パートやアルバイトの時給動向をさぐる(2017年11月分まで)
・パート・アルバイトの募集時における平均時給の最新値となる2017年11月分は1024円で過去最高額。
・販売・サービス系やフード系でも過去最高額を更新。
・介護スタッフは大きく上昇する形で過去最高額を更新。前年同月比でプラス46円、4.6%の上昇。
雇用市場における需給関係の変化はパート・アルバイトで顕著なものとなり、賃金状況が話題となることもしばしば。その実情をリクルートグループが展開している求人情報メディア「TOWNWORK」「TOWNWORK社員」「fromA navi」に掲載された求人情報をベースとして、同社が2007年以降毎月の状況を公開しているデータ(※)をもとに精査する。
まずは全体的なパート・アルバイトの募集時における平均時給の推移。
最低額は意外にも金融危機ぼっ発前の2007年4月における928円。以降900円台後半にまで上昇し、ほぼ一定額のボックス圏内で推移する。なお毎年特定の時期に大きく跳ねる様子が見られるが、これは繁忙期の年末(12月)における求人で、相場が上昇するのが表れている。
金融危機やリーマンショック(2008年9月)の影響もほとんど受けておらず、意外に思う人も多いだろう。ただしよく見ると、リーマンショックよりはむしろその後の震災、極度の円高による不況の影響をいくぶん受けているようだ。また2013年以降は年末のピークの後の下げ方も限定的なものとなり、2014年に限れば夏以降高止まりしているのが分かる。そして2015年は踊り場から上昇再開の動き。
最高額は2015年まで同年12月における986円だった。ところが2016年に入って同年6月には、その額すら超えた988円を計上し、記録の限りでは過去最高額を更新する形となった。そして同年12月には当時で過去最高額の1006円に。その後も上下を繰り返しながらも全般的には上昇を続け、今回月は最高額を更新する形で1021円。前年同月は996円なので25円のプラス、2.5%の上昇。
続いて販売・サービス系。
最安値をつけた時期が金融危機ぼっ発前であることは全体額動向と変わりは無し。またリーマンショックの影響を大きく受けていることもよくわかる。一方で2014年までは最高額は震災発生の2011年の年末につけており、それ以降はむしろ安定の流れにあった。毎年12月がピークとなる動きも変わり無し。ただしリーマンショック後の数年はそのパターンが崩れた流れとなり、いかに不況がアルバイト市場に大きな打撃を与えていたのかを知ることができる形となっている。
だが2015年に入ってからは毎年ピークになる12月に向けて上昇機運が加速し、2016年11月は最高額となる994円を計上。今回月はそこからさらに上乗せして1012円を示し、最高額を更新。前年同月は994円なので、プラス18円、1.8%の上昇となる。
続いてフード系。景気動向に連動する形で、もっとも典型的な動きを示している。
最安値をつけたのは震災直後の2011年4月で893円。それ以前は金融危機ぼっ発後もあまり変わらず、リーマンショック以降じりじりと下げている。そして震災以降は2012年夏から2013年夏ぐらいまではほぼ横ばいか少し上昇している程度、それ以降は強気の上昇傾向の中で推移している。
2017年10月には史上最高額となる985円をつけたが、今回月はそこからさらに伸びる形で最高額の988円。前年同月の965円からは23円のプラス、2.4%の上昇となる。
最後は介護スタッフ。今項目は2012年7月から調査対象として採用されたため、グラフの生成期間もそれに従っている。
ややばらつきが大きいものの、2014年末まではほぼ960円から980円のボックス圏で推移している。それが2015年に入ってから大きな上昇を見せ始め、2015年5月には初めて1000円の大台を突破した。その後少々値を落として再び3ケタ台に戻してしまったが、2015年11月ではこれまで最高額だった同年9月の1016円をさらに超え、最高額の1023円を計上。その後はしばらく値を落とし、再び上昇に。
今回月の2017年11月はこれまでの最高額だった2017年10月の1039円を更新する形で1054円。前年同月は1008円だったため、プラス46円・4.6%の上昇となる。他の職種と比べると2015年の後半以降大きな額の動きが無く、天井感を覚える流れであるのが気になるところだったが、2017年9月以降は大きく突き抜ける形で上昇を示している。今後の成り行きに注目したい。
全体的にパートやアルバイトの時給は少しずつ上昇する傾向にある。需給の関係から考察すれば、求職者以上に求人が増え、賃金を引き上げることで求人を充足させようとする動きの中にあると見てよいだろう。非正規雇用の就業者が増加している実態と併せて考えると、少なくともパートやアルバイトの雇用市場では、就業する立場にある人から見て、情勢は改善していると判断して問題は無い。
ただし昨今では一部業態で天井感の気配も見られるため、より大きな留意が必要である。これが現状の労働市場における単なる時給の上限なのか、雇用する側の出し渋りによるものか、あるいは雇用体系においてより正社員への雇用が促進されたため、相対的に非正規雇用の需給に変化が生じてきたのか、多方面からの精査が求められよう。
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※公開しているデータ
発表元はリクルートジョブズ。業種別は大分類で販売・サービス系、フード系、製造・物流・清掃系、事務系、営業系、専門職系に区分されている。また地域別では主要エリア別、三大都市圏(首都圏・東海・関西)、全国の平均額などが確認できる。今記事では長期時系列のデータ取得が容易な三大都市圏の分について、全体額、さらには日常生活で見聞きすることが多くしばしば話題にも上る販売・サービス系(例:レジ、販売、コンビニスタッフ、チラシやパンフ配布など)とフード系(飲食店のホールスタッフ、ファストフードなど)、そして専門職系のうち介護スタッフに焦点を絞り、値を抽出している。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。