イラン情勢緊迫で金価格が急伸、6年ぶりの高値更新
イラン情勢を取り巻く緊張感が急激に高まる中、安全資産の代表格である金価格が急伸している。
国際指標となるCOMEX金先物相場は、7月18日終値が1オンス=1,428.10ドルだったの対して、取引終了後に米海軍の強襲揚陸艦「ボクサー」がホルムズ海峡でイランのドローンを撃墜したことを明らかにすると、一時1,448.30ドルまで急伸する展開になっている。これは今年の最高値であり、中心限月ベースでは2013年5月以来となる実に6年2ヵ月ぶりの高値更新になる。
国内でも東京商品取引所(TOCOM)の金先物相場が7月18日終値の1グラム=4,911円に対して、19日の取引では4,983円まで値上がりしている。6月上旬には4,500円台を割りこんでいた相場だが、今や5,000円の大台乗せに迫る値動きになっている。こちらは2013年4月以来の高値を更新している。
今年の金価格は6月以降、既に上昇傾向を強めていた。米中対立の激化で世界経済の減速傾向が強まる中、米連邦準備制度理事会(FRB)が7月30~31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で約10年ぶりとなる利下げ対応に踏み切る可能性が高まったことで、米金利低下・ドル安圧力が、金価格を刺激していた。これは、金融政策環境、更には通貨価値に対する安全性を求める投資ニーズが高まった結果である。
一方、そこに地政学リスクに対する安全性を求める投資ニーズも加わろうとしているのが現状である。米国の経済制裁に耐えられなくなったイランは核合意の履行を一部中止するなど動きを活発化させており、米政府もホルムズ海峡の船舶護衛の有志連合(参考:ホルムズ海峡防衛の有志連合構想、難しい判断を迫られる日本)を企画するなど、対抗措置を講じている。伝統的に軍事衝突のリスクは、国家の信用に依存する法定通貨のリスクと評価され、国家の枠組みと関係なく購買力を担保できる金の評価を高める動きに直結することになる。
ともにリスクの底流にあるのはトランプ米大統領の存在だ。トランプ大統領が中国との対立をエスカレートさせる動きは世界経済に不確実性をもたらし、イランとの対立をエスカレートさせる動きは地政学環境に不確実性をもたらしている。しかも、こうした経済環境と地政学環境に大きなリスクを抱えた状態にありながら、米国株が過去最高値圏を維持していることが、逆に投資家の不安心理を増幅させている。
トランプ政権の1年目と2年目は、かならずしも金に対する投資ニーズを急激に高めることはなかった。しかし、大統領再選を目指す3年目はトランプ大統領発のリスクが再評価されており、いよいよ安全資産としての金が輝きを増す時間帯に突入しつつある。