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【インタビュー】STORM OF VOID(ストーム・オブ・ヴォイド)、遂にアルバム・デビュー

山崎智之音楽ライター
STORM OF VOID

インストゥルメンタル・ヘヴィ・ロック・デュオという特異なスタイルで支持されてきたSTORM OF VOIDが初のフルレンス・アルバム『War Inside You』を発表した。

George Bodman (ギター/bluebeard、NAHT、TURTLE ISLAND)とDairoku Seki(ドラムス/envy) という2人によるヘヴィ・サウンドは、最小限のラインアップで最大限の効果を生み出すものだ。

2013年のデビューEP『STORM OF VOID』を凌ぐ怒濤のうねり、一瞬先すらも予測させない展開はポスト・ロック、メタル、ハードコアなど既存のジャンル分けを超えた“虚無の嵐”のヴァキュームへと聴く者を引きずり込む。

2017年11月には日本全国ツアーも予定。Georgeがアルバムを語った。

<2人編成のバンドというのはむしろ理にかなっている>

●STORM OF VOIDはどのようにして2人編成のラインアップになったのですか?

元々バンドの結成は僕とDairoku君の2人だったんです。曲作りは僕がやっていて、Dairokuくんと2人で煮詰めていく感じで。しばらくしてトリオ編成になったんですが、ベース・ラインに関しても僕が基本的に作ったものに沿って弾いてもらう感じでした。ただ、今回のアルバムを制作するにあたり、自分が生きているうちに何枚アルバムを出せるだろうか?と考えたとき、自分が責任を持てる作品を残したかった。悔いを残したくないと。そんな僕のわがままを飲んでもらって、またデュオ編成に戻り、アルバムではベースも自分で弾いています。

●ライヴでも現在は2人編成でプレイしていますね。

サポート・ベーシストに弾いてもらおうかとも思ったけど、元々2人で始めたバンドだし、その原点に立ち返ることにしました。マネージメントも含め自分たちでやっているし、2人が納得するやり方で、2人で出来る新しいことをやろうと考えたんです。ただ将来的にはベーシストと一緒にやる可能性もある。あらゆる選択肢をオープンにしておきたいんです。僕はガキのころからメルヴィンズが好きで、バズ・オズボーン(ギター)とデイル・クローヴァー(ドラムス)の2人を軸にバンド編成が変わっていくのが理想的だと思っていました。STORM OF VOIDも彼らみたいにいろんなベーシストとやったり、編成をいろいろ変えてやってみても面白いかも知れませんね。

●最近ではホワイト・ストライプスやロイヤル・ブラッドの例を挙げるまでもなく、2人編成のロック・バンドが目立っていますね。

2人編成のロック・バンドというのは決して新しいものではないし、珍しくもないと思います。スティーリー・ダンやXTCだって基本は2人だし、ライトニング・ボルトもそうですよね?最近では機材の進歩もあってサンプラーを使ったり、テクノロジーも取り入れられるから、2人編成のバンドというのはむしろ理にかなっているんです。

●アルバムの曲は全9曲中、7曲がインストゥルメンタル、2曲がヴォーカル入りですが、インスト・バンドとしてのこだわりはありますか?

『War Inside You』(ホステス HSE-6490)現在発売中
『War Inside You』(ホステス HSE-6490)現在発売中

いや、ちっとも(笑)。元々STORM OF VOIDをインスト・バンドにする気はなかったし、今でもないんです。ヴォーカリストは入れたいですね。ただ僕はTURTLE ISLAND、Dairokuくんはenvyで身近に凄いヴォーカリストがいたことで、ヴォーカルに対するハードルがすごく高くなってしまって。それにインストゥルメンタルでやるのも楽しいし、いろんな選択肢が欲しいんです。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのマーク・ラネガンみたいな形で、準メンバーを加えて、数曲で登場するみたいなのも面白いと思うし...『War Inside You』では自分のヒーローであり友人であるナパーム・デスのバーニー(グリーンウェイ)もJ.ロビンスに声をかけて歌ってもらいましたが、2人とも「この曲をどう料理してくれるかな?」というワクワク感と、出来上がったときの「流石」の一言に尽きますね。今後もこの2人とはまた是非作りたいです。

●2人編成バンドと同様に、ヘヴィなインストゥルメンタル・ロック・バンドというスタイルもペリカンやロシアン・サークルズなどを筆頭に注目されていますね。

インスト・バンドは昔からいるし、特に意識はしていません。昔から仲が良いmouse on the keysみたいに、ポスト・ロック系でも良いインスト・バンドがいますね。彼らとは友達だし大好きなんですが、あまりライヴを見に行ったりはしないんですよ。見たら絶対影響を受けてしまいそうなんで(笑)。そういうバンドがいくつもあります!

