「先生がいじめていた」いじめの存在示唆するアンケート見つかる 07年の青森県立高生自殺で
2007年10月に青森県立八戸工業高校1年の男子生徒が自殺した件の裁判で、県が裁判所の開示命令を受けて提出した当時の緊急アンケートの中に、男子生徒がいじめに遭っていたことを示唆する記述が複数見つかっていたことが明らかになりました。これを元に遺族側は文書を提出し、教諭らや校長の安全配慮義務違反を訴えています。県側はこれまで、いじめの存在自体を否定して遺族側と争っており、今後の反論が注目されます。次回の弁論は、7月2日13時30分からの予定です。
「ラグビー部をやめるなら学校をやめろ」
生徒の両親が約700万円の損害賠償を求めて県を訴えた裁判の控訴審の弁論が14日に仙台高裁(古久保正人裁判長)であり、原告側は、緊急アンケートの内容を踏まえた内容の一覧をつけた準備書面を提出しました。
「女子がいじめていた。ラグビー部のこもんの先生もいじめていた。自殺した生徒がラグビー部をやめたいと言ったのに、先生はラグビー部をやめるなら学校をやめろと言っておどしていた」
「校長先生ももみ消そうとしています」
「家に遊びに来た時、『死にたい』と言っていて理由は『部活がやっかい』と言っていた」
アンケートの自由記載欄にはクラスや部活で男子生徒がいじめにあっていた事実や、部活に悩んでいた様子について書かれていたということです。特に、ラグビー部の顧問が男子生徒が部活を辞めることを認めなかったことや、辞めるなら学校をやめるように言ったことについての記載があるものは、6枚に及んでいたそうです。
緊急アンケートは、生徒の死のすぐ後に、学校が遺族の求めに応じて全校生徒に対して実施したものです。県側は生徒のプライバシーが侵害されることを理由にこのアンケートの開示を拒否していましたが、仙台高裁は今年2月、プライバシーの侵害の恐れはないことと、自殺の動機につながる証拠調べの必要性を認め、昨年11月に県側にアンケートの開示命令を出していました。
両親も7年半経って初めて目にした、いじめの存在を裏付ける内容
開示されたのは、全851枚からなるアンケートの回答のうち、自由記述欄に記載のあった34人分197枚。そのうちの15枚について「原本を失くした」と県が説明していた分も含めて開示されました。
筆者は、紛失したはずのアンケートがなぜ今頃出てきたかについて問い合わせてみましたが、県教委の担当者が不在のため、説明は得られていません。
「実際にいじめに関する記載があるかどうか心配していたが、やっぱり書いてあった。だから県は一審では出さなかったのだろう。当時、同級生たちが(アンケートに)色々と書いたと教えてくれたのに、学校で見た時はいじめに関する記述は見あたらなかった。だから私たちはアンケートの開示にこだわってきた。7年半で初めてです」
弁論後、生徒の母親は依然として不安な表情をのぞかせつつ、そう話しました。裁判所にはこの証拠で「息子の無念を晴らしてほしい」と望んでいます。
生徒の両親ら家族は、2007年当時に、記録しないことや他人に内容を公開しないことを条件に、一度だけ学校でアンケートを閲覧できたそうですが、いじめの存在の裏付けとなる内容の記載を見たのは今回が初めてだということです。
生徒たちが書き残していた学校や教師の様子
また、生徒たちは、教師の態度や学校のあり方についても問題視する内容をアンケートに数多く残していました。
「先生の強い方がムリ。いきなりキレてくる」
「先生たちが手をあげるのはよくない」
「先生に挨拶してもムシされる」
「部活を強制じゃなくしてほしい」
当時、学校内に教師による日常的な生徒への暴力や無関心、強制的な部活参加の方針があったことが伺える内容です。
生徒の死など重大な出来事を受けて行われるこうした学校のアンケートは、生徒たちが知っていた事実だけでなく、亡くなったり被害を受けたりした友達への思いや子どもなりの問題意識が記載されているものです。
アンケートをどこまで遺族に対して開示すべきかについては、2011年に起きた滋賀県大津市の中2男子自殺でも問題になりました。大半が非開示とされたことで精神的苦痛を受けたとして、生徒の父親が損害賠償を求めて市を提訴しました。2014年1月に遺族側が勝訴した判決は確定しています。
「亡くなった子の情報は遺族にとってかけがえのないもの」
遺族としていじめの問題や指導死の解決に取り組んできた大貫隆志さん(NPO法人ジェントルハートプロジェクト理事)は、アンケートのうち、いじめに関連する部分が今回開示されたことについて、次のように述べています。
生徒たちが、知っていることを精一杯伝えようという気持ちを感じるアンケートだ。学校で暴力を含む強圧的な指導が日常化していたことをうかがわせる記述が多く見られる。また、部活に縛り付けることで問題行動を抑止しようとする学校側の態度がはっきりと見て取れる。これが、「生徒に目を向けてほしい」という記述が多く見られることに結びついていると思う。
「遺族に見せる前提になっていない」「子どものプライバシーの問題」「保護者の承諾を得ていない」などの理由から、学校側がアンケートを開示しないケースも多く、なかには原本を破棄するケースも見られる。たとえ開示されても、内容を口外しないよう確約書にサインすることを求められて、遺族は苦しみ、かつ事実関係を明らかにする際の大きな障害となってきた。
亡くなった子どもに関する情報は、遺族にとってかけがえのないものであると同時に、学校や教育行政が再発防止策に活かすためにも貴重な情報だ。アンケートに書かれた内容は、可能な限りオープンにして、教師や保護者、子どもたちが、命を守るためにどうすればいいのかを考えるための材料にするべきだ。
(加藤順子)