リモートワークで集中力を維持するために 心理学から考える3つの工夫
コロナをきっかけに、部分的あるいは全面的にリモート環境で仕事をする習慣が定着しつつあります。
ただ、「オフィスなどでないと集中しづらい」という人が多くいるのは事実です。そういう人は、どうすればリモート環境でも集中して仕事ができるようになるのでしょうか。
この記事では、技能五輪選手の支援事例を参考に、心理的な工夫やテクノロジーを使った集中力を維持するための方法を提案し、なぜそういった方法が効果的なのかの理由を解説します。
集中に影響する環境からの刺激
そもそもなぜ「オフィスなどでないと集中しづらい」のか。
いくつか理由は考えられますが、例えば環境からの刺激による影響があげられます。一般的には静かで視覚的な刺激の少ない環境の方が集中しやすいとされますが、自宅などのリモート環境はそうもいかない場合も多いでしょう。
人の刺激も影響します。誰かに見られていたり、集中している誰かが目に入ったりすると、自分も集中しやすくなります。この効果を「社会的促進」といいます。同僚が一緒に働くオフィスではこれが起こりやすく、逆に自宅などのリモート環境は起こりにくい可能性があります。
この他にも様々な「集中しづらい条件」が揃ってしまうことで、リモート環境の方が集中しづらいという状態になってしまいます。
集中するためには、自宅でも「仕事部屋」のような環境を物理的に作れるならいいかもしれませんが、それが難しい場合は「集中するための工夫」を各自が行う必要となります。
そこで今回は、筆者が行う技能五輪選手への支援方法を参考に、集中しづらい状況を「気が散る」と「長く集中できない」に分けて、その具体的な方法について解説していきます。
1.気が散るへの対策:フォーカル・ポイント
フォーカル・ポイントとは日本語で「注目の的」という意味です。注目すべき的を決めておき、気が散ったときにそこを見て、頭の中を切り替える方法です。スポーツ心理学などで一般的に用いられる手法です。
例えばPCを使って作業する人なら、ホームポジションで指を置く「J」ボタンをフォーカル・ポイントと決めます。もし気が散っていると気づいたら、「J」を見つめ、「集中、集中、集中」と3~5回繰り返したり、や「1、2、3、4、5」のように数字をカウントしたりして、頭の中で切り替えの言葉をつぶやきます。これによって頭が切り替わり、再び仕事に集中できるという方法です。
フォーカル・ポイントの対象はできるだけ具体的なものが適しています。例えばPCの画面全体などよりは、キーボードの文字やロゴマークなどの方が適しています。
また例えば道具を使う人なら道具の先端やロゴマーク、キッチンや作業場のような空間で仕事をする人ならその中にある何らかのマークや自分で置いた小物なども、フォーカル・ポイントとなります。
この方法が効果的な理由は、「切り替え」という曖昧な行為を、目に見える具体的な行動にできる点です。
私たちの集中力は、目新しいことや気になっていること、ふと目や耳を通してインプットされることなどに簡単に捕まってしまいます。
この現象を「注意の捕捉」といいます。
いったん注意が捕捉されると、集中力の主導権が奪われてしまい、頭がなかなか言うことを聞いてくれません。
その対策としてフォーカル・ポイントを見つめることで、インプットが目の前のことに一旦切り替わります。これによって注意の捕捉から集中力の主導権を取り戻し、再び集中したいことに集中することができるのです。
もちろん、見る場所を決める以外にも有効な方法はあります。例えば、指や腕の動きといったジェスチャーで切り替える方法などです。フィギュアスケートの羽生結弦選手は、指をくるくる回すことで切り替えるそうです。
2.長く集中できないへの対策:タイムボックス法
時間を15分~30分単位で区切り、これを箱に見立てます。そして例えばこのボックスで仕事Aの資料を作成する、このボックスでは仕事Bの分析をするなどのように、箱にものを入れていくイメージでタイムボックスに仕事を割り当てていきます。
時間が来たら、仕事が中途半端でも、一旦そこで手を止めて、5~10分ほど休憩をとります。休憩という表現に抵抗がある場合は、インターバルと捉えてみます。その後、次のボックスに取り掛かります。
