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「息子が飢えた突撃隊で…」売春で逮捕された北朝鮮女性の特別な事情

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

北朝鮮で売春は違法行為だ。刑法249条「売淫罪」は「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処し、罪状の重い者には5年以下の労働教化刑に処す」と定めている。また、行政罰を定めた行政処罰法220条「売淫行為」は「売淫行為を行ったり、それを助長、仲介、場所を提供した者には罰金または3カ月以下の労働教養処分とする」としている。

当局は取り締まりを強化しているが、売春は後を絶たないどころか、ますます広がっている。理由は生活が苦しいからだが、それだけではない。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、このほど摘発された50代女性のAさんの実例を伝えた。

价川(ケチョン)に住むAさんは、夫に先立たれ、社会給養網の売台(路上にあるプレハブ造りの売店)を営み、女手ひとつで息子を育ててきた。経済的には裕福でなくとも、食べるには困らない生活を営んできたようだ。

ところが、昨年状況が一変した。息子が昨年、突撃隊に入ったのだが、仕送りをしてほしいと泣きつかれたのだ。突撃隊とは、首都・平壌のタワマン建設などに従事させられる表面上はボランティア、実際はタダ働きされられる建設労働者だ。

隊員には給料が出ないばかりか、まともな食事が提供されないことから、食べ物目当ての犯罪を起こすほどだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

Aさんは、仕送りするカネの工面で頭を悩ませていたところ、売春の斡旋業者から「場所を貸してくれないか」と提案を受けた。彼女はすぐに断ったが、生活が徐々に苦しくなり、結局は受け入れることにした。後の安全部(警察署)の捜査で、Aさんの自宅が20回あまり、売春の場所として使われていたことが明らかになった。

このことを知った朝鮮労働党の社会給養網管理所の委員会の書記(組織のトップ)は、Aさんのことをこのように批判した。

「社会主義の人間として、どうして道徳、良心、価値観に背く行為を行ったのか。特に今は元帥様(金正恩総書記)が、人民のために広い海のような愛を施してくださり、全国が感激の涙で喉をからしているのに、なぜこんなことができるのか」

そして、こう言い放った。

「汚らしく生きるな」

重罰主義の傾向が強い北朝鮮では、本人とは全く関係ないことでも、家族だから、上司だからという理由だけで連座させられかねない。

Aさんは6カ月の労働鍛錬刑(懲役刑)の処分を受け、現在、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)で服役中だとのことだ。周りの人々は「予想より軽く済まされた」と口々に語っている。

売春に関する量刑は、別の規定により、上述の刑法や行政処罰法の定めたものより遥かに重く、無期懲役または死刑になることもある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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