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ツアーデビュー戦で世界19位を撃破! 世界も注目する、日米ハイブリッドの大坂なおみ

内田暁フリーランスライター
写真は今年4月に、岐阜のカンガルーカップ出場時のもの

女子テニス選手の大坂なおみが、世界19位で2011年全米オープン優勝者でもあるサマンサ・ストーサーを破ったというニュースは、かなりインパクトのあるものだった。

大坂が、まだ16歳であること。

彼女の世界ランキングは、406位であること。

そしてこれが、WTAツアー初の試合であったこと――。

“将来性”や“希望”という言葉を使うにはあまりに未知数な要素も多いが、色々な意味で楽しみな選手なのは間違いない。

現在アメリカのフロリダ州を拠点とする大坂は、父親がアメリカ人で、母親が日本人。生まれは大阪府という出来過ぎたプロフィールの持ち主で、本人も「出身地と苗字が同じなのは偶然なんだけれど、おかげで、みんな直ぐに名前を覚えてくれるわ」と苦笑する。日本通のアメリカ人記者から「関西弁を話すの?」などと聞かれたこともあったが、答えは「ノー」。日本語も話せるが、明らかに流暢に操るのは英語の方だ。

それもそのはずで、大坂が日本を離れアメリカに移ったのは、3歳の時。その頃から姉と共にテニスを始めているが、米国のテニスアカデミーなどからお声が掛かったという訳では、決してない。基本的には姉妹は公営のテニスコートで、父親の指導のもと練習と実戦経験を重ねてきた。

そのようにコーチを務める父親のレオナルドさんだが、テニスの経験が豊富だった訳ではないという。ただレオナルドさんは、バスケットボールやアメリカンフットボールなどのスポーツには昔から精通していた。「良いテニス選手になるには、良いアスリートでなくてはいけない。娘たちには、フットワークやコーディネーション強化を心がけてきた」というのが、父親の指導理念だ。

父の指導理念ということで言えばもう一つ、ジュニアの大会にはほとんど出ないという方針もある。「ジュニアで勝つことが目的ではない、上のレベルで勝つことが目標」だからだ。そんな父の薫陶は、若干16歳の娘の心身にも染みつき、彼女の精神的支柱となっているようである。今回ストーサーに勝った際にも大坂は、「勝てないと思ってコートに入る選手なんて、どこにも居ない。もちろん私も今回、自分はここに居るに相応しい選手だと思ってコートに入った」と口にしているほどだ。

ただし現在のWTA(女子テニス協会)は年少者の出場大会数制限を設けており、16歳の大坂は、年間12大会しか出場できない。出場大会数が少なければ、実戦経験も少なくなるし、ツアーポイントの獲得も困難となる。「私の実力は、ランキングよりももっと上だと思っている」と彼女が話してくれたのは、今年4月末のことだった。

プレーヤーとしての大坂の最大の武器は、180センチの長身から打ち下ろすサーブだろう。コンスタントに時速115マイル(約185キロ)を計測するサーブは、単に重要な局面でポイントを奪うに有利なのみならず、「体力を温存する上でも大きい」と大坂は言う。

「将来の目標は?」というベタな質問には、「ベタな答えとしては、世界1位と、可能な限り多くのグランドスラムで優勝すること」とサラリと応じる大坂。「そうなれると思ってる?」と聞かれると「あら、傷つくわね」とチャーミングに応じて記者たちを笑わせるあたりなどは(英語でのやりとり)、大阪的笑いのセンスも持ち合わせているのかもしれない。強烈なサーブとフォアハンドを軸としたダイナミックなプレースタイルから、物怖じしない佇まいや言動まで(本人曰く「私は凄く口ベタなの」とのことだが)、スケールの大きさを感じさせてくれる選手だ。

因みに、アメリカ暮らしの方が断然に長い大坂だが、将来的にもずっと日本国籍でのプレーを希望。「日本食を美味しいと思う時、自分は日本人だと感じる」のだと言う。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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