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「希望するみんなが保育園に入れる社会」を求める有権者の声は候補者に届くか

治部れんげ東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
子どもが安心して過ごせる場が増えることは、親が安心して働けることにつながります。(<font style="vertical-align: inherit;"><font style="vertical-align: inherit;">ペイレスイメージズ/アフロ</font></font>)

 衆議院選挙が10月22日に予定されています。少し前まで、自民党も民進党も増税とセットにした、子育て支援・教育支援の拡充政策を打ち出していました。財源と一緒に、子ども関連の予算を増やす議論がようやく始まった――と思っていたら、希望の党が結成され、民進党が事実上、バラバラに。

 消費税増税はするのか。増税する場合、それは子どもに使われるのか。政治を「エンタテインメントとして眺める」のではなく、次世代のための政策を選ぶものにするため、私たち有権者は積極的に候補者や議員に働きかけなくてはいけません。

保育園を増やして欲しい人が10月4日集まる

 週明けの10月4日(水)、子育て予算の拡充を求める人たちが集まる機会があります。「みんな#保育園に入りたい~子育て・キャリア・待機児童…このモヤモヤを解決しよう」と題したセミナーが、東京・永田町の衆議院議員会館で開かれます。

 セミナーは、ここ数年、保育園探しを経験した首都圏のパパ・ママたちのグループ「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」が企画・運営するものです。保育園を増やして欲しい、と望む人たちの声を政治家に届けるため、ソーシャル署名を行ったり、ワークショップを開いたりしてきました。

 会のコアメンバーで、7歳・5歳・2歳のお子さんを持つ会社員パパのRさんは、ご自身の保活体験をこのように話します。Rさんは都内でも有数の保育園入園激戦地域に住んでいます。

第7希望まで保育園に落ちた時、パパは…

 「1人目の出産直後。子どもが生まれて私の頭の中はお花畑。一方、妻は0歳5カ月で預けるのは早すぎるんじゃないか…でも1歳5カ月まで休んだら仕事離れすぎるかな…と悩んでいました。

 そんな妻の悩みを想像できないまま臨んだ初めての保活で、認可保育園は第7希望まで全滅。夫婦ともにフルタイムで働いているのに落ちた…。『あれ?もしこのまま保育園に入れなかったら、俺が仕事を休むの?』と、その時初めて、保活が自分事になりました。

 それから毎日、何園も電話をかけて、たまたまその日に空きが出た園に拾ってもらえました。今、思い出してもゾッとする綱渡り。その時に入園できていなかったら、2人目、3人目も生まれていなかった、と思います」

 これは他人事と思えません。私自身の出産は約10年前。当時、都心部では、夫婦ともにフルタイム、祖父母が近くに住んでおらず、0歳児クラスであれば、何とか4月に入ることができました。

10年前より大変な都市部の保活

 今、私と同じ条件の若いパパやママたちは、同じ地域で保育園を利用するのがとても難しい状況にあります。ここ数年、赤ちゃんが生まれたパパやママたちと話をすると「その条件で入れなかったら、一体、誰が入れるんだろう…」と驚きます。

 Rさんたちが目指す「保活の大変さを、これ以上、次世代に引き継ぎたくない」という気持ちに私も共感し、10月のイベントではファシリテーターをお引き受けしました。

 保育園不足の問題は、今、フルタイムで働いている親たちだけのものではありません。本当は仕事に復帰したい専業ママ・パパ達が、入園申し込みすらせずに諦めていたり、フリーランスやパートタイムで働く親たちが入園審査で後回しにされていたりします。こうした問題の根本には、保育園が足りなすぎること、があります。

でも、数だけを追求するのは危険

 保育園不足問題の議論は、とにかく数を増やせばよい、という単純な解決策にいきやすいのですが、Rさんたちのグループは「むやみに数を増やすのではなく、安全面などの質を担保することも重要」と考えています。

 私も、保育園で起きた死亡事故の被害者遺族の方に取材をした経験や、自身の子どもが保育園に通った経験から、単に数を増やすたけの施策は危険だと思います。ですから数と質の両方を求めていく方向性に賛成です。また、働きたい専業ママの友人も少なくないことから、彼女たちのニーズに合うような保育園利用ができるような「希望するみんなが入れる社会」が実現したらいいなと思っています。

 保育園に入りたい人の増加に、保育園の数が追い付いていないのが現状ですが、政府が何もしていないわけではありません。例えば、保育の定員を今後5年で32万人増やし待機児童をゼロにする「子育て安心プラン」を発表していたり、幼児教育の実質的な無償化につながる「こども保険」の議論が始まっていたりします。

 日本が少子高齢化で人口減少が進む中、税収をこれ以上減らさず、年金や医療など社会保障を支えるため、働く意欲がある女性には働いてほしい――。腹を割って話してみると、合理的にものを考える政治家や政策関係者は、口を揃えてこう言います。そこには、右か左かといった違いはありません。つまり、働く親たち、これから働く親になりたい人たちの希望と、論理的に考えられる「日本が進むべき方向性」は大まかには一致しています。

政治家に顔を見せないと通じない?

 ただし、政治の世界は論理だけでは動きません。私はこれまで、質の高い保育園を増やして欲しい、という話をするため、何度も永田町に足を運んできました。色々な党の方とお話をした中で、特に印象に残っている言葉があります。

「みなさん、こうやって、もっと国会に来てください」

 これは、あるベテラン男性議員の言葉です。彼によると「やはり、どうしても、顔を合わせている人たちの方に政策が動くことが多い」。

 例えば産業界には政策に働きかける「ロビイング」を専門にする人がいるほどです。政治家も人間ですから、どうしても「よく会う人たち」のことを考えがち、そちらを優先しがちというわけです。同じ趣旨のことを、別の党の女性議員からも聞いたことがあります。

 ふだん、仕事と育児で忙しい働く親は、こういう状況では明らかに不利です。本来なら「顔を合わせる人を優先しがち」である政治の文化を、変えるべきかもしれません。でも、今はまず、ゲームのルールを知り、そこでどうしたら勝てるか考える方がいいようにも思います。

「もっと国会に来てください」

 ということなら、みんなで足を運ぼうではありませんか。今、保育園の入園待ちをしている人はもちろん、そろそろ子どもが欲しいけれど保育園が足りないんじゃないか、と心配な人も。同僚や後輩や友達が保育園に入れず、困っているのを見ていられない人も。

 私たちが払った税金をどのように使うか。政治とは税金の使い道を決定する過程です。次の選挙で投票先を考える上でも、ご参考になることが多いと思います。日本がもっと子育てに予算を使うべき、と考える方のご参加をお待ちしています。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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