教師が学校の教室や更衣室で教え子までも 横行するハレンチな盗撮の「罪と罰」【追記あり】
教師が学校の教室や更衣室などで教え子を盗撮するケースが相次いで発覚している。そこでこの機会に、こうした横行する盗撮事案に対し、どのような刑罰が待ち構えているのか、その問題点を含め、改めて示してみたい。
熊本:中学校の男性教諭(33)が授業中にタブレット端末を使って女子生徒の胸元などを盗撮したとされる事案が発覚
愛知:小学校の男性教諭(33)が女子児童の更衣室として利用されていた校内の部屋に盗撮用カメラを設置したとして逮捕
奈良:高校の男性教諭(30)が女子生徒の更衣室などに盗撮用カメラを設置したとして逮捕
兵庫:学習塾の男性講師(31)が塾の女子トイレに盗撮用カメラを設置したとして逮捕
京都:修学旅行中、埼玉県の中学校の男性教諭(32)がホテル風呂場の脱衣所に置き時計型カメラを設置し、女子生徒の裸を盗撮したとして逮捕
使いものにならない軽犯罪法
スマホなどを使い、駅のエスカレーターや電車内、書店内などで女性のスカートの中を盗撮するといった事案が後を絶たないが、その場で気づかれ、逮捕されるリスクも高い。
これに対し、女子更衣室やトイレなどに密かに忍び込み、小型カメラを設置し、後日同様に回収すれば、そのリスクも格段に低くなる。
更衣室やトイレは衣服の全部又は一部を着けない状態となる場所である上、着替えや用便に集中することで隠しカメラの存在に注意が向かなくなるし、短時間で数多くの女性が出入りするから、盗撮犯にとって格好の盗撮場所と言える。
しかし、こうした盗撮一般をストレートに規制し、処罰する国の法律は存在しない。そのため、軽犯罪法や刑法(建造物侵入罪)、児童買春・児童ポルノ禁止法、各自治体の迷惑防止条例など様々な法令を駆使し、取締りが行われている。
まず軽犯罪法だが、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を拘留(こうりゅう)または科料(かりょう)に処するとしている。「ひそかにのぞき見た」には盗撮も含まれる。
ただ、冒頭で挙げた愛知や奈良の更衣室、兵庫の女子トイレ、京都の脱衣所でのケースであれば軽犯罪法で処罰できるものの、熊本の教室でのケースは無理だ。
しかも、拘留(読み方は同じだが捜査段階で逮捕に続いて行われる「勾留」とは異なる)は1日以上30日未満の身柄拘束、科料は千円以上1万円未満の金銭罰であり、あまりにも刑罰が軽すぎる。
検挙の入り口として使われる建造物侵入罪
そこで、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物」に侵入した者を3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処するとしている刑法の建造物(住居)侵入罪を使うことが考えられる。
これは、カメラの設置や回収を含め、盗撮を目的とした更衣室やトイレへの侵入行為を取り締まることで、前提となる盗撮をも実質的に取り締まろうというものだ。
更衣室やトイレも「建造物」の一部であり、たとえ教諭であっても、管理者(例えば学校だと校長)の意思に反して立ち入れば、不法にそのエリアに「侵入」したということになる。盗撮用のカメラを設置するために盗撮犯が更衣室やトイレに立ち入ることを容認する管理者など存在しないからだ。
この建造物侵入罪を使えば、盗撮未遂犯はもちろん、盗撮映像を解析したところ不鮮明で被害が特定できなかった場合でも、取り締まることができる。軽犯罪法に比べると、刑罰も重い。
そこで、駅や百貨店、スーパー、居酒屋などにおけるカメラ設置型の盗撮事件では、まず設置のための侵入行為を建造物侵入罪ととらえ、被疑者を逮捕し、その身柄を確保している。その上で、保存されている動画を解析するなどし、具体的な盗撮の有無や程度、常習性などに関する捜査を尽くす場合が多い。
冒頭で挙げた愛知や奈良の更衣室、兵庫の女子トイレ、京都の脱衣所でのケースも、まずこの建造物侵入罪で教諭らを逮捕し、捜査を進めているところだ。ただ、熊本のケースのように、教諭が自由に出入りできる教室で授業中に行われた場合だと、建造物侵入罪に問うことはできない。
