VAIOが東芝・富士通と事業統合するメリットはまったくない
東芝、富士通、VAIO(ソニーから分社化)が事業統合に向けて検討段階に入ったと報道されています。しかし、この報道には強い違和感を覚えます。まず多くの人がしっくりしない感じを持つのが、「なぜVAIOが?」という思いでしょう。東芝と富士通ならともかく、なぜVAIOとも事業統合するのか? 正直なところ当事者のVAIO本体も驚いているのではないかと勘繰りたくなります。
3社の事業が統合するメリットは、部品調達や販路拡大といった一般的なもの。パソコンの出荷台数がジリ貧状態ですから、規模を大きくして生き残りをかけようとする戦略は常套手段です。戦略そのものに違和感はありません。しかし、統合相手にVAIOが入っていることに妙な感覚を覚えます。
事業統合に最も積極的なのは東芝。”不正会計”問題で矢面に立たされている東芝は、事業整理に躍起です。利益の水増し額が多かったPC事業は整理対象の筆頭。一刻も早く外へ出し、東芝本体に頼らず、はやく自立した経営をしてくれと言いたいはずです。
しかし、これは東芝の自己中心的な考え方に見えます。利益を水増ししてきたということは、その期間、事業効率化に向けた抜本的な改革をしてこなかった証拠。これからリストラクチャリングに励むとはいえ、問題が発覚するまで放置されていた「ぬるま湯的な組織」と誰がくっつきたいと思うでしょうか?
富士通のPC事業も不調であり、来春には赤字転落の様相。しかし東芝と違って健全なのは、すでに分社化を決めている点です。世間の目を欺いて、体質改善に努めてこなかった東芝と比べれば謙虚な姿勢です。(というか、これが普通の感覚)
いっぽうVAIOはというと、2014年7月にソニーから独立。本社を長野県安曇野市に移して、「ゼロからの出直し」をはかっています。組織は一気にスリム化。規模を拡大してシェア競争を仕掛ける戦略を180度転換させ、収益を見込める「高性能高単価モデル」にのみ注力しています。この戦略転換が奏功して、VAIOの事業は軌道に乗りつつあります。ソニー時代に築いたブランドを正しく継承したことが良かったのでしょう。
東芝や富士通のみならず、世界のパソコン事業は厳しい価格競争を強いられ、総じて弱体化しています。アップルのような、デザインやブランド価値が高いメーカーのみが収益を安定化させている現在、そのアップルと同等戦略で我が道をいくVAIOが、部品調達や販路拡大のために、国内老舗メーカーである東芝や富士通と統合するとは、思えません。たとえ統合したとしても、ほとんどデメリットしかないのでは、と私は考えます。