OMECO商標登録の取消を支持した知財高裁判決文が公開されました
”OMECO”なるブランドでOMEGAのパロディ時計を販売していた企業(株式会社OMECO)の商標登録(第6277280号)を、本家OMEGA社が異議申立により取り消したことに対して、OMECO社が提起した取消訴訟(ややこしいですが取消の取消です)は、OMECO社の敗訴(取消の維持)となりましたが(参考記事)、早くも判決文が裁判所サイトで公開されました。
一般に、商標の登録異議申立の決定の取消訴訟は、商標権者が原告、特許庁が被告となります。あくまでも、特許庁の判断に対する争いだからです(これに対して、無効審判の取消訴訟の場合は商標権者が原告、審判請求人が被告(またはその逆)となります)。なお、今回のケースではオメガ社が被告側の補助参加人として訴訟に参加しています。
元々の異議申立の決定文はまだ特許情報プラットフォームで閲覧できる状態になっていないのですが、今回の判決文に要旨が抜粋されているのでおおよその内容はわかります。要約すると以下のとおりです。
①OMEGAの商標の周知著名性の程度は極めて高く、OMECOとOMEGAの類似性の程度は低くはないことにより、OMECO商標を使用した商品がOMEGA社と経済的若しくは組織的に何らかの関係にある者の業務に係る役務であると誤認し、その出所につき混同を生じさせるおそれがあることから、商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標)に該当
②OMECOは、これに接する需要者に女性器あるいは男女の性交を意味する俗語を連想、想起させ、卑わいな印象を与える商標であること、上記①のとおり、本件商標をその指定商品について使用する場合には、商品の出所について混同を生じるおそれがあること、本件商標を、OMEGAの腕時計である「SPEEDMASTER」と酷似する原告の製造販売に係る腕時計の広告に使用しており、OMEGAに化体した信用、名声及び顧客吸引力にフリーライドする目的で商標登録を受けたものであり、さらには、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいてはOMEGAの信用を毀損させるおそれがあることから、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)に該当
これに対して知財高裁は少なくとも4条1項7号には当たる(4条1項15号については判断せず)ということで、原告の請求を棄却(取消を支持)しました。裁判所の判断の該当部分を(読みやすくするために一部省略した上で)以下に引用します。
結局のところ卑猥であるという点が決め手となったということになります。このあたりの感覚は関西の人とそれ以外で判断が分かれるかもしれません。なお、上にも書いてあるように、ウェブサイトでさんざん性的なパロディであることを売りにしておいて、裁判において消費者は性的なものと認識していないと主張するダブスタが裁判官の心証に影響した可能性もあります。
登録が認められた「フランク三浦」との違いはどこにあるのかと言われることがありますが、「フランク三浦」には卑猥な要素はないため4条1項7号では争われていないと言う点が大きいでしょう。また、OMEGAの方がフランク・ミュラーよりもさらに著名性が高いという要素もあるかもしれません。
なお、OMECO社は、今年の3月2日にOMECOの文字と例の図形を組み合わせた結合商標(商願2022-034608)を出願しています(料金未納状態と思われます)。今回の商標のバックアップという意図なのかもしれませんが、類似先登録や識別性が問題になっているわけではないのであまり意味がないと思います(むしろ、公序良俗違反度が高まっているのではないかと思います)。
ここからは私見になりますが、何回か書いているように、パロディ商品を販売する表現の自由は認められるべきと思いますが、それを商標登録しようとするのはどうしたものかと思います(有名ブランドの独占支配に対する反骨精神としてパロディをする側がそのパロディを独占支配しようとするのは何なんですかということです)。
(追記)OMECOが商標登録できないことは表現の自由に反するのではという論点があります。商標登録できないということは使用ができないということではありません。誰でも自由に使用できるようになったということです(不正競争防止法の問題はありますが)。仮にOMECOが商標登録されたとすると、OMECOという時計を製造販売したい人(もしそういう人がいたとして)は、OMECO社の許可がなければできません。むしろ、その方が表現の自由が制限されていると言えないでしょうか?