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「FARM to BAR」で世界に誇るブランドを作る。「ル ショコラ ドゥ アッシュ」の挑戦

笹木理恵フードライター
2階の客席から見た工房。製造現場を間近に感じられる店づくりも魅力だ ※筆者撮影

「琉球」をテーマにしたショコラが、フランスの品評会で金賞を受賞

2023年10月、パリで開催された世界最大級のチョコレートの祭典「SALON DU CHOCOLAT(サロン・デュ・ショコラ)」。その会期中に開催されるショコラ品評会において7回連続でゴールドタブレットを受賞したのが、辻口博啓氏が手掛けるショコラトリー「LE CHOCOLAT DE H(ル ショコラ ドゥ アッシュ)」。

受賞したショコラのテーマは、「琉球」。15世紀から約450年間にわたり栄えた琉球王国の文化や風土を背景に、沖縄の地ならではの特徴ある素材をショコラと融合させ、「黒糖」、「豆腐よう(豆腐よう&洋梨)」、「琉球紅茶」、「島胡椒ハイビスカス(ピパーチ&ハイビスカス)」の4つのショコラを開発した。

「琉球」(4粒入・税込2500円) ※画像提供/ル ショコラ ドゥ アッシュ
「琉球」(4粒入・税込2500円) ※画像提供/ル ショコラ ドゥ アッシュ

2024年のバレンタインシーズンにも販売されているこの「琉球」をはじめ、同ブランドの魅力的なショコラが日々生み出されているのが、埼玉県にある「ル ショコラ ドゥ アッシュ」吉川美南店。2階建て・約450坪という贅沢なスペースに店舗兼ラボを構え、同ブランドのショコラ製造を担う中枢として2021年6月に開業した。

全国的な知名度を誇るショコラブランドの開発・製造拠点に

JR武蔵野線吉川美南駅の駅前すぐ、イオンタウン内に店舗を構える  ※筆者撮影
JR武蔵野線吉川美南駅の駅前すぐ、イオンタウン内に店舗を構える  ※筆者撮影

「ル ショコラ ドゥ アッシュ」は、銀座の本店をはじめ首都圏や仙台など6店舗を展開。ボンボン・ショコラやタブレットのみならず、焼き菓子や冷凍ケーキ、バウムクーヘンなど幅広いアイテムを扱っており、まさにショコラの総合ブランドといった品ぞろえも魅力だ。さらにバレンタインシーズンともなると全国の催事会場へ出店し、各会場それぞれで限定アイテムを販売するなど、つねに驚きやワクワク感を提供しファンを楽しませている。

新しいラボを設立した背景には、こうしたブランドの成長に伴い、既存の厨房では製造能力が限界を迎えていたことに加えて、辻口氏がコンセプトに掲げる「FARM to BAR(ファーム・トゥー・バー)」のショコラづくりに本気で向き合える環境を欲していたという思いがある。

ペルーに自社農園をもち、カカオの栽培からショコラを作る

1階の売場からも、ガラス越しにラボの様子が見える ※筆者撮影
1階の売場からも、ガラス越しにラボの様子が見える ※筆者撮影

「カカオの自社農園をもち、自分たちで栽培や発酵のプロセスから担うことで、よりカカオの個性を活かした新しいショコラの表現を実現したい」と考えていた辻口氏は、2022年、ペルーに10ヘクタールのオーガニック農園を取得し、カカオの栽培から手掛けるショコラづくりをスタートさせた。カカオがショコラになるまでには多くの工程が必要だが、中でも原料のカカオの品種や栽培環境、発酵といった産地での要因は味に直結する部分でもあり、その段階から自社で携われるのが「ファーム・トゥー・バー」。カカオ豆を仕入れて加工する「ビーン・トゥー・バー」のチョコレートに比べ、より品質をコントロールできるというわけだ。

「FARM to BAR タブレットショコラ」全12種類・各税込860円。自社農園のペルーのほか、世界各地のカカオを厳選 ※筆者撮影
「FARM to BAR タブレットショコラ」全12種類・各税込860円。自社農園のペルーのほか、世界各地のカカオを厳選 ※筆者撮影

なかでも辻口氏が注目したペルー産の「チュンチョ」というカカオは別名「王様のカボス」と呼ばれており、年間生産量はわずか40トン、栽培に手間がかかり、大きさも小さいことから生産者泣かせだが、その力強い香りは他のカカオを圧倒するという。「チュンチョでボンボン・ショコラを作ると、『これは何を(香料など)入れてるの?』と聞かれるくらい、フルーツや発酵の香りが活きています。オーガニックでないとここまで強い香りは出ません」と辻口氏は説明する。

最新の機材を導入し、品質管理を徹底しながら量産体制を実現

日本に1台しかないという、特注のボールロースター。オーブンよりも気密性が高く、よりカカオの香りを逃さず焙煎できるという ※筆者撮影
日本に1台しかないという、特注のボールロースター。オーブンよりも気密性が高く、よりカカオの香りを逃さず焙煎できるという ※筆者撮影

吉川美南店には、こうした「ファーム・トゥー・バー」のショコラ製造に必要な機材をフル装備。ガラス越しにひときわ目を引く特注の「ボールロースター」は、カカオを焙煎するための機械。焙煎したカカオはハスク(殻)を取り除いて巨大なロボクープですり潰し、砂糖を加えてなめらかなペースト状に。その後、専用のリファイナーで粒度を整える。サイズ違いの5段のローラーで3~4時間、つきっきりで行うこの作業により、口どけのなめらかなショコラができあがるという。その後はコンチングマシンで味をととのえ、ブロック状にしてから様々なお菓子に活用している。

1階の売り場。広々とした空間に、様々なショコラ菓子が並ぶ ※筆者撮影
1階の売り場。広々とした空間に、様々なショコラ菓子が並ぶ ※筆者撮影

さらに1階のバックヤードには、焼き場、ムース場、バウムクーヘンの工房、パイルーム、包装室など。2階はデザートが楽しめるサロンのほか、ガナッシュの仕込み部屋やエイジングルーム、アイスクリームマシン、包装室、セミナールームなどを完備しており、品質管理を徹底しながらの量産体制を可能にしている。

2階のカフェでは、クレープなどのデザートやケーキを楽しめる ※筆者撮影
2階のカフェでは、クレープなどのデザートやケーキを楽しめる ※筆者撮影

「ブランドを立ちあげてちょうど20周年の節目に、これだけの設備をもつことができました。製造能力はこれまでの約10倍となり、自分が納得のいくショコラを作れる環境が整いました」と辻口氏。「畑の管理や発酵のシステムなどを独自に研究できるのが、自社農園の強み。今後は農園の規模をさらに拡大するとともに、現地の生産者との取り組みを強化していきたいと考えています。また一方で、ショコラセミナーなどの機会も増やして、お客様にもファーム・トゥー・バーの取り組みをもっと伝えていきたいです」と今後の展望を語ってくれた。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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