乾癬の裏に潜む心臓病リスク - 早期発見と治療のポイント
乾癬は、皮膚に赤みやかさぶたを伴う慢性の炎症性疾患です。この病気は単なる皮膚の問題ではなく、全身に影響を及ぼすことが近年の研究で明らかになってきました。特に注目されているのが、乾癬と心血管疾患との関係性です。
【乾癬が心血管疾患のリスクを高める仕組み】
乾癬患者さんは、一般の人と比べて心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患のリスクが高いことが分かっています。その理由は、乾癬という病気自体が全身の炎症反応を引き起こすからだと考えられています。
炎症は血管の内側にダメージを与え、動脈硬化を進行させます。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどの脂質がたまり、血管が硬くなって狭くなる状態のことです。動脈硬化が進むと、血流が悪くなり、心臓や脳への酸素や栄養の供給が減ってしまいます。その結果、心筋梗塞や脳卒中などの重大な合併症を引き起こすのです。
また、乾癬患者さんには肥満や高血圧、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)などの生活習慣病を合併している人が多いことも分かっています。これらの病気も動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスクを高める要因となります。
乾癬に関連する炎症や生活習慣病が重なることで、心血管疾患のリスクがさらに高まってしまうのです。
【乾癬患者に必要な心血管疾患の予防策】
それでは、乾癬患者さんはどのようにして心血管疾患を予防すればよいのでしょうか?
まず重要なのは、定期的な健康診断を受けることです。血圧や血糖値、コレステロール値などを確認し、異常があればすぐに治療を始める必要があります。特に、動脈硬化の進行具合を調べる検査(頸動脈エコーや心臓CT検査など)も積極的に取り入れましょう。
生活習慣の改善も欠かせません。喫煙は動脈硬化を加速させるので、禁煙が大切です。また、バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動を習慣化することも重要です。肥満は心血管疾患のリスクを高めるため、適正体重の維持を目指しましょう。
ストレス管理も忘れてはいけません。ストレスは乾癬の症状を悪化させるだけでなく、心血管疾患のリスクも高めます。ストレス解消法を見つけ、上手にストレスと付き合っていくことが大切です。
さらに、乾癬の治療薬の選択にも注意が必要です。TNF阻害薬やメトトレキサートなどの薬剤は、心血管疾患のリスクを下げる可能性があるとされています。TNF阻害薬は、腫瘍壊死因子(TNF-α)という炎症を引き起こすタンパク質の働きを抑える薬です。メトトレキサートは、免疫の過剰な反応を抑えることで炎症を和らげる効果があります。
一方で、シクロスポリンやアシトレチンといった薬は、心血管系への悪影響が懸念されています。シクロスポリンは高血圧のリスクを高め、アシトレチンは脂質異常症を引き起こす可能性があるのです。
主治医とよく相談し、乾癬の症状だけでなく、心血管疾患のリスクも考慮した上で、最適な治療薬を選ぶことが大切です。
【乾癬治療と心血管疾患予防の両立を目指して】
乾癬は、皮膚の見た目の問題にとどまらず、全身の健康にも大きな影響を及ぼす病気です。心血管疾患のリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることが何より重要です。
そのためには、皮膚科医と循環器内科医が緊密に連携し、患者さん一人ひとりに合ったトータルケアを提供することが求められます。皮膚科医は乾癬の治療だけでなく、生活習慣病のスクリーニングや生活指導にも積極的に取り組む必要があります。
乾癬患者さんご自身も、皮膚の健康だけでなく、心臓の健康にも目を向けてください。定期的な健康診断を受け、生活習慣の改善に努めましょう。そして、何か不安や疑問があれば、遠慮なく医師に相談してください。
参考文献:
- Mehta H, Narang T, Dogra S, et al. Cardiovascular considerations and implications for treatment in psoriasis: an updated review. Vascular Health and Risk Management. 2024;20:215-229.