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中国の女性が上司の共産党員から受けた性暴力を顔出し告発。そのワケは?

宮崎紀秀ジャーナリスト
性被害を実名で告発する戴小玉さん(写真は中国のSNSより。ぼかし加工は筆者)

 中国河南省の役場に勤める女性が、鍵のかかった会議室の中で、共産党員の上司から胸などをまさぐられ、押し倒される性暴力を受けた。女性はSNS上で自らの実名を明かした上、その際の様子を顔出しで訴えた。性暴力の被害にあった女性が、そこまでして訴えざるを得なかった理由とは?

背後から抱きつかれ、更に..

「私のポニーテールをつかんで抱きつき、胸や腰など女性の大切な部分を触ってきました」

 上司から受けた性暴力を訴える女性は、映像の中で自分の氏名や生年月日が記された身分証を胸の前に掲げていた。つまり実名を明かした上の訴えだ。映像はアカウント名などから本人が今月4月23日にSNS上に投稿したとみられた。

 女性は、河南省の信陽市にある県の一つ、光山県で財政局に勤務する戴小玉さん。戴さんが告発した上司とは、当時、同じ財政局の総会計士で、中国共産党員でもある51歳の鄭成才という男。

 訴えによると事件の経緯は以下のようになる。

 2021年8月10日、戴さんが財政局内の会議室に呼ばれると、鄭は扉の鍵をかけた。そして彼女のポニーテールを掴み、後ろから抱きついてきた。胸などを触った上、更に彼女をソファーに押し倒した。

 鄭は彼女の両腕を押さえつけ、さらに行為に及ぼうとしたが、彼女が大声を出して抵抗したため、ひるんだ。鄭は会議室の扉を開けて外に誰かいないかを確認すると、再び鍵をかけて戴さんを襲おうとしたが、彼女はその隙に逃げ出した。

 戴さんは、その日のうちに警察に被害を訴えた。

男は逮捕、裁判にかけられたが... 

 裁判資料などによれば、鄭は約1か月後の9月15日に警察に正式逮捕され、さらにその約1か月後の10月14日に起訴された。その2か月余り後の12月30日には光山県の裁判所が判決を下す。

 その判決は、鄭が強制わいせつの罪を犯した事実は認定したものの、犯行の時間が短かったことや、被害者の抵抗にあって犯行をやめたことなどから「犯罪の状況は軽い」として、鄭に対する刑事処罰を免除した。

 これに対し、検察は、鄭が共産党員であることや、被害者が受けた仕事や生活上の影響の大きさや精神的なダメージなどから考えて、量刑が不適切とし、一方、被告の鄭も無罪を主張して双方が控訴したが、今月4月8日に出た二審の判断も一審を支持した。

男は罪を認めず、事件を揉み消そうと

 この結果に納得できなかった戴さんが採った最終手段こそが、冒頭に触れた映像だった。実名と顔出しで、SNS上に被害の実態を訴えるという行動だった。

 映像の中で、鄭さんは事件後、うつ状態になり睡眠薬が欠かせなくなったなどと精神的な後遺症についても述べている。そしてこう怒りをぶつけた。

「鄭成才は横暴を極め、罪を認めず、悔いもせず、謝罪もしていません。上司の立場を利用して、金銭を用いたり、仕事上で威嚇したりして、私に訴えを取りやめさせ、示談書にサインさせようとしました」

性暴力の後、夫との関係は冷え家庭崩壊に

 戴さんは中国メディアに対し、事件の後、夫と喧嘩になり、姑には罵られるなど家庭が崩壊してしまった状況を明かしている。現在、夫とは冷戦状態で離婚の危機に直面しているという。そうした中での必死の行動だった。

「私は正義を求めているのです。強制わいせつ罪が認定されたにもかかわらず、彼は謝罪もせず罪も認めず、私の名を汚しているのです」

 SNSを使って被害を訴えた理由について、彼女はこう述べている。

「一審も二審もこのような結果になったので、再審を申請したところで意味はないでしょう。でも、一筋の希望を捨てたくありません。力が及ばないことは分かっていますが」

 戴さんがSNSに動画を最初に上げたとみられるのは4月23日。複数の中国メディアがそれを取り上げたのは翌24日。

 更にその翌日の4月25日。光山県の規律検査委員会と監察委員会は、鄭に対し党内の職務と公務員の職を解くなどの処分を下した。戴さんは、実名告発という手段によって、せめて一矢を報いることができたのだ。

 権力を持つ者が圧倒的に強い中国で、共産党員であり公務員である者を庶民が敵に回すのは怖いし、危険だ。にもかかわらず、戴さんのようにあえて実名を明かして声を上げる人が後を断たないのは、大きな権力の前で名も無い一庶民として、その声をかき消されないためなのだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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