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3チームが練習中止に追い込まれたMLBの不手際にクリス・ブライアントが漏らした本音

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
安全対策の現状に不安を漏らしたクリス・ブライアント選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【3チームが4日の練習を中止に追い込まれた理由】

 MLBが現地時間の7月6日に2020年シーズンの全日程を発表し、各チームがシーズン開幕の準備を進める中、ナショナルズ、アストロズ、カージナルスの3チームが同日の練習を中止せざるを得ないアクシデントに見舞われた。

 中止の理由は3チームともに同じで、7月3日に実施していたPCR検査の結果が届かなかったため、現場の安全が確保されないとの判断からとられた措置だった。

 米メディアによれば、この3チーム以外にも、アスレチックスやエンゼルスなど数チームが同様の理由で何らかの影響を受けているようだ。

【MLBが声明を発表し釈明】

 MLBは、選手会と合意した新型コロナウイルス対策の安全プロトコルに基づいてサマーキャンプが始まる前に6月27日から7月3日の7日間で、キャンプ参加者全員のPCA検査を実施することになっていた。

 これらの検査はすべてMLBが管轄し、MLBが業務委託したユタ州の検査機関ですべて処理されることになっている。今回もチームから同機関に検体を送ってあったのだが、検査結果が期限内に届かなかったため、上記のチームが影響を受けることになった。

 MLBは今回の不手際について声明を発表し、状況説明を行っている。この場で全文を紹介するのは控えるが、やや言い訳めいた内容に思える節があり、気になる部分を抜粋してみたい。

 「今日時点で7日間の検査機関で全30チームの95%以上の検査が終了しており、残りの検査も今日中に完了する予定だ。

 大多数の検査は計画通りに遂行することができたが、不幸にもいくつかのケースで予期せぬ遅れがでてしまった。我々は休日(独立記念日)と週末が重なったための遅延だと判断しており、2度と起こらないものだと考えている。

 厳しい環境の中で内部及び外部スタッフが懸命の努力を続けていることに感謝している。だがどうしてもプロセスを経る上で予期せぬ問題が起こってしまう。重要なのは、ほぼ全ての検査を計画通り実施できたという点だ。これからも選手のスタッフの健康と安全が最も重要であることに変わりはない」

【今後も1日おきのPCR検査を義務づけ】

 MLBが説明するように、今回のアクシデントは米国最大の休日と週末が重なったのが原因なのだろう。だからと言ってMLBの声明にあるように、2度と「予期せぬ問題」が起きないという確証があるかわではない。自分たちが認めているように、どうしても起こりえるものなのだ。

 安全プロトコルによれば、サマーキャンプ開始後は次の段階に移行し、今後も選手、スタッフたちは1日おきにPCR検査を受けることになっている。それはシーズン開幕後も続けられる予定だ。

 もし仮に、また予期せぬ問題が起こり、検査結果が計画通りにチームに届かなかったとしたら、最悪の場合、公式戦が中止に追い込まれるケースも想定しておかねばならないだろう。

【早くも選手から不安の声が】

 今回のアクシデントを目の当たりにし、選手たちの不安はさらに高まってしまったようだ。

 カブスのクリス・ブライアント選手がその1人だ。彼はメディアに対し、以下のように話している。

 「我々は1日おきに検査をすることで合意していた。だが日曜日(6月28日)にチームに合流した選手たちは、次の検査を受けるまで7日間かかった。しかも彼らはこの2日間その検査結果を受け取れていない。つまり9日間も何も知らされないまま過ごしている。もし我々がこのまま(活動を)継続していきたいのなら、問題を解決しなければならないと思う。

 自分は今シーズンもプレーしたいと思っていた。安全が確保されていると感じたからだ。正直に言って、今は同じように感じていいない

 ブライアント選手の言葉を聞く限り、現場は想像以上に混乱しているのが理解できるだろう。

【新たな辞退者も現れる】

 さらに7月6日になって、ブレーブスのニック・マーケイキス選手が今シーズンの出場辞退を決めたと報じられている。

 米メディアによれば、彼が辞退を決めた要因の1つが、新型コロナウイルスを発症した同僚のフレディ・フリーマン選手と話し合い、改めて感染症の恐怖を再認識したためだとしている。

 こうした状況を見る限り、MLBがシーズン開幕に向け決して順調なスタートを切れたようには思えない。1日も早く選手たちを安心させるための施策を打ち出すことができないと、現場の不協和音はさらに広がっていくかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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