同様に、例えばコンビニの経営者が店舗内のトイレに盗撮用のカメラを設置したようなケースや、オイルマッサージ店の経営者が店舗内の更衣室兼シャワー室に盗撮用のカメラを設置したようなケースも、やはり建造物の管理者自身によるものであり、建造物侵入罪は使えない。
被害者の年齢によっては「児童ポルノ」に当たる場合も
そこで次に、盗撮された被害者の年齢に注目し、18歳未満であれば、児童買春・児童ポルノ禁止法の児童ポルノ製造罪に問うことが考えられる。もともとこの製造罪は、18歳未満の男女に対し、次のような「児童ポルノ」に当たるポーズをとらせ、これを撮影・記録するケースだけが処罰の対象だった。
1 児童を相手方とし、又は児童同士の性交や手淫・口淫など性交に類似した行為
2 他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首)を触り、逆に児童が他人の性器等を触る行為で、性欲を興奮させ又は刺激するもの
3 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態で、殊更にその性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部)が露出又は強調されており、性欲を興奮させ又は刺激するもの
しかし、被害者の知らぬ間に撮影する場合であっても、その尊厳を害することは何ら変わりがない。そこで、「児童ポルノ」の単純所持に対する罰則を創設した2014年の法改正に際し、盗撮のように「ひそかに」製造する場合も処罰の対象とするため、同じく法改正が行われた。刑罰は3年以下の懲役または300万円以下の罰金だ。
ただ、前提として、盗撮した動画などの内容が、先ほど挙げた「児童ポルノ」に当たるものでなければならない。通常の盗撮事件だと、3に当たるか否かが問題となるだろう。
重要なのは、犯行場所はどこでもよく、しかも「ポルノ」とは言うものの、刑法が対象とする「わいせつ」とは概念が異なるので、性器が撮影されていなくても構わないという点だ。
この点、冒頭で挙げた京都の脱衣所でのケースは、入浴のために全裸になる場所であり、男性教諭を建造物侵入罪で逮捕した後、児童ポルノ製造罪で再逮捕し、鋭意捜査を進めているところだ。
また、建造物侵入罪で逮捕された愛知や奈良の更衣室、兵庫の女子トイレでのケースも、動画の内容を精査し、3に当たるということであれば、児童ポルノ製造罪でも立件されることになるだろう。
ただ、熊本の教室でのケースは、「児童ポルノ」に当たらず、製造罪に問うことはできない。制服を着用して授業を受けている女子生徒の姿を密かに撮影したというものであり、たとえ胸元のアップが記録されていたとしても、「衣服の全部又は一部を着けない」「殊更にその性的な部位が露出」という要件を充たさないからだ。
また、そもそも18歳未満を対象としているので、被害当時、被害者が18歳以上であれば、この法律は使えない。
各都道府県の迷惑防止条例でカバー
そこで次に、各都道府県が制定している迷惑防止条例の出番となる。自治体によって条例の名称や条文の文言に微妙な違いがあるが、おおむね以下のような行為を禁じている点で共通している。
(1) 「公衆便所」、「公衆浴場」、「公衆が使用することができる更衣室」、「公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所」で、そうした状態にある人の姿を撮影
(2) 「公共の場所」や「公共の乗り物」で、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている人の下着又は身体を撮影
刑罰は自治体によって違いがあるが、6ヶ月~1年以下の懲役または50~100万円以下の罰金といった程度であり、常習犯であれば懲役の最高刑が2倍になるなど、加重されている。
ただ、初めて検挙されたケースであれば、略式起訴され、罰金30~50万円に処せられる、というのがよくあるパターンだろう。
