47歳。誰と飲みに行くのか妻に言わない。妻がどう思っているのかも聞きません~スナック大宮問答集62~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***マサルさん(仮名。既婚男性、47歳)との対話***
開発と営業、上司と部下。いろんな人が勝手なことを言うのを聞いてまとめる役割です
――マサルさんは過去20回以上は参加してくれている「常連さん」ですよね。スナック大宮に参加してみようと思ったきっかけから教えてください。
ずいぶん前のことなので忘れてしまいましたが、元々飲み食い好きなので飲み友だちを増やしたいなと思ったのが理由だったと思います。実際、スナック大宮で知り合った人たちと何度か飲みに行きました。
――スナック大宮は婚活パーティーではないので既婚者のマサルさんも歓迎します。「あわよくば浮気相手を見つけたい」なんていうヨコシマな気持ちはありますか?(笑)
それはありません。いや、素敵な女性参加者とご一緒することもあるので少しはあるかな(笑)。でも、主な目的は同性を含めていろんな人と知り合ってそのお話を聞くことです。
――人が好き、ということですか?
私は人の思考と行動にすごく興味があって、研究者時代はDNAが専門でした。生物学的なアプローチでの人間探究です。30代半ばで現在の勤務先であるメーカーに転じて、今はマーケティングの仕事をしています。開発と営業の間に立つような業務で、中間管理職でもあるので、いろんな人が勝手なことを言うのを聞いてまとめるような立場です。
――ストレスが多そうな役割ですけど、「この人はどうしてこのような言動をするのか」と観察して分析する感覚があれば楽しめそうですね。
はい。私は学会で発表するようなアウトプットよりも、人間に関するいろんな仕組みを知るインプットが好きなのだと思います。今は通信制の大学院に入ってドイツ哲学を学んでいるところです。今度は文系的なアプローチですね。課題書が難し過ぎて読むのが辛いんですけど……。
人には興味がある。仲良くなりたい。でも、特定の人間関係に依存したくない
――そんなマサルさんはスナック大宮の参加者をどのように見ていますか。
私は他の人が主催するゴハン会にもときどき参加しています。営業系の派手めの人が集まるところは賑やかで楽しいです。でも、人と人との距離感が近すぎたりします。初対面からタメ口だったり。私はタメ口で話しかけられるのは嫌いではありませんが、私自身は敬語で距離をとってしまうほうです。特定の人間関係に依存したくない、という気持ちが働くのかもしれません。
スナック大宮の参加者はおとなしめだけど社交的で行動力がある人が多い印象です。飲みに誘うとかなりの確率で応じてくれますが、距離を詰めすぎる人は少ない気がします。私と似たような感覚の人が多いのかもしれません。
――マサルさんはお子さんもいますよね。家族との関係性はいかがですか。
学生時代の先輩でもある妻と中学校1年生の息子との3人暮らしです。それぞれ自分の部屋があり思い思いの過ごし方をしています。依存も干渉も少ないほうではないでしょうか。
妻も会社員です。ときどき同僚と飲みに行ったり、私とも外食に出かけることはあります。でも、基本的には家でまったりしているのが好きなようです。
私は週の半分ぐらいは出社して、残りは在宅ワークです。どこの誰と飲みに行くのかは言いませんし、妻がどう思っているのかも聞きません。大宮さんが住んでいる愛知県でのスナック大宮にも参加しましたが、私の実家も西のほうにあるので「実家の様子を見ながらちょっと旅行してくる」と伝えただけです。
――ご家族ともつかず離れず、なのですね。人間関係はそのほうが長続きするのかもしれません。年男の僕たちはもう一回干支が回ると還暦ですが、今後のことはどう考えていますか?
数年前に父が仕事をリタイアして悠々自適に暮らしています。それが羨ましくて、私も投資を始めました。いわゆるFIREができるほどお金を貯めるのは難しそうですが、会社員としての仕事は今の半分ぐらいにできないかなと思っているところです。うちの会社にはそういう制度があって、10歳年上の先輩社員が活用しています。インプットの時間をもっと増やしたいですね。メーカー社員として得た知見を活かした実用書を出版するのも面白そうだなと思っています。
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人との交流から見えてくる自分の性質。迷惑な部分は抑えて喜ばしい部分を強化する
以上がマサルさんとの対話だ。おとなしめだけど社交的、距離感が近すぎない人たち、というスナック大宮の顧客層分析には笑ってしまった。主催者である筆者自身がそのような人間だからだ。筆者は友だちは多いほうだと思うけれど、親友とか竹馬の友などと呼べるような人は見当たらない。そのときに置かれた環境で親しくなれそうな人を見つけて腹を割って交流し、どちらかの引っ越しなどをきっかけに疎遠になればまた別の人と親しくなる。
マサルさんは「特定の人間関係に依存したくない」と表現するが、筆者の場合は「長く依存し合えるような人間関係に憧れがあるけれどできない」「そのときに近くにいてくれる人に依存する」だ。コバンザメのような性質と言えるかもしれない。情が濃いので人付き合いをあえて抑制しているという妻からは「あなたは情が薄い。だからいろんな人とすぐに仲良くなれる」と指摘されている。
対話の効用の一つは、他者を通じて自己発見ができることだと思う。発見した自分の性質を大きく変えることは難しいけれど、周囲の人に迷惑をかける部分は抑えつつ喜んでもらえる部分を強化すればよいのだ。筆者の場合は情弱ならぬ情薄だからこそのフットワークを生かして、様々な土地と場面で人と人をつなげていこうと思っている。