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コンサートでファンに射殺されたYouTubeスターは、「両手を広げて彼を迎え入れていた」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ファンに射殺されたクリスティーナ・グリミー(写真:ロイター/アフロ)

タレントとファンをめぐる悲劇が、またひとつ起こってしまった。

米東海岸時間10日(金)夜、フロリダ州オーランドで、バンドBefore You Exitの前座として歌ったクリスティーナ・グリミーが、ファンと交流する最中、銃で撃たれたのだ。そばにいたグリミーの兄マーカスが犯人に掴みかかり、犯人は自らを撃って死亡した。グリミーは病院に運ばれたが、土曜日の朝、亡くなっている。22歳だった。

警察が発表したところによると、犯人は、フロリダ州セント・ピーターズバーグ在住のケビン・ジェームズ・ルイブル。初期の報道では21歳とされていたが、正しくは27歳。事件のあった金曜、ルイブルは、銃ふたつとナイフ1本を携帯し、コンサート会場まで車で向かった。グリミーと彼は面識がなく、「彼は気の狂ったファンだったのか」との記者からの質問に、警察は、「まだ断定はできないが、今のところそのように思われる」と答えている。警察はまた、ルイブルが、グリミーを殺す目的でオーランドに行き、目的を達成した後、家まで帰って来るつもりでいたとも語っている。現在、ルイブルの自宅で捜査がなされているが、今のところは、過去にルイブルがソーシャルメディアなどを通じてグリミーに接触を試みたことはないと見られている。

グリミーは、若者の間で高い人気を誇っていた新進歌手。15歳の時、YouTubeに、マイリー・サイラスなどの歌をカバーするビデオを投稿し始め、たちまち百万人以上のサブスクライバーを集めて、センセーションを巻き起こした。MyYouTubeコンテストでは、セレナ・ゴメスに続いて2位を獲得。ゴメスの義父に実力を買われて、その後、ゴメスと一緒にツアーをし、前座やバックアップシンガーを務めるなど、ゴメスと親しい関係を築いている。2011年には、シングルをリリース。2014年、NBCのコンテスト番組「The Voice」に出演して3位を獲得、アイランド・レコーズと契約を果たした。この契約は短期間で解消されてしまったが、今年2月には、2枚目のEPを独自リリースしている。

事件が起きたのは、グリミーが演奏を終え、ファンと一緒に写真を撮ったり、サインをしたりしている時だった。列でルイブルのちょうど後ろに並んでいたというファンの女性デスティニー・リヴェラは、people.comに対して、ルイブルに何か気味の悪いものを感じたと語っている。「列の後ろに並んでいた女性たちとはおしゃべりをしたけれども、彼は、なんだか話しかけてはいけないような雰囲気だった」ということだ。ルイブルの番が回ってきた時、グリミーは、誰に対してでもそうするように、「すごくうれしそうに、両手を広げて彼を受け入れた」と、リヴェラはその瞬間を振り返る。しかし次には3発の銃声が聞こえ、グリミーは床に倒れ、ファンはパニックし、走って現場から逃げた。ルイブルに襲いかかったマーカスについて、警察は、「さらなる悲劇を食い止めてくれた、英雄的行動」と賞賛している。別の観客は、コンサート会場の入り口で所有物のチェックがなかったことを明かしており、今後、セキュリティが十分だったかどうかにも焦点が当てられると思われる。

グリミーの突然の死を知った音楽界の人々は、次々にツィッターで追悼のメッセージを送っている。「The Voice」でグリミーのコーチを務めたアダム・レヴィーンは、「僕と妻は、クリスティーナ・グリミーの死に大きなショックを受け、悲しんでいます。ご家族の方のご心中を察し申し上げます」と書いた。「The Voice」で審査員を務めたクリスティーナ・アギレラも、「グリミーが亡くなって、とても悲しい。『The Voice』の素敵な家族の一員で、頼もしい人だった。彼女のご家族、友人、ファンのみなさま、ご愁傷様です」とツィート。セレナ・ゴメスは「心が打ち砕かれている。クリスティーナが恋しい、」クインシー・ジョーンズも、「クリスティーナ・グリミーの悲しいニュースを聞いた。こんなに若く、才能がある人が、こんなに早く逝ってしまうなんて。彼女に近しい人々とファンのみなさんのお気持ちを察し申しあげます」とメッセージを送っている。

グリミーのマネージャーを務めてきたゴメスの義父ブライアン・ティーフェイは、グリミーの遺族を支える資金集めのため、GoFundMeというウェブページを立ち上げたと発表した。現在までに、6万1,354ドルが集まっている。一方、ルイブルの家族は、家のドアに、「とても才能があり、美しいクリスティーナ・グリミーのご家族、友人、ファンのみなさんに、心からお悔やみ申し上げます。それ以外はノーコメント」というメッセージを貼り出している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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