●STORM OF VOIDの音楽性はいわゆるポスト・ロックの要素もありながら、ヘヴィネスもあって、先ほど挙げたペリカンやロシアン・サークルズなど、アメリカの『ハイドラ・ヘッド』『サザン・ロード』レーベル系のバンドにも通じるものを感じます。

我々と両レーベルのバンドの多くに共通するのは、ハードコア・パンクを通過していることだと思います。頭でっかちでスノッブな感じはなく、ティーンのころから身体でハードコアに接してきたバンドが多いですね。『サザン・ロード』オーナーのグレッグ・アンダーソンはSUNN O)))を始める前にブラザーフッドというハードコア・バンドをやっていたり、ロシアン・サークルズもベーシスト(ブライアン・クック)が元ボッチだったり。みんなパンクやハードコアの流れの中で自分のスタイルを築き上げていった。僕もDairokuくんも1990年代にハードコア・パンクから出発して、自分たちの音楽スタイルを探求していって今がある。そういう意味では共感をおぼえます。ただ、彼らと同じことをやっても仕方ないんで、自分たちのスタイルを大事にしたいですね。実際、一連のバンドの中で真に最高といえるのは、独自のオリジナルなスタイルをやっているバンドだし、誰かのフォロワーになるつもりはまったくないです。

●「War Inside You」でヴォーカルを取っているJ.ロビンスはジョーボックス、バーニング・エアラインズ、ガヴァメント・イシューなどで活動してきたヴォーカリストですが、クラッチやそのインスト別働隊ベイカートン・グループのプロデューサーとして、ヘヴィ・インスト・ロックとも接点がありますね。

僕はクラッチと直接の面識はないですが、彼らはメリーランド州出身で、ワシントンDCのハードコア・シーンを身体で感じてきたと思います。フガジとか、『ディスコード』一派とか。Jと知り合ったのは昔、僕がNAHTでギターを弾いていたとき、彼がバーニング・エアラインズで来日して、一緒にツアーで回ったりしたんです。そのころ僕は父親の影響でレッド・ツェッペリンやシン・リジィみたいなクラシック・ロック・バンドが好きだったんだけど、Jに「そういうバンドが好きなら、カイアスは好き?」と訊かれたんです。知らないと言ったら帰国後、出たばかりのクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのファースト・アルバムを送ってくれました。それにぶっ飛ばされて、すっかりハマりましたね。ワシントンDCといえばジ・オブセスドのワイノとJ周辺が仲良かったのを覚えています。ワイノがLAで加入したセイント・ヴァイタスも『SST』レーベルからレコードを出していたし、ハードコアとドゥームは昔から接点があったんですよ。Jはドゥーム・ロックやヘヴィ・ロックが大好きで、ザ・ソードのエンジニアもやっていますね。僕はNAHTを辞めて、Jもエンジニア業がメインになっていったことでしばらく連絡が途絶えていたんですが、今回アルバムを作るにあたって、彼と一緒にやりたいと思って声をかけてみたんです。彼はすぐにヴォーカルを入れてくれて、「やっとGeorgeも本当にやりたいことを始めたね」と喜んでくれました。「War Inside You」はヘヴィなんだけど抒情的な部分があって、Jだったらバッチリ料理してくれるだろうと。

<自分にとって自然な言語で歌うのがベスト>

●ところでGeorgeさんは御父上がイギリスの方なんですよね?

父親はウェスト・ロンドン出身で、音楽業界の人間ではないんですけど、ロックの大ファンでした。クラシック・ロックも好きだし、イアン・デューリーや『スティッフ』系のレコードも聴いていました。レゲエやダブ、スカもよく家では流れてましたね。でも僕は東京生まれで名古屋育ちなんで、いわゆるネイティヴ・イングリッシュ・スピーカーではないんです。生まれて初めて買ったレコードはイモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」だったし(笑)。当時は作曲が細野晴臣氏だなんて知るわけもなく聴いていました。でも、父親とは英語でしか話さなかったので、英語は話せますし、しっかりロンドン訛りが出ますよ(笑)。

●...ナパーム・デスのバーニー・グリーンウェイが何を言っているか判りますか?

