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グリエルのダルビッシュへの侮蔑行為が示す人種問題の根深さ

豊浦彰太郎Baseball Writer
マイノリティによるマイノリティへの侮蔑行為、これがこの一件の本質だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ワールドシリーズ第3戦で、ドジャースのダルビッシュ有にアジア人を揶揄するジェスチャーを見せたアストロズのユリ・グリエルに対し、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは来季開幕からの5試合の出場停止というペナルティを課した。これは極めて政治的な判断だ。また、この一件は人種問題の根深さを改めて浮き彫りにした。

マンフレッドは、グリエルへの出場停止処分をワールドシリーズの次戦(第4戦)とせず、来季開幕からに先送りした。その理由を彼はいくつか挙げているが、その中でもっとも重要なものは「他の24人への影響を避ける」としたことだ。これは、処分の影響を基本的にグリエル自身にとどめ、ワールドシリーズというMLB最大のイベント自体がガタガタすることを避けたかったということで、言い換えれば幕引きを図ることを重視した判断なのだろう。

そのこと自体は分からないでもない。しかし、今回の一件がキューバ人のグリエルからアジア人のダルビッシュへの行為という当事者が外国人同士のものではなかったら、同様な裁定が下されただろうか。もっと端的に言うと、アメリカ人の白人から黒人への侮蔑行為だったとしたら、その白人選手はただちにシリーズの出場選手登録を取り消されるくらいの厳罰に処された可能性は高いと思う。「白人が黒人を虐げた」ということになれば、暴動に発展する懸念すらあるからだ。

また、今回の一件は社会的には「マイノリティがマイノリティに差別行為をした」という点でも見逃せない。人種問題に鈍感なわれわれは、人種差別というと社会的に多数派で強い立場のエスニックグループに属する人物または団体による、少数派で弱い立場の人たちに対する行為、いわば弱い者いじめと思いがちだ。しかし、現実はそれだけではない。マイノリティの中での人種的対立は絶えないし、差別を受けている人たちが、そのうっぷんを自らとは異なる人種・国籍の人々への差別で晴らそうとする現実もある。

キューバンのグリエルが、アメリカ社会の中でいかに抑圧を感じていたか(たとえ彼が高額契約を手にしているリッチマンだとしても)は本人にしかわからない。しかし、いくら高給を稼いでも「マイノリティとして軽んじられている」と本人が感じ、その不満のはけ口を思わずラティーノよは全く異なるエイジアンに求めてしまった、そんな可能性も否定できないと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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