目立ち始めた20代のマイホーム購入。その合理的な考えと、契約時の「恍惚と不安」
結婚してすぐに千葉県内で4300万円の新築マンション3LDKを購入した夫婦は、建物が完成するまでそれぞれの実家で暮らしている。週末に会うだけで、本当の新婚生活が始まるのは新居のマンションに入居できる来年4月だ。
やはり新築マンション3LDK(6300万円)を東京23区内・山手線外側エリアで購入した夫婦は35年返済では無理なので、40年返済のペアローンを組んだ。
いずれも、20代夫婦の話である。
今、新築マンションの販売現場では従来にはないやり方でマイホームを買う20代が目立つようになった。
まだ収入が少ないうちに家を買うなんて。
長期返済のローンを組むのは、無謀。
この先金利が上がったら、どうする。
年配の方からは批判が続出しそうだが、当の本人たちはどのように考えているのか。
従来にはなかった、新しいマイホームの買い方を取材した。
賃貸回避は勝ち組の第一歩か
従来、20代でマイホームを購入できるのは親から多額の資金援助がある人たちに限られた。親に頼らず、自分たちの力で家を買う場合は30歳を過ぎてから。ある程度給料が上がり、お金が溜まってからというのがこれまでの常識だった。
となると、結婚してからマイホームを買うまでの何年かは賃貸暮らしをすることになった。
が、このやり方だと「賃貸ロス」が大きくなる。借りる際に敷金・礼金・仲介手数料がかかるし、数年ごとに契約更新料を払うケースもある。それよりなにより、賃貸に住んでいる間、払い続ける家賃の総額が大きくなる。家賃10万円の1LDKに5年住んだら、家賃だけで総額600万円の出費だ。
賃貸の場合、下駄箱やガス台、タンスなどを居住者が買わなければならないことがある。ところが、分譲マンションや建売住宅ではそれらが備え付けとなるため、賃貸時代の家具、設備機器を処分することが多い。それもムダだ。
以上を考えると「結婚したら、とりあえず賃貸」は、できれば避けたい。
加えて、毎年のようにマンション価格が上がり、家賃相場も上がり続ける現在、少しでも早くマイホームを買ったほうがこの先の人生が有利になるという見方もある。
つまり、人生の勝ち組になるためには「とりあえず賃貸」ではなく、「いきなりマイホーム」がよい。そう考える20代夫婦が増えているわけだ。
問題は、20代でのマイホーム購入が可能かどうか、だ。
20代の購入を後押しする共働きと40年ローン
結論から申し上げると、20代でマイホーム購入は可能だ。
理由は、夫婦共働きが当たり前となり、夫婦ともに住宅ローンを組むペアローンが主流になっているから。平成初期まで、夫婦共働きでもペアローンはなかなか認められなかった。だから、世帯主の収入が上がる30代までマイホームを買いにくかった。しかし、ペアローンが主流になった今、マイホーム購入の事情は大きく変化。いわゆる「2馬力」で、以前より若いうちにマイホームを買うことが可能になったのである。
今、「首都圏の新築マンション価格が1億円を超えた」というような報道があるものの、実際には千葉県で4000万円台で購入できる駅近マンションがみつかる。23区内であっても、例えば江戸川区内で駅徒歩圏の3LDKが6000万円台というマンションが販売中だ。
4000万円台ならば、20代でも返済期間35年のペアローンで購入することはむずかしくない。6000万円台になると、さすがに厳しいというケースが増えるが、35年より長い返済期間の住宅ローンを利用する購入法がある。
現在は50年返済の住宅ローンがあるが、さすがにそこまで長い返済期間を選ぶ購入者には出会わなかった。20代の購入者が実際に利用しているのは「40年返済」までの住宅ローンだ。
40年返済の住宅ローンは三井住友信託銀行や千葉銀行などで利用でき、提携ローンとして用意している新築マンションがある。
また、50年返済の住宅ローンを用意している金融機関ならば40年返済を選ぶこともできる。