盗撮をストレートに規制する国の法律がない中、こうした迷惑防止条例が事実上これを補完するものとなっている。駅のエスカレーターや電車内などで女性のスカートの中を盗撮するといった事件だと、もっぱらこの条例で処罰されている。
冒頭で挙げた愛知や奈良の更衣室、兵庫の女子トイレ、京都の脱衣所でのケースも、この条例を使うことが考えられる。
立件の壁となる「公共の場所」と「公共の乗り物」
しかし、これだと、学校の教室や会社の事務所、タクシーなどのように、(1)はおろか(2)にも当たらないようなところで盗撮が行われた場合には、処罰することができない。
「公共の場所」とは、道路や公園、広場、駅、空港などのように、また、「公共の乗り物」とは、汽車や電車、乗合バス、船舶、航空機などのように、不特定多数の人が出入りする場所や乗り物を意味しているからだ。
すなわち、毎日、同じ顔ぶれの生徒や社員だけしか出入りしていない学校の教室や会社の事務所は「公共の場所」とは言えないのではないか、というわけだ。
そこで、そうした教室や職場などでの盗撮をも広く処罰できるようにするため、京都府や福岡県、兵庫県などのように既に迷惑防止条例を改正している自治体もある。
例えば、先ほどの(2)の中に「公衆の目に触れるような場所」とか「不特定又は多数の者が利用するような場所」を追加することで、教室や職場のように多数であっても特定の者しか出入りしないところでの盗撮をも処罰しようというわけだ。
京都府や福岡県、兵庫県のほか、東京都や神奈川県などのように、実際に盗撮にまで至らなくても、盗撮目的でカメラを人に差し向けたり、設置すること自体を禁じ、処罰している自治体まである。
バラつきのある迷惑防止条例
ここで重要なのは、条例は法律と違ってその自治体内でしか効力がないので、盗撮を行った場所がどの都道府県なのかによって、適用される条例が異なってくるという点だ。
すなわち、同じ内容の盗撮をやっても、ある県だと処罰されるのに、別の県だと処罰されない、といったバラつきが生じてしまうわけだ。冒頭で挙げた熊本の事案、すなわち中学校の男性教諭が授業中にタブレット端末を使って女子生徒の胸元などを盗撮したとされるケースを例に挙げて検討してみよう。
もしこれが京都や福岡、兵庫で行われたのであれば、「公衆の目に触れるような場所」とか「不特定又は多数の者が利用するような場所」での盗撮に当たり、迷惑防止条例違反として処罰できる。
ところが、熊本県は2016年の時点でまだこうした規定を盛り込んだ改正が行われておらず、先ほどの(1)や(2)の形のままとなっている。
したがって、極めて悪質でハレンチな事案ではあるものの、熊本県の迷惑防止条例違反には当たらず、軽犯罪法違反や建造物侵入罪、児童ポルノ製造罪などにも当たらないので、それだけだと刑事事件として立件・起訴される可能性は低いということになる。
求められる全国画一の「盗撮罪」
盗撮はスマホなど撮影機材の小型化・高性能化で一層容易かつ巧妙となっており、犯行に及ぶ者の裾野も広がっている。常習犯や再犯にも陥りやすい。回線速度の向上でネット上へのアップも容易になり、被害者の意に反して被害動画が全世界に流され続けるといった二次被害も生じうる。
2012年には、高速移動中の飛行機内で行われた客室乗務員に対する盗撮に対し、県境付近だったため、犯罪地や適用すべき条例を確定できず、不起訴とせざるを得ないというケースも生じた。
盗撮については、各都道府県ごとに異なった取扱いをする合理的理由も乏しい。
現にアメリカやイギリス、ドイツ、フランス、カナダでは、既に国や連邦レベルで盗撮を禁じる法律が制定されている。
この種の卑劣な盗撮事案に対しては、各都道府県ごとのバラバラな条例ではなく、盗撮機器の販売や入手、設置、実際の撮影、盗撮画像や動画の所持、頒布といった各段階ごとに網をかけられるようにした上で、立法による全国一律の規制や厳罰化が必要ではなかろうか。(了)
【追記】
熊本県もようやく2018年に迷惑防止条例を改正し、教室や事務所、貸切バスなど特定かつ多数の者が利用するような場所・乗物における盗撮の規制をスタートしている。