95%は判ります(笑)。

●バーニーの英語はアクセントが強烈で、未熟な私ではヒアリングが困難なときがあります...「Bow And Scrape」でバーニーがヴォーカルを取っていますが、彼とはどのようにして知り合ったのですか?

ナパーム・デスとは来日公演にスタッフとして一緒に仕事をして友達になったんです。彼らやブルータル・トゥルースは日本のハードコア・シーンに敬意を持っていて、GAUZEの曲をカヴァーしたり、SxOxBとツアーしたり、去年(2016年)もSYSTEMATIC DEATHと一緒にツアーしたり。国境を越えたアンダーグラウンドのネットワークがあるんです。僕自身も13歳のころから名古屋の今池HUCK FINNに出入りして、日本のハードコア・シーンに身を投じてきたから、すごく話が通じて、意気投合しました。

●今回のゲスト・ヴォーカルは2人とも英語圏のシンガーですが、それはワールドワイドでの活動を視野に入れたのでしょうか?

いや、全然。今回はたまたま実現しなかったけど、今後の作品で日本語ヴォーカルを入れる可能性だって十分ありますよ。よく日本のバンドで「海外進出するなら英語で歌う必要がある」という意見がありますが、そんなことはないですよ。むしろ“ヨソ行き”で英語で歌うことの方がおかしい。自分にとって自然な言葉で歌うのが、一番良いと思います。海外でツアーしている日本のバンドでも、Borisとかみたいに日本語で歌っているバンドの方が多いんじゃないかな。音楽は感情移入することが大事だし、自分のネイティヴ・タングで歌う方が言葉の力というか、言霊が感じられますよね。

●アルバムでベースを自分で弾いたのと同じように、自分で歌った方がオリジナルな表現を出来るのでは?

それも可能性のひとつですね。バンドが2人の原点に戻ったことで、僕自身歌ってみたい欲求が生まれています。それはDairokuくんも同じで、「俺、歌いたいかも」と言っていましたよ。envyではイヤー・モニターすら使わなかったのに、まさか彼の口からそんな発言が出るとは思ってなかった(笑)。STORM OF VOIDが2人体制になってから、僕以上に新たなチャレンジへの意欲が生まれたみたいです。新しい可能性に対してオープンになって、envyでは使わなかったサンプラーやドラム・パッドを使ったり、彼がバンドをどう変えていくか楽しみですよ。

●アルバムのアートワークについて教えて下さい。

ジャケットのアートワークはメキシコのkikyz1313というアーティストの作品です。僕がInstagramでたまたま発見して惚れ込んで、こちらからコンタクトを取って、僕たちの曲を聴いた中から生まれるイメージを描いてもらいました。子供と動物が一緒になった、ちょっとグロテスクなもので、子供たちが何ともいえない表情を浮かべているんですよ。見方によっては死んでいるみたいな...僕には8歳の息子と4歳の娘がいるから、ちょっと穏やかになれない画風ですね。

●STORM OF VOIDの今後の活動はどのようなものになるでしょうか?

『War Inside You』では自分が生きている“今”という時代を多少なりとも表現したいという気持ちでした。直接的な表現ではないけど、サウンドだったり、バーニーやJの歌詞、ジャケット・アートまですべてがリンクして、ひとつの表現になればなと。これからもその時代の自分たちを、音楽を通じて表現していきたいですね。STORM OF VOIDでは日本全国をツアーして回って、また1からそれぞれの土地のシーンを知りたいと考えています。TURTLE ISLANDは愛知県の豊田を本拠地とするバンドで、僕だけ東京在住だから、ライヴをやるときも他のバンドを見られなかったり、打ち上げに参加せず一人ですぐ帰ることも多かった。だから、全国津々浦々廻ったけど僕個人は地方のシーンや若手バンドに触れる機会が最近は少なかったんです。STORM OF VOIDを始めて、“新人バンド”として地方に行くことで、いろんな若いバンドと出会う機会が増えた。最高にクールなバンドもいて、自分にとってもエネルギーになる。その土地の顔役達と近況を語り合うことで繋がっていくことも刺激になるし。もちろん海外でもライヴをやっていくつもりだし、次のアルバムのアイディアも考えている。これからいろいろやっていきますよ。

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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