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英王室はメーガン妃のディズニーランド? 伝統に媚びないメーガン流、あなたはどう見る

木村正人在英国際ジャーナリスト
メーガン妃が第一子を出産 ウィンザー城でお披露目(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「彼女は多くの女性の希望」

[ロンドン発]英王位継承順位6位のヘンリー王子(34)と元米人気女優メーガン妃(37)の第一子である男児アーチーちゃんが誕生したことを受け、米3大ネットワークの一つ、CBSが17日の夜、1時間のドキュメンタリー特番「メーガンとハリー、プラス・ワン」を放映したことが大きな波紋を広げています。

特番では「メーガン妃は一緒に働くのが難しい」という英大衆紙が作り上げたメーガン妃像に対し、米国の友人が登場して「彼女は多くの女性たちの希望」と擁護する内容になっています。しかし、メーガン妃が友人のTV出演を認めたことが英王室の慣例(プロトコル)に反しているとまた叩かれています。

「英国のNHK」に当たる英BBC放送は今日の今日までヘンリー王子とメーガン妃の第一子「アーチー・ハリソン・マウントバッテンウィンザー」の誕生について、ほとんど何も知らないとして、公表されたばかりの出生証明書の内容を報じています。

(1)アーチーちゃんは「自宅出産」ではなかった

当初、アーチーちゃんはロンドン郊外ウィンザーのフロッグモア・コテージで生まれたと見られていましたが、ロンドンの私立ポートランド病院で誕生していたことが判明。この病院での出産費用は最低でも6100ポンド(約85万円)だそうです。

(2)メーガン妃は連合王国(英国)のプリンセス

(3)出生届の期限は42日間だが、ヘンリー王子は11日後に届け出

(4)ヘンリー王子が出生証明書に署名

商売上がったりの王室担当記者

ヘンリー王子とメーガン妃は主要メディアではなく、無料の写真共有アプリ、インスタグラムのアカウントを通じて情報発信するようになっています。

一方、CBSの特番でメーガン妃の友人たちが明らかにしたのは――。

(1)メーガン妃は一から有機農法で栽培された環境に優しい食材でベビーフードを作る可能性がある

(2)彼女はロイヤルファミリーとしてファッションが注目されるというプレッシャーがかかっているのにスタイリストを雇っていない

(3)特注のクリスチャン・ディオール、豪華なステラ・マッカートニーを持っている一方で、たった34.99ドル(約3850円)のファストファッションのH&Mのドレスを愛用している

(4)結婚式の化粧の仕方はテキストで友人に相談した

(5)ロイヤルファミリーの一員になって単独で行った初の慈善活動はロンドンの高層公営住宅グレンフェル・タワー火災の犠牲者訪問。犠牲者の女性の多くはムスリム(イスラム教徒)で、訪問は彼女たちに光を当てるのが狙いだった

メーガン妃のメディア戦略が「女性の生き方」「環境」「多様性」にフォーカスされていることが分かります。しかし、英メディアの王室担当記者としては、こんな調子で「中抜き」され続けると商売上がったりです。

インスタグラムを見て記事を書いているような記者に給料を払う寛大なメディアは存在しないでしょう。

「メーガン叩き」エスカレートさせる英メディア

そこで英大衆紙サンは「出生証明書からメーガン妃の称号が『英国のプリンセス』であることが分かった。そうであるなら友人がTV出演して話すのを許可したのは英王室のプロトコルに反している」と厳しく批判しています。

王室関係者は同紙に「ロイヤルファミリーに関するTVショーに王族が関与するのは単純に適切ではない」「メーガン妃は彼女自身が自分にとって最高のPRパーソンと信じている」と語っています。「これはハリウッドのセレブリティのやり方で、王位継承者と結婚した人がすることではない」とも。

最愛の母ダイアナ元皇太子をスキャンダラスな報道の渦中、突然の交通事故死で失い、精神の平衡を失った辛い経験を持つヘンリー王子。アーチーちゃん誕生後、ウィンザー城一帯の王室所有地からの生中継でこう語って世界中の女性の共感を集めました。

「信じられないほどうれしい。妻を心から誇りに思う。これまでに想像したことがないほど素晴らしい経験だった。どのようにして女性が新しい生命を生み出すのか(男性である私の)理解を超えている」

ヘンリー王子とメーガン妃は英王室と英メディアの間で長らく続けられてきたプロトコルを破り、家族の絆とプライバシー、そして静かに生むという「女性の権利」を優先しました。

メーガン妃は国際女性デーに英大学キングス・カレッジ・ロンドンで開かれたイベントで「英国民の血税を使って贅沢三昧のわがまま妃」と叩きまくるメディアの報道を「雑音」と一蹴しました。

メーガン妃の新しい生き方が認められるか

メーガン妃が生まれ育った米国は自由と平等の国です。メーガン妃はその米国でも競争が厳しいハリウッドで成功を収めたキャリアウーマンであり、セレブリティであり、フェミニストにして社会活動家です。

最愛の母を世紀のダブル不倫、離婚の末、パパラッチに追跡されている途中に交通事故で失うという悲劇を味わったものの、ヘンリー王子は文字通り銀の匙(さじ)をくわえて生まれてきた王子様です。英国は階級社会で米国ほど平等ではありません。

2013年の王位継承法改正で、結婚する時に君主の裁可が必要なのは王位継承順位が6位までの王族に限定されました。ヘンリー王子とメーガン妃の第一子アーチーちゃんは7位なのでジョージ王子やシャーロット王女、ルイ王子とは事情が異なります。

メーガン妃が「家族の絆」「プライバシー」「女性の権利」を守るのに成功したのは間違いありません。しかし筆者には彼女が「ロイヤルファミリー」なのか、フェミニストで社会活動に取り組む「ハリウッド出身のセレブリティ」なのか、分かりませんでした。

改装費4億円、衣装代1億円

「平民」には想像もつかない広大な敷地内にあるフロッグモア・コテージの改装費は300万ポンド(約4億1950万円)。メーガン妃の衣装代はウェディングドレス込みで100万ドル(約1億1000万円)と報じられています。

英王室はメーガン妃のディズニーランドではありません。

ダイアナ元妃の悲劇を振り返るまでもなくメディアには功罪がつきまといます。しかし「グッド・パブリシティー」があれば、気に入らない「バッド・パブリシティー」もあるのは仕方のないことです。パブリシティーをコントロールしたいからと言ってBBCまで「中抜き」にするメリットがどこにあるのでしょう。

英王室は、エリザベス女王を元首とする16カ国を含む英連邦53カ国の臣民に王族の活動を伝えなければなりません。英連邦のカナダやオーストラリアはいつ共和国に移行しても不思議ではありません。

英王室のプロトコルに媚びない「メーガン流」が現代の女性を勇気づけているのは事実です。しかし、メーガン妃の生き方は英王室の伝統と文化を相対化させてしまう恐れもあるのです。

欧州連合(EU)離脱交渉を見ればお分かりになるように英国の国民感情は一筋縄ではいきません。非常に複雑です。2人が主要メディアに背を向けたままだと、王室費の支出に見合う一体感を英国民との間に醸成できなくなり、状況は非常に難しくなっていくでしょう。

(おわり)

参考:メーガン妃が男児出産 「金魚鉢の中の出産」避け「自宅出産」

秘密のベールに覆われたメーガン妃の男児出産 筆者はこう見る

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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