AIが大手メディアのジャーナリストを追い払う、その実態とは?
AIが大手メディアのジャーナリストを追い払う――。
欧州最大の日刊紙といわれるドイツのタブロイド紙ビルトが、200人規模のリストラを明らかにするとともに、編集者などをAIで置き換える方針を明らかにした。
チャットGPTなどの生成AIの急速な広がりは、メディア界でも作業効率化などへの期待が広がる。だが生成AIの導入と相前後して、リストラも加速する。
その渦中での欧州最大の日刊紙のリストラは、メディア界の注目を集めている。
ネットメディアではすでに米バズフィードが、チャットGPTを使ったインタラクティブクイズなどに注力する。ただ、5月には米ピュリツァー賞受賞歴もあるバズフィード・ニュースを閉鎖している。
バズフィード・ジャパンでも5月以降、チャットGPTを使った「AI診断」や芸能ニュースなど約20本の記事を公開中だ。一方で、先進的に取り組んできたファクトチェックは、4月17日を最後に新たな記事が途絶えている。
●AIに取って代わられる
ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は6月19日、同日にビルト・グループ編集長のマリオン・ホーン氏らの連名でスタッフに送信されたという、こんなメールの文面を報じた。
ビルトは独メディア大手アクセル・シュプリンガー傘下のタブロイド紙で、部数は約100万部、日刊紙としては欧州最大という。
FAZの報道によれば、ビルトは18ある地域版を12に削減することに伴い、200人規模のリストラを行うとしている。
アクセル・シュプリンガーCEOのマティアス・デフナー氏は2月28日、ビルトとやはり傘下の日刊紙、ヴェルトのリストラを予告。グループ全体で、今後3年間で1億ユーロの財務改善が必要だとしていた。
さらに、デフナー氏は「ジャーナリズムの中核」の削減はしないとしながら、こうも述べたという。
今回のリストラは、このデフナー氏の表明が実行されたことになる。
2024年1月1日から、アクセル・シュプリンガー・グループは「デジタルのみ」もしくは「デジタル・ファースト、次にプリント」の戦略を実施するという。
●AI導入の影
発行部数や広告収入の激減などの地盤沈下の中で、メディアはデジタル移行を急いできた。チャットGPTの爆発的な人気で、メディアのAI導入やその検討も急速に進む。
ロイター通信は6月16日付の記事で、USAトゥデイなど200を超す日刊紙を発行する米国最大の新聞チェーン、ガネットが、まず生成AIの要約機能を導入予定だと報じている。
またブルームバーグは3月30日、金融機関向けの独自の生成AI「ブルームバーグGPT」の開発を発表している。
フィナンシャル・タイムズの2月の報道によると、英タブロイド紙、デイリー・ミラーなどを擁するメディアグループ「リーチ」も、生成AIの導入を検討しているという。
中でも、チャットGPTの導入で先行するのはネットメディアの米バズフィードだ。
バズフィードCEOのジョナ・ペレッティ氏は1月に「我々はAIを活用したコンテンツの未来をリードする」と宣言。オープンAIと提携してチャットGPTを導入し、クイズや観光ガイド、レシピなどのコンテンツを相次いで展開している。
※参照:Buzzfeedが「チャットGPTメディア」への転換を急ぐ、切実な理由とは?(05/29/2023 新聞紙学的)
※参照:「AIが選ぶ」から「AIが作る」へ、BuzzFeedの戦略転換が示すメディア環境の変化とは?(02/01/2023 新聞紙学的)
その一方で、大幅なリストラも実施した。
リストラの波の中で、2023年5月には、中国政府によるウイグル族弾圧についての一連の報道でピュリツァー賞受賞(2021年)の業績も残したニュース部門、バズフィード・ニュースを閉鎖した。
●バズフィード・ジャパンでも
チャットGPTを使ったコンテンツは、バズフィード・ジャパンでも展開が始まっている。
署名欄に「バジー・ザ・ロボット」の名前とライター名が連名で表記され、末尾にこんな但し書きが付いたコンテンツが、5月1日以降、すでに19本掲載されている(※7月6日現在)。
「AI診断」「AIレシピメーカー」と題したユーザーとのインタラクティブコンテンツや、エンタメニュースなどが並ぶ。
米バズフィードのチャットGPTを使ったコンテンツを、日本のスタイルにアレンジしたもののように見える。
米バズフィードと同様の変化は、他にもある。ニュースの停止と統合だ。
バズフィード・ジャパンのメニューバーの「ニュース」をクリックすると、ハフポスト日本版のページに飛ぶようになっている。
米バズフィードでは、バズフィード・ニュースの閉鎖にともなって、ニュース部門は傘下のハフポストに統合されている。
バズフィード・ジャパンでは、ファクトチェックに先進的に取り組んできた。
連携組織「ファクトチェック・イニシアティブ」が主催し、6月21日に発表された2023年の「ファクトチェックアワード」でも、2022年9月の静岡県の台風水害で拡散した生成AIによるフェイク画像を検証したバズフィード・ジャパンの記事が、優秀賞を受賞している。
だがこれらのファクトチェック記事は、2023年3月が11本だったのに対し、4月は3本。そして4月17日を最後にファクトチェック記事の掲載は止まっている。
定評のあった医療記事も、掲載は4月28日付が最後となっている。
●効率化の圧力
メディア界への逆風の中で、生成AIの起爆力が、メディアの現場にリストラ圧力としてのしかかる。
そんな動きが、あちこちで顕在化している。
(※2023年7月6日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)