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【今から楽しむ86/BRZ】カタログのパワーはハッタリ? それは吸気温度に気を配っていないからだ!

高根英幸自動車ジャーナリスト
トラスト製ダイレクトエアインテークキットを装着したBRZ。写真meiju0919

クルマ好きなら愛車のエンジンスペックに関心がないハズがない。だがカタログデータで230ps、300psとなかなかの数字を謳う車種も多いけれど、それはあくまでエンジンベンチ上での数値で、実車に搭載されて街を走行している状態の数値とは違うことはご存知だろうか。

先代の86/BRZの場合、後期モデルのMTはNAの2Lエンジンで207psという最高出力を謳うが、実際にシャーシダイナモで計測してみると180psから190ps程度が記録されることが多いようだ。

86/BRZのエアクリーナーボックスはエンジンルーム前端にあり、バンパー内部から吸入空気を取り入れている。写真meiju0919
86/BRZのエアクリーナーボックスはエンジンルーム前端にあり、バンパー内部から吸入空気を取り入れている。写真meiju0919

燃費と同じく、カタログデータは良い数字を謳うために何か細工をしているんじゃないか、と思う人もいるかもしれない。だが大昔ならいざ知らず、現代の自動車メーカーが測定試験でインチキをすればたちまち不正だと騒がれ、メーカーの信頼は失墜してしまう。

気温や気圧、わずかな操作の違いもエンジン出力に影響を与えるだけに、カタログデータは良い条件の元で得られたデータであるのは間違いない。それだけでなく、メーカーの開発環境と市販車の使用環境には大きく異なる部分も存在するのだ。

エンジンベンチでは同じ吸気系、排気系の部品を使っても、周囲の部品やボディの影響を受けることはない。冷却水の水温も適正だし、エンジンの放熱自体も理想的に行われている。

しかし実際の量産車では、狭いエンジンルームに吸排気系がエンジンと共に詰め込まれ、冷却系の排熱も吸気系に影響を与える。

だから通称「毒キノコ」と呼ばれるスポーツクリーナーに交換すると、エンジンルームの熱気をそのまま吸い込んでしまう。そのため一般道で普通に走行している程度ではむしろエンジンに悪影響を及ぼすことになるし、渋滞時などではアイドリングが不安定になったり、エンジンが止まってしまうことも起こりうる。

サクションパイプを交換し、むき出しの毒キノコを装着した例。写真walterericsy - stock.adobe.com
サクションパイプを交換し、むき出しの毒キノコを装着した例。写真walterericsy - stock.adobe.com

もちろんサーキットなどの連続走行では大量の空気がエンジンルームに送り込まれるため、毒キノコが本領を発揮してくれるが、実際に効果があるのは最高出力付近、すなわちパワーバンドでも本当に限られた部分だけで、一般道ではほとんど活躍することのない領域だ。

むしろ吸気効率を高めたいなら、毒キノコではなくダイレクトエアインテークという選択肢がある。これは純正のエアクリーナーがバンパー内部の空気を吸い込んでいるのに対し、走行風を直接取り込むもので、吸気温度を下げるとともに、走行風の圧力によってエアクリーナーの濾過抵抗を軽減してくれる効果も期待できる。

今回、先代の86/BRZにトラスト製のダイレクトエアインテークキットを装着してみた。これはバンパーを脱着する必要があるものの、ノーマルのエアクリーナーボックスを利用しながら、外気を積極的に導入できるようになる。

ノーマルのエアクリーナーダクトを取り外す。バンパー内部を横方向にダクトが伸びている。写真meiju0919
ノーマルのエアクリーナーダクトを取り外す。バンパー内部を横方向にダクトが伸びている。写真meiju0919

ノーマルのダクトを取り外し、ダイレクトエアインテークを装着。バンパーを元通りに装着すれば、作業は完了だ。写真meiju0919
ノーマルのダクトを取り外し、ダイレクトエアインテークを装着。バンパーを元通りに装着すれば、作業は完了だ。写真meiju0919

他にもダイレクトに外気を取り込めるインテークキットはあるが、雨天走行でも影響は少なそうであるし純正エアクリーナーボックスを利用できるのは、信頼性なども考えるとストリート用としてはトラスト製がベストな選択に思える。

結論を言うと、トラスト製のダイレクトエアインテークキットを装着することで吸気温度は20度近く下げることができた。これは14psの出力向上に相当する。ガレージ・ベリーのインテークセルキット、フジツボ製のエキゾーストマニホールドを装着していたこともあって、相乗効果でエンジンのパフォーマンスは向上したことが確認できた。

左がノーマルダクトのもの。下段左から2番目が吸気温度。ダイレクトエアインテークは加速すると10秒でほぼ外気温まで下がった。筆者撮影
左がノーマルダクトのもの。下段左から2番目が吸気温度。ダイレクトエアインテークは加速すると10秒でほぼ外気温まで下がった。筆者撮影

猛暑が続くと、外気を直接取り入れても効果がないと思われるかもしれないが、強い日差しでボディ外側からも加熱されると、エンジンルーム内の空気温度はさらに跳ね上がる。

街乗りではなかなか吸気温度が下がらなくて、加速時にも本来のパフォーマンスが発揮できていない86/BRZにとって、このダイレクトエアインテークはかなり効果のあるアイテムと言える。

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自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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