間々田優、JR武蔵野線の駅と縁があると話題の名曲「吉川美南」とは?
“平成”を駆け抜け歌を捧げた、突き刺し系シンガー間々田優が最新アルバム『平成後悔』をリリースした。本作に収録されたメロディアスなナンバー「吉川美南」がSNSで話題となっている。
まずはミュージックビデオを観てほしい。
「吉川美南」間々田優
君が吉川美南
体預けた空っぽの始発 赤く染まれ
RADがかき消してくれるから どこへだっていい
星を探す窓 揺れる女の子 ななめにぽつり
化粧もまだ前髪のフレームに 僕もいるかな
一聴して耳に残るやさしき歌声と胸に染み渡る人懐っこいメロディー。たゆたうようなビート感は、ケツメイシ「トレイン」、神聖かまってちゃん「美ちなる方へ」、山下達郎「ターナーの汽罐車」、くるり「赤い電車」を聴いたときに心を鷲掴みされた衝動に近い。偶然にも、電車でつながる名曲シリーズだ。甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいになるのだ。
なお、女の子の名前のように見える曲名「吉川美南」は、実は武蔵野線の駅名だという。
始発電車の斜め前に座っていた女の子が、JR武蔵野線の駅で降りたことから広がるストーリー。ふと到着した駅の外を見上げると「吉川美南」という名前みたいな駅名だった。ゆえに名付けた“吉川美南”との刹那な恋心。電車を降りたあの子とはもう二度と出会うことはないかもしれない。でも、君の名前はここにあるから、と歌う。せつなさで感情が高まる魔法めいた楽曲パワーはもちろん、駅名をタイトルにして物語化したまるで映画のようなセンスに感銘したのだ。間違いなく2020年、記憶に残る名作のひとつだ。
物語はリアルの現場へも波及していく。リリース直後から楽曲「吉川美南」は、埼玉県吉川市の住民、鉄道ファンの間で話題となり、間々田優は吉川市長、吉川美南駅長と対面することになった。仕込みでも出来レースでもない、思いもよらない出来事だった。
まさかの楽曲の広がりに本人も驚きを隠せないという。音楽を通じて、街、行政の活性化にもつながるかもしれない。
CDバブル時代のヒットの方程式が崩壊したという昨今の音楽シーン。人の心に刻まれる音楽のあり方とは? そんな可能性を間々田優は教えてくれた。音楽への想いの強さは必ずや広がっていくのだ。
その後、Spotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』のTOPカバーに抜擢されるなど、「吉川美南」のスマッシュヒットで注目を集めた間々田優は、2020年2月26日に最新アルバム『平成後悔』をリリースした。“令和になれない、心たちへ”贈る作品だという。そんな彼女に話を訊いた。
<間々田優 独占インタビュー>
――アルバムのタイトルを『平成後悔』と名付けた理由は?
間々田:わたしが一番長く生きた時代だからです。なのに、さらりと移り変わってしまったことへの後悔や希望や、不安を残したかったのでアルバムにしました。“わたしとあなたが生きた時代があったんだよ”、“わたしとあなたはこれからも居るんだよ”と伝えたかったんですね。
――平成が終わり、令和を迎えたいま。間々田優はどんな未来へ向かっていこうとしているのでしょうか。
間々田:平成で諦めてしまったわたしに向かいたいです。それで新しい時代に寄り添えるのなら嬉しいですね。それこそ、わたしは平成元年に小学校1年生でした。平成とともに学生時代がはじまったので、平成が終わるにあたってなかなか語り尽くせない想いがありました。自我を得て、学生時代に人間関係とか夢だとか苦悩にぶち当たって葛藤して、音楽と出会えて。音楽をやり続けてきた歴史が平成と共にありました。平成を振り返る機会があったのですが、元号が変わるという区切りではなかなか総括し尽くせなくって。それで、平成への想いを全部吐き出す私小説のような作品を自分の言葉で残したかったんです。平成が終わって、時間がたったいまだからこそ言えることですね。いま、音楽家としては期待と未来が溢れていると思っています。バブリーな夢はないけれど、神経質で、繊細になっていく社会や人々の中だからこそ、ひとつひとつ、ひとりひとり、昨日今日明日を、音楽があれば向き合っていけると確信しています。
――今回先行して配信した曲が、「赤い月・ウサギ」、「吉川美南」、「サカナ」という、すべて何かを比喩しているタイトルでありテーマとなっているのも興味深かったです。
間々田:対人直接話法といいますか、誰かの日常生活になりたがる欲求がありまして。演劇的というか、会話の中でモノマネだったりだれかになりたがることがあります。目線、動き出す、佇まい。それが曲作りにも活きていて、誰かの体験を受けてその人に成り切って曲を書くというか。もしかすると、いままでだったらもっとカッコつけていたところがあったかもしれません。そんな“決めつけていた間々田優らしさ”を解放したのが今回のアルバム『平成後悔』ですね。
――間々田さんは、普段の日常生活ではどんな方なのですか?
