思汗たれについて、コンサドーレのサポーターを中心に口コミが非常に増えました。中にはジンギスカン以外の料理に活用する方法を写真付きでツイートしてくれるコンサドーレのサポーターもいらっしゃいました。リレーションシップパートナーになった昨年10月は、コンサドーレのサポーターがたくさんベル食品についてツイートしてくれたおかげで、エゴサしても大量にヒットしすぎて、追い付けなくなるレベルでした」(中の人)
応援する面白さを知ってしまった
公式アカウントの中の人は、今までコンサドーレの試合を札幌ドームに観に行ったのは数回程度。デパートのくじの景品でもらった観戦チケットで行ってみたり、元日本代表の中村俊輔が対戦相手で来るから行ってみるかといった程度の、いわゆるミーハーなファンだったらしい。
それが今回、スポンサー企業のいち担当者として札幌ドームに試合観戦に行ってみて、心境がどう変わったのか聞いてみた。
「過去に見に行った数試合は正直、コンサドーレが勝ったか負けたかすら覚えていません。やっぱり本気で応援していなかったんでしょうね。それが今回、パートナー企業の”当事者”としてスタジアムに行って、本気で応援するようになりました。コンサドーレのゴールが決まったら、自然と立ち上がってガッツポーズしちゃってました。片方のチームに肩入れして応援するのって、こんなに面白いんですね。今季のコンサドーレの試合を応援しに札幌ドームに行くのが、今から楽しみで仕方ありません」
サポーターの最終形態「推奨者」がJリーグを救う
Jリーグが2021年に発表した「Jリーグ クラブ経営ガイド」の71ページに以下の描写がある。
この資料では、サポーターの最終形態を「推奨者」と定義している。
スタジアム観戦に新規顧客を誘ってくるサポーターのことを指しているが、今回コンサドーレのサポーターがツイッター上で繰り広げたムーブメントは、数百万円規模の予算を出資してくれる地元中小企業を口説ききって、新規客ではなく「新規スポンサー」を連れてくる結果をもたらした。
人手の足りない地方クラブにとって、法人営業まで代行してくれるサポーターの存在は非常に大きいと言える。コロナ禍で窮地に立たされたJクラブにとって、クラブファミリーの輪を大きくしていくためのひとつのロールモデルとなる事例と言えよう。他クラブの関係者も是非参考にしていただきたい。