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続く外科医不足、改善の鍵は女性医師

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
疲れ切った外科医(写真:アフロ)

医者はこの2年で7,995人増えたが、外科医は12人減ったーーー

先日、厚生労働省が発表した資料でこんな事実が明らかになりました。これについて、現場の医師という立場から考えたいと思います。

そもそも、お医者さんの人数は全て厚生労働省によって決められています。日本で医者になるためには大学医学部を出て「医師国家試験」という試験にパスしなければなりません。

全国の医学部の定員は9,134人で、国家試験の合格率は91.2%(2015年)だった結果、8,258人が今年お医者さんになっています。この合格ラインは厚生労働省が決めるので、事実上は合格者数を厚生労働省がコントロールしています。

医者に定年退職や免許返納システムはありませんが、じっさいに医者として働いている人数を把握するため2年に1回全ての医師にアンケートをし、毎回公表しています。

増えている医師数
増えている医師数

この結果によると、医師全体の数は毎年3%ずつくらい増え続け、今年は31万人でした。沖縄の那覇市の人口と同じくらいです。アイスランドも同じくらいの人口ですね。結構多いな、という印象を持たれたでしょうか。

そのうち外科医はおよそ28,000人。とても困ったことに、この人数は増えるどころかわずかに減っています(28,055人→28,043人)。

一方、小児科医は順調に増え続けていて(16,340人→16,758人)、産婦人科医も増えています(10,868人→11,085人)。

これは、研修医が小児科・産婦人科を選んでいるからに他なりません。ちなみに、専門の「科」は日本では自由に決めることができます。

この理由について考えました。

まず第一に「働きやすい職場」が挙げられます。

産婦人科・小児科は約40%が女医さんと、とても女医さんが多い職場です。数年前に産婦人科・小児科崩壊がニュースになってから、業界をあげてそれらの専門家を増やすために起きたこと、それは「働きやすさの向上」です。私の知人の産婦人科医師は女性ですが、「仕事は毎日8時から5時半までで、それ以降は当直医が対応するから必ず定時に帰れる」と言っていました。もちろん産休・育休もしっかりとれ、妊婦さんもむしろ出産直前まで働けるとか。これには本当にびっくりしました。

だから、女医さんも燃え尽きずに仕事を続けやすいのです。

7時〜20時勤務が毎日続き、時折緊急手術で病院に泊まるような生活の外科医では考えられないことです。ちなみに外科における女性医師の割合はなんと、1.9%。(※)

こんな生活、こんなライフスタイルでは外科医になろうとする人が増えません。事実、「外科には強い興味があるし外科医になりたいと思うが、この生活を続けられる気がしないし結婚・出産・育児を考えたらとてもではないが外科医にはなれない」と私の病院の女性研修医も言っていました。

そしてもう一つの要因が、「臨床研修制度」です。

臨床研修制度とは、医学部生が医学部を卒業した後に2年間研修医としていろいろな科を回りながら研修を積む制度です。「スーパーローテーション」とも呼ばれるこのシステムは、厚生労働省によって事実上義務化されています。

この臨床研修のあいだ、研修医はあちこちの科を回ります。そのあいだに、人体のさまざまな勉強をしつつたくさんの「将来の自分」を見るのです。ホニャララ科の先生はずっとマンションとお金の話ばかりしてるなとか、ナントカ科ではあまり動かないけど頭脳労働が激しいなとか、外科医は全員ぽっちゃりで腰痛持ちのオジさんだなとか、そんな具合です。

こうやってスーパーローテーションをしているあいだに、自分のロールモデルとなる人を見つけて専門にする科を選んでいくのです。

平たく言ってしまうと、バレるんですね。「外科はヤバい」ということが。

少しでもまともな判断ができる人は、朝一番に来て夜最後に帰るのに給料が一緒で、強い上下関係のストレスのあまり暴飲暴食で小太りになる科は選ばず、9時5時で夜も呼ばれず当直もない科を選ぶんです。

昔は臨床研修制度がなかったため、「部活の先輩に勧誘されたから」「ラグビー部は全員外科と決まっているから」などという理由でひと学年100人のうち20人も30人も外科医になりました。それが今では、ひと学年に一人かふたりしか外科医にならないそうです。

つまりまとめると「外科医の労働環境が悪く、人材が流出している」という一言に尽きます。

外科医数の減少、解決の鍵は「女性医師」。

調査結果では女性医師は60,495人で、2年前と比べ3,806人、なんと6.7%も増加している。12年前には女性医師は4万人ちょっとしかいなかったのを考えると、かなりのハイスピードで増えている。どんどん増え続ける女性医師を外科医にするために、子育てをしながらメスを持つ環境の整備をした病院づくりを考えていきたいと考えています。もちろんそうすることにより、男性外科医に更なる負担をかけることは論外です。つまり必ずコストが発生しますが、厚生労働省が何も手を打たない以上は仕方のないことかもしれません。

(注)記事中の医師の勤務スタイルや体型は個人により差があり、病院や役職によっても異なります。

※ 呼吸器外科・心臓血管外科・乳腺外科・気管食道外科・消化器外科をあわせた数字です。詳細はこちらの6ページ目をご参照ください。

(参考)

「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」厚生労働省

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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