Yahoo!ニュース

メーガン妃が男児出産 「金魚鉢の中の出産」避け「自宅出産」

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヘンリー王子とメーガン妃の邸宅フロッグモア・コテージ(写真:REX/アフロ)

祝賀ムードなし

[ロンドン発]英王位継承順位6位のヘンリー王子(34)と元米人気女優メーガン妃(37)の第一子が誕生しました。出生時間は5月6日午前5時26分(日本時間同日午後1時26分)。男児で3260グラムでした。

王位継承順位はヘンリー王子に次いで7位になります。

ヘンリー王子は英24時間TVスカイニューズに「月を越えるような喜びだ。みんな元気だよ」と話しました。

英王位継承順位2位ウィリアム王子(36)の妻キャサリン妃(37)は故ダイアナ元皇太子妃と同じセント・メアリー病院リンド病棟でジョージ王子(5歳)、シャーロット王女(4歳)、ルイ王子(1歳)を出産しました。

ヘンリー王子とメーガン妃は「出産をプライベートにしたい」という考えを表明し、300万ポンド(約4億3600万円)かけて改装したロンドン郊外ウィンザーのフロッグモア・コテージに引きこもりました。メーガン妃が最後に公の場に姿を見せたのは約50日前です。

日曜日、ウィンザー城の周辺に祝賀ムードはなかった(筆者撮影)
日曜日、ウィンザー城の周辺に祝賀ムードはなかった(筆者撮影)

筆者は5月5日に、2人が結婚式を挙げたウィンザー城近くのフロッグモア・コテージの近くまで足を運びました。しかし敷地が広大で建物がどこにあるのかさえ全くうかがえませんでした。

土産物店にもロイヤルベビーグッズは見当たらなかった(筆者撮影)
土産物店にもロイヤルベビーグッズは見当たらなかった(筆者撮影)

ウィンザーのハイストリートでもロイヤルファミリーの追っかけもいなければ、祝賀ムードも感じられませんでした。

「金魚鉢の中」での出産

フロッグモア・コテージには10のベッドルームがあり、ドリア・ラグランドさん(62)もその一部屋に滞在しているとみられています。ヘンリー王子は公務のオランダ訪問をキャンセルしてメーガン妃に寄り添っています。

メーガン妃は、出産したその日におめかしをしてハイヒールで退院し、待ち構える世界中のメディアに笑顔で応えなければならないキャサリン妃を「気の毒」「金魚鉢の金魚のように」感じていると英大衆紙はメーガン妃の友人たちからの伝聞として報じています。

しかしキャサリン妃はできるだけ普通の英国女性と同じように国民医療サービス(NHS)の病院で日帰り出産したように筆者には感じられました。キャサリン妃はプライベート医療(医療費を自己負担)を選択しているので、もちろん一般女性より待遇は上です。

その一方で、英国をはじめエリザベス女王を元首とする16カ国を含む英連邦53カ国にお世継ぎをお披露目しなければなりません。世界中のメディアに対するフォトコールはその機会に過ぎません。

筆者はキャサリン妃の出産をリンド病棟で3度取材しましたが、一般女性も配偶者とみられる男性と一緒に笑顔で退院し、とてもうれしそうでした。ウィリアム王子とキャサリン妃、そしてロイヤルベビーの退院とそんなに変わらないように感じました。

出産した母体や新生児に問題がなければ退院するのがNHSの決まりです。原則、税金や国民保険料でまかなわれるNHSの予算は極めて逼迫しているからです。英国は他の国々に比べて出産から退院までの期間(平均1.5日)が短いのはそのためです。

ちなみに日本は4~5日だそうです。

自宅出産を選択する英国の高年女性

ヘンリー王子とメーガン妃がフロッグモア・コテージでの「プライベートな出産」を選択できたのは、ベビーの王位継承順位が7位だからです。2013年の王位継承法改正で、結婚する時に君主の裁可が必要なのは王位継承順位が6位までの王族に限定されました。

ヘンリー王子とメーガン妃の第一子は厳格に言えば「平民」に近いのかもしれません。

英国では自宅出産を選択する女性の年齢層はメーガン妃と同じ35~39歳が一番多く、二番目に多いのが30~34歳です。その理由を筆者なりに考えてみました。

画像

第二子、第三子を出産する女性が「家族の絆を強める特別な機会」として配偶者や子供たち、助産師の協力を得て自宅出産を選択するケースが増えていることがまず考えられます。

次にメーガン妃のように高年初産となるキャリアウーマンが出産を「人生の特別なイベント」ととらえて自宅での自然出産を選択することが増えているのかもしれません。

歴史的に激減した自宅出産

自宅出産(死産を含む)の割合は英国では下のグラフのように激減しています。ロンドンの高級地区メイフェアにある祖父母宅で生まれたエリザベス女王は4人の子供を病院ではなくバッキンガム宮殿やクラレンス・ハウスで生んでいます。

画像

1960年には33.2%もあった自宅出産は80年代後半には0.9%まで下がり、金融バブルが崩壊する2008年に2.9%まで回復したあと、再び2.3%まで下がっています。

英大衆紙サンに3人目を自宅で生んだ50歳女性の体験記が掲載されています。

「水中出産のために特別のプールを借りてきて自宅に持ち込んだ。出産する時、6歳にもならない2人の子供たちが私のためにプールにオモチャを浮かべるわ、ネコが部屋に入ってくるわ――でてんてこ舞いしたわ。出産後、旦那は部屋の中のプールを片付けるのが大変だったみたい」

「メーガン妃が自宅で出産すると言ったって、万が一の事態に備えてフロッグモア・コテージの中に病院と同じような施設を作って、医療チームが待機しているんでしょう。いつでも救急車が呼べるように携帯電話を充電しておいた私たちの自宅出産とは大違いよね」

日本ではGHQが施設出産への移行を進める

日本でも1950年代まではほとんどが自宅出生だったのに、今では病院や診療所での施設出生が大半です。2015年時点で自宅出生・その他は全体の0.1%に過ぎません。一説では戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が自宅出産から施設出産への移行を進めたからだと言われています。

画像

メーガン妃のように、35歳以上で初めて妊娠・出産するヒトのことを「高年初産」と言います。日本産婦人科医会は次のような高年初産のリスクを指摘しています。

・流産率が高くなる

・子宮筋腫など、胎児を育てる場所に腫瘍ができやすくなる

・妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの異常が出やすい

・出産時、出血も多くなりやすい

・産道がかたくなって難産になりやすい

カナダにあるマクマスター大学のキャシー・ウィルソン准教授は助産師で、メーガン妃の選択を肯定的にとらえています。

「自宅出産であっても施設出産であっても産科医の介入が必要となる割合はまったく変わりません。しかし初産の場合は少しだけ自宅出産のリスクは高まります」

「英国国立医療技術評価機構は、健康な妊婦は自宅出産を含めた病院外での出産を検討することを勧めています。メーガン妃が自宅出産したなら英国だけでなく世界各地で自宅出産を選択する女性が急増するのは間違いないでしょう」

英国やカナダ、オランダでは助産師は大学レベルの教育を受けています。メーガン妃は自宅出産を世界的なイベントにしてしまう可能性があります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事