40年返済の場合、当たり前だが35年返済より返済期間が5年長くなる。高齢になってもローン返済が続くと思われがちだが、20代で返済を始めるのだから、その心配は不要。35歳で35年ローンを組んだとき、完済時年齢は70歳。しかし、28歳で40年ローンを組めば、68歳で完済することになるからだ。
といっても、20代の購入者は40年間ローンの返済をずっと続ける気はない。一生同じ家、特にマンションに住み続けるつもりはなく、頃合いを見てステップアップ(より便利な場所や、より広い住戸のマンションに住み替える)したいと考えているからだ。
話を聞いた20代の多くが「40年も住み続けませんよ」と笑い、できれば10年くらいで買い替えたいと答えてくれた。
将来のステップアップを考えれば、23区内立地のマンション、首都圏郊外でも駅に近いマンションが有利。中古で高く売れる可能性が高いからだ。
そのように将来有望なマンションをできるだけ早く買っておきたい、というのが彼らの本音だ。
一方で、まったく不安なしでマイホームを購入しているわけでもなかった。
契約するとき、背中に冷たい汗が流れた
十分に検討した上でマンション購入の契約書に判を押すのだが、その際に不安がよぎり、背中に冷たい汗が流れた、と打ち明ける購入者もいた。
本当にローン返済を続けてゆけるのか、返済途中で何かあったら、どうしよう……まだ20代なので心配になってしまうのは当然だろう。
安全にマイホームを買うためには「年収の5倍まで」の物件を買うべきという意見がある。20代ペアローン利用者の場合、夫婦の年収を合算しても「年収の5倍」を超えてしまうケースが多いのだが、今の20代は「年収の5倍」にとらわれてはいない。それは高金利時代の教えであることを知っているからだ。
「年収の5倍まで」の基準が生まれたのは、昭和の後期。住宅ローンの金利が5パーセント前後だった時代だ。年利5パーセントだと、4000万円借りたときの毎月返済金(35年返済、ボーナス併用なし)が20万円を超えた。年間240万円強という大きな負担だ。そこから導きだされたのが「マイホームを買うなら、年収の5倍までにしておきなさい」という教えだった。
これに対し、現在多くの人が利用する変動金利は金利が低い。年利0.35パーセントで4000万円を借りたときの毎月返済金(35年返済、ボーナス併用なし)は10万円を少し超えるくらい。かつての半分だ。
だから「年収の5倍まで」というのは実情にそぐわない。
ちなみに、「年収の5倍まで」という言葉が生まれた昭和後期も、大半はその教えを守らなかった。年収の5倍までで家を買えたのは、親からの資金援助が多かった人、そして収入が多かった人。多くの人は、大なり小なり無理をしてマイホームを買ったのである。
とはいえ、できれば大金を借りたくない、というのが今も昔も購入者の本音。加えて、今後変動金利でも金利の上昇が起きれば、破綻のリスクが生じることは20代購入者も十分に承知している。
が、破綻が起きるほど金利が上がるのは、インフレが大きく進行したとき。インフレがひどくなれば、不動産価格はさらに大きく上がってしまう。日本中の住宅が値上がりするわけではないだろうが、都心部と郊外駅近のマンションは大きく値上がりする可能性が高い。インフレヘッジのためには、早くマイホームを買ったほうがよいという考え方がある。
ペアローンを組んで離婚したら大変とも言われるが、「離婚したら大変」なのはペアローンを組まなくても、またマイホーム購入時期を遅らせても同じだ。
「20代でのマイホーム購入」はブームと言えるほど大きな動きではない。しかし、一部のマンション、特に千葉方面、埼玉方面の新築マンションで目立つ。つまり、「できれば借りるのではなく、買いたい」と考えている20代は多く、それができる夫婦は買える価格帯の物件を思い切って買っている、ということだろう。
若くしてマイホームを買うことの恍惚と不安を抱えながら。彼らは、いろいろな状況をじっくり考えた上でマイホーム購入を決めている。決して安易な決断ではないことは、認めるべきだろう。