これによって、高い集中力をキープすることに加え、無自覚な集中力の低下を避けることもできます。
なぜ15分~30分で区切るのかというと、様々な知見から、最適な集中時間は短くて5分(ビジランス能)、長くても40~45分程度(能率曲線や、以下で紹介する45分の学習サイクル)であることがわかっていて、それ以上の時間取り組んでも、集中力を発揮しにくいからです。
東京大学の池谷教授がベネッセと共同で行った中学生を対象とした研究によれば、学習開始から40分ほどで集中時に出る脳波が急激に低下すること、そして15分学習し7.5分休むサイクルを3回繰り返す「45分の学習サイクル」に取り組んだグループは集中力を一定レベルに保てたことが示されました。
このグループは、ぶっ続けで60分学習したグループよりも、学習成績も良かったようです。
中学生を対象とした研究なので大人にそのまま当てはまらないかもしれませんが、「人が集中できる時間には限界がある」ことを示す一つの知見と考えられます。
どのくらいの時間集中できるかは個人差や取り組む仕事の性質、難易度なども影響しますが、おおむね1時間以下という前提で仕事に取り組む方が効果的と考えられます。
また、集中力は休むことで回復するため、長い時間かける必要のある仕事では、いかに休むか?も大事な要素です。
集中力は注意資源という頭の中のバッテリーを消耗します。上記の研究では7.5分休んでいますし、仕事での集中力を高める方法の一つポモドーロ・テクニック(Evernote "集中力を高めて、やるべきことを確実に終わらせる 4 つの方法"より)では、25分やって5分休むことが効果としています。
技能五輪選手の場合、筆者の調査からは20~40分やると作業の精度や速度が落ちる傾向があるようです。そのため休憩を入れずに続けると無自覚に集中力が下がり、ミスが増えたり問題解決に手こずるといったことが起こります。
やりすぎはかえって効率を下げます。休むことも仕事の一部と捉えて、罪悪感を持たずに休むことが重要といえます。
もちろん、「いま乗ってきたからもう少しやりたい」と思うこともあるので、ある程度は柔軟に行うのがよいと思われます。
3.テクノロジーを使った可視化
ここまで解説した2つに加えて、テクノロジーを使った工夫もあります。これは、心理的な工夫に実体を作る位置づけです。
心理的な工夫は主に頭の中で意識して行うものであり、形がありません。始めるきっかけや、やったことを覚えておくには、意識的な努力が求められます。
これはやる人にとって負担です。
テクノロジーはこうした問題を解決するのに役立ちます。
例えば、togglのようなオンラインの時間管理アプリを使い、タイムボックス法を可視化する方法があります。こうしたアプリはストップウォッチ機能が備わっていて、取り掛かった仕事の内容と時間が自動でPCやスマホに残るので、自分がいつ、何をどうやったかを確認することもできます。
筆者はtogglを使っていますが、「今から何に集中すべきか」が可視化される点や、「このくらい頑張れば良い」と見通しが立つ点で、集中が続きやすいと感じています。
なお前項で紹介したポモドーロ・テクニックをtogglを使って導入する方法もあるようです。
アプリ以外にも、IoTブロックやスマートウォッチなどは「目に見えない意識の問題」を可視化する方法として有効です。
まとめ
ここまで、「オフィスなどでないと集中しづらい」場合の対策について、技能五輪選手の支援事例を参考に、心理的な工夫やテクノロジーを使った集中力を維持するための方法を解説してきました。
集中力は個人の努力だけの問題ではなく、仕事に取り組む環境からの刺激や仕事の難しさにも影響を受けます。
そのため、頑張って集中しようとしても気が散ってしまったり、集中力が続かなかったり、つい自分なりの工夫を忘れてしまったりします。
その対策として、フォーカル・ポイント、タイムボックス法、テクノロジーを使った可視化について紹介しました。
もちろんこれらが唯一の方法ではないので、「集中しづらい環境でも自分なりの集中する方法」を工夫する一助となれば嬉しく思います。
参考文献
・道又 爾ほか著. (2011). 認知心理学 知のアーキテクチャを探る. 有斐閣.
・日本認知心理学会監修 原田悦子・篠原一光編. (2011)."注意と安全. 北大路書房.