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「リオに行くため」だけではない、ブラサカアジア選手権の重要性

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
昨年の世界選手権で過去最高6位となったブラサカ日本代表。あの時の熱を再び!

来週、世界を目指す日本代表の重要な試合が行われる。といっても、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表ではなく、ブラインドサッカーの日本代表だ。ブラサカ日本代表は、9月2日(水)から7日(月)まで東京の国立代々木競技場フットサルコートで開催される、IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015を戦う。今回、日本が対戦するのは、中国、イラン、韓国、インド、マレーシア。この大会で2位以内を確定させれば、来年にブラジルのリオデジャネイロで開催されるパラリンピックに初出場できるのだが、どうも前売りチケットの動きがあまりよくないらしい。

「初日(中国戦)が4割くらい、それ以降は2割くらいですね。代表戦と被っているというのもあるかもしれないですが、それ以上にわれわれを含めて関係者が楽観しすぎたというのはあるかもしれない。去年も同じ会場で世界選手権を開催して、開幕直前まで(チケットが)動かなかったんですが、ここにきて焦りを感じています」

そう語るのは、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)事務局長の松崎英吾さんだ。前売りチケットは、指定席が2000円、自由席が1500円(当日チケットはプラス500円)。これを高いと見るか安いと見るかは、人それぞれだろう。だが、一度でもブラサカを会場で観たことのある人ならば、競技のエンターテイメント性は十分にご存じだろうし、「パラリンピック初出場が決まる瞬間を目撃できるかもしれない」と思えば、十分に納得できる金額と言えよう。もっとも今大会の重要性は、単にリオに行けるかどうかだけの問題にとどまらない、というのが松崎さんの認識である。

9月2日に開幕するアジア選手権の重要性を語る松崎英吾事JBFA務局長
9月2日に開幕するアジア選手権の重要性を語る松崎英吾事JBFA務局長

「2020年の東京大会は自動的に出場できるので、その前にパラリンピックに自力出場できるのはこれがラストチャンスです。また今大会が終われば、次に日本でブラサカが盛り上がる機会は5年後までありません。もちろん、結果も重要です。4年前は、あと一歩のところでロンドン大会の出場権を逃しましたが、今大会はあの時以上の『過去最高の仕上がり』という手応えを得ています。それでもアジアを突破できなかったとなれば、われわれがこれまで続けてきた競技の普及、そして『健常者と障がい者が混ざり合う社会』という理念の浸透といったものが、極端にペースダウンしてしまう。事業全体で考えても、リオパラリンピックに出場できた場合とできなかった場合とでは、相当の開きがでてくることは間違いないですね」

松崎さんによれば、このアジア選手権を東京で開催するにあたり、JBFAがこだわってきたことが2つあるという。まず、JR原宿駅から徒歩5分の会場に、2000人近い観客が収容できる仮設スタンドを作ること。そして、障がい者スポーツでは異例とも言える有料チケットの販売である。いずれも昨年の世界選手権でも実施してきたことだが、今回はその意味合いが明らかに異なってきている。

「障がい者スポーツ団体が10日間も会場を押さえるのは至難の業です。代々木のフットサルコートに仮設スタンドを建てるのは、当初は苦肉の策でした。でも実際にすり鉢状のスタンドで応援していただくことで、ホームの一体感が初めて生まれたんですね。かつてのような、既存のスタジアムの隅っこでプレーするのとでは、まったく違う。ですから今大会でも、ホームの一体感を作り出すために仮設スタンドは必須でした。有料チケットに関しては、去年の世界大会で入場料をいただいたことで、スタッフの意識が格段に変わりましたね。それまでは競技の普及や強化ばかりを考えていたのが、有料化することでお客さんを第一に考えるようになった。つまり有料チケットを販売することで、われわれ自身が成長させていただくことができたと言えます」

ブラサカ日本代表をリオに送り出す準備は整った。あとはスタンドを埋めるだけだ!
ブラサカ日本代表をリオに送り出す準備は整った。あとはスタンドを埋めるだけだ!

JBFAのこうした取り組みは、単にブラサカという競技の発展にとどまらず、障がい者スポーツ全体に影響を与えることになる。それだけに今大会では、競技面でも運営面の両方で「結果」を残すことが重要だ。このうち競技面に関しては、第1戦の中国、そして第2戦のイランに対して勝ち点1以上をもぎ取ることが求められる。中国にしてもイランにしても、これまで日本が苦手としてきた相手だが、今大会は十分に勝算があると松崎さんは自信をのぞかせる。

「中国にはまだ一度も勝てていません。それでも今年5月、韓国のソウルで行われた視覚障害者のワールドゲームズで対戦したときには2−2で引き分けたんです。日本が中国からゴールを奪ったのも、この時が初めてでした。たぶん向こうも、日本は楽に勝てる相手ではないと思い始めているでしょうね。イランに関しては、やはり体格差というところでハンディがありました。そこで今年の2月と7月に欧州遠征を行い、イングランド、スペイン、トルコと対戦することで、そうした苦手意識は克服できたと思います。ただイランの場合、このところ国際大会に出場していないので、4年前からどう成長しているのかがわからない。不安があるとすれば、その点ですね」

スカウティングという点に関して補足するなら、ブラサカ日本代表では最近、ファンによる練習中の動画撮影を遠慮してもらっているという。不用意にSNSにアップされると、それが対戦相手に有利な情報を与える危険性があるからだ。障がい者スポーツだからといって油断は禁物。「JBFAのFacebookには日本語でしか書かれていないのに、最近よく中国からアクセスがあるんですよ」と松崎さんは神妙な面持ちで打ち明ける。そう、戦いはすでに始まっているのだ。ブラサカ日本代表をリオに送り出すための準備は整った。あとはより多くのファンやサポーターが、代々木の仮設スタンドを埋め尽くすだけである。ブラサカ日本代表の魚住稿監督も語ってる。「これは総力戦である」と。

アジア選手権2015 チケットガイド

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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