間々田:えっ、普段は眠たい時に寝て、食べたい時に食べる、自堕落な人間ですね(笑)。死ぬまで治らないと思うのですけど、カッコつけなところがあるので、誰かと会うときにはカッコいい自分を見せたくてお化粧したり、会ったとき、会った後のシミュレーションをしたり(笑)。子供の頃からずっとそんな子でした。
――“突き刺し系”という言葉がキャッチコピーとなっていますが、それは自分の中の壁を壊していきたい、人と繋がっていきたいという意味があったりしますか? 元々はお客さんが「ライブを観て突き刺さりました!」ということからだったと思うのですが。
間々田:今は、自分を突き刺したいという思いが強いです。自分自身を突き動かしたいという考えがあって。日常生活では諦めたりかき消したり、もやもやっと自分の感情に耳を傾けることなく無視してしまうこともあるんです。そうしていかないと生きていけないこともあるので。それを音楽の上では、自分の心や体を突き刺してでも残していきたいんです。感じていきたいと思っています。
――それは強い覚悟を持っているということですね。月並みな質問になってしまいますが、間々田優にとって音楽とはどんな存在ですか?
間々田:わたしより音楽の方が間々田優らしいなって思っています。音楽をするときにだけ間々田優になれるんです。ライブはわたしのすべてですね。世間はいまウイルスであったりこんな状況なのですが……、音楽創作もCDや配信もSNSでのコミュニケーションもライブも、全部があってこその音楽活動だと思っています。今年は北海道から沖縄まで全国へ30本ツアーをまわる予定なのでとても楽しみにしています。
<【全曲解説】間々田優『平成後悔』セルフライナートーク>
01.「後悔日和」
2年前、学生時代の友達が亡くなったことで、死を近く感じたことがありました。この曲では、シンプルなサウンドに間々田優の掛け値なしの真っ直ぐな歌声を想いを込めて歌いました。
02.「赤い月・ウサギ」
音楽で出会った子の告白を元に作りました。今までよりも激しくパンクに気持ちよく奏でています。素直に好きなパンクな曲を書きました。平成=2018年のわたしでは表せなかった曲だと思います。
03.「吉川美南」
柏へライブに行くときに大雪が降ったんです。初めて武蔵野線に乗って、まさに曲のシチュエーションでした。そんな中、考えごとをしていたときに女の子が乗ってきて、吉川美南駅で降りていって。そのままですね。
04.「サカナ」
知り合いが失恋をして、でもその彼女も彼氏もわたしにとって大事な人だったんです。ふたりがお別れをするといっても、どちらも責められないやるせなさ。恋って切ないなって打ちひしがれた曲です。
05.「新宿化屋敷」
新宿を描いて欲しいという言葉をきっかけに作りました。間々田優の代表作「アイドル」同様。レコーディングしながら“化”けていった曲。サウンド、歌詞、ストーリーが玩具箱的ですね。
06.「バカヤロー」
間々田優のザ・スマッシュ・ラブソングを聴きたいという声に応えて作りました。バンドサウンドを意識して、ライブでも絶対盛り上がる曲です。ファーストラブより、ラストラブ、ですね。
07.「平成最後」
アルバム・タイトルの元になった曲です。「昭和枯れすすき」という曲のように、令和何年になっても歌い続けたい想いを閉じ込めました。ポップなサウンドの中に平成の吐露が詰まっています。
間々田優 オフィシャルサイト