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三振激増と減り行く盗塁、オープナー、守備位置の消滅・・・2018年MLB の変化をどう捉えるべきか

豊浦彰太郎Baseball Writer
ALのワイルドカードゲーム、A’sの先発は中庸な救援投手ヘンドリクスだった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

2018年は、MLBのプレーの在り方に大きな変化が生じたシーズンだった。われわれはこれらをどう捉えるべきなのだろうか。

様変わりしつつあるプレー様式

三振の激増。ここ数年のホームランの増加傾向と相まって、インプレー打球が減った。打者は四球を選ぶのにもやっきになっており、投手と捕手と打者の3人で完結してしまうプレーが増えた。これには、あのハンク・アーロンも懸念を示した。

盗塁や犠打の減少。「スモールボール」崇拝は完全に過去のものになった。

「ポジション」消滅の兆し。極端なシフトはもはや日常になり、打者ごとに、レフトとライトが入れ替わることも定着しつつある。このままでは将来「ポジション」という概念が消滅するかもしれない。これにはマンフレッド・コミッショナーも危機感を抱いているようで、規制に乗り出す可能性も示唆している。

「オープナー」起用の登場。ポストシーズンですら、救援投手が先発した。完投の減少を嘆くことすら昔話となった。

ここに挙げた現象に関しては、ぼくも正直なところ快く思っていない。かと言って、否定するのも違うと思う。野球の歴史を振り返ってみると、何も2018年だけでなくその様式はその誕生時点から少しずつ変化し続けていることがわかる。そう考えると、これらの直近の現象も歴史の一部と捉えるべきだという気がしてくる。

野球の歴史は変化の歴史

今年の夏、ぼくはクーパーズタウンを訪れた。野球の起源に関し、野球殿堂博物館の学術研究員にインタビューした。

「野球は、1839年に後の南北戦争の英雄でもあるアブナー・ダブルデイ将軍によってクーパーズタウンで考案された」というのは、神話に過ぎないことは現在ではもはや常識だ。殿堂博物館の研究員は、stick & ballgameはそれこそ人類の登場の頃から存在しており、それが長い年月を経て進化・分化を続け現在のbaseballとなったことを強調していた。「それが、いつ、どの段階でベースボールになったかを定義することなど不可能」と言うのだ。

1846年にニュージャージー州のホボーケンでアレクサンダー・カートライトが成文化したルールで開催された試合を野球の誕生とする説も近年では有力だが、殿堂博物館はこれも支持していない。「単に解釈の問題でしかない」というのがその理由だ。

野球の前身は欧州から伝わったラウンダーズに起源を持つタウンボールという遊びで、それらには地域により、マサチューセッツゲーム、フィラデルフィアゲームなど様々なバリエーションがあった。

2018年の変化も正に歴史の一部

研究員氏によると、「stick & ballgameにさまざまなバリエーションがあり、それらが少しずつ変化していたということは、現代と同じ」という。確かに、メジャーリーグを頂点とするプロ野球、カレッジやハイスクールのベースボール、リトルリーグ、ソフトボール、ワッフルボール(プラスチック製のボールとバットを使う)など様々なバリエーションがある。そして、メジャーリーグに限定しても、ぼくが見てきた半世紀の間に、プレー自体に大きな変化があった。指名打者制の導入や、ローテーションの5人化、投手分業制の確立などだ。それらに加え環境面では、選手の多国籍化とアフリカ系アメリカ人選手の減少、進歩の象徴だった人工芝が忌み嫌われるようになったこと、などが挙げられる。

人間というものは、昨日と同じことを繰り返すことに安心を得るのだ。だから、野球が変わって行くことも好まない。しかし、それはこの競技をあまりに短いスパンでしか捉えていないからではないか。野球は、大昔から連綿と繋がり少しずつ変化をしているのだ。今年の変化が少々大きかったことは事実だ。しかし、変わり続けていること自体が野球の本質なのである。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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