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イチロー獲得でマリナーズが再び背負う十字架

豊浦彰太郎Baseball Writer
もちろんイチローにシアトルのユニフォームはよく似合うが。(写真:ロイター/アフロ)

イチローがマリナーズと契約するようだ。あとはメディカルチェックをクリアするのみらしい。そうなれば古巣に6年ぶりの復帰となる。地元シアトルや日本のイチローファンはこの朗報に沸いている。

昨季まで在籍のマーリンズから2018年契約の球団オプションを破棄されてからほぼ3ケ月。メジャーのキャンプも始まった時期になりながらなお日本で孤独なトレーニングを積んでいた彼に、この先何が待ち受けているのだろうか。

すでに日本のメディアでも報じられているように、マリナーズがイチロー獲得に動いたのはここに来て外野手に故障者が発生し、控え選手手配の必要性が生じたからだ。

マリナーズの今季の外野陣は、レギュラーが新加入のディー・ゴードン、昨季前半大ブレイクした(後半は大失速だった)マット・ギャメル、昨季9月によく打ったミッチ・ハニガーで、控えがギレルモ・へレディアという布陣の予定だった。加えてユーティリティのタイラー・モッターも外野を守れる。これだけいれば、頭数は十分だ。

ところが、ギャメルが脇腹を痛め離脱が決定。復帰は開幕後の4月中旬以降とみられている。ハニガーの右手の故障は長引きそうもないが、当面ギャメルの穴を埋めるべきのヘレディアは昨年秋に右肩の手術を受けており、万全な状態で開幕を迎えることができるかは不透明だ。これでイチローにお鉢が廻ってきたのだ。

しかし、急場をしのぐ控え外野手として、イチローという選択はマリナーズにとってベストだったのかどうかは議論の余地があると思う。空前のFA市場冷え込みの中で、外野手もカルロス・ゴンザレスのような超大物からホゼ・バティスタやマット・ホリデイなどのビッグ・ネーム、メルキー・カブレラやジョン・ジェイといった中堅どころも残っていた。

その中で、シアトルのアイコンで将来のホールオブフェイマーで今なお健康体であるにせよ、攻守とも衰えは否定できないイチローを敢えてチョイスしたのはなぜか?考えうるのは、あくまでギャメル復帰までの繋ぎなのでなるべく安く済む選手にしたかった、チームの低迷が続く中イチロー加入によるマーケティング効果が魅力だった、このどちらかかまたは両方ということだろう。

短期的なソリューションとしては悪くないと思う。イチローの昨季のOPS+は76と悲劇的だが、欠かさぬトレーニングと節制で44歳にしてなお健康体だ。故障者の穴埋めが故障持ちでは話にならない。

しかし、当初の予定通りギャメルが4月後半に戻って来たらどうする?という疑問は残る。そのまま外野手5人体制というのはあり得なくはないが、普通はここでだれかが1人戦力外通告を受けることになる。年齢構成を考えると、それは若いヘレディアではなくイチローだろう。

これが他球団であれば、それこそ「レジェンドといえども特別扱いなし」で良いかもしれないが、果たしてシアトルにそれができるか?もちろん、ギャメルが戻って来た時点では今度は他の誰かが故障中、または絶不調ということも十分あり得る。しかし、そうでない場合のシナリオもマリナーズは最初から想定していなければならない。

イチローが、「今季シアトルで球歴を終える」と考えているなら別だが、彼の目標は50歳までの現役のはずだ。そうなると、マリナーズは2012年にイチローをトレードした時点で解放された「人気抜群のスーパースターに引導を渡す」というできれば避けたい十字架を再び背負うことになる。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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