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デジタル人民元の実証実験を進める中国の狙い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 中国人民銀行(中央銀行)の李波副総裁は、18日、「われわれがこれまで何度も繰り返し説明した通り、人民元の国際化は自然なプロセスであり、われわれが目指すのはドルやその他国際通貨に取って代わることではない」とし、「市場に選択肢を与え、国際貿易や投資の便宜を図るのが目標だ」と述べた(19日付ブルームバーグ)。

 中国は昨年、蘇州、深セン、成都などの都市でデジタル人民元の実証実験を開始した。李副総裁はさらに多くの都市でも行う考えを示した。

 中国がデジタル人民元の実証実験を進める理由は何か。デジタル人民元とは、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)と呼ばれるものとなり、それ自体が法定通貨となる。

 その理由のひとつに、中国は基軸通貨のドルに対して風穴を開けることを目的としているのではとの見方がある。中国は、中央銀行が発行するデジタル通貨をめぐり国境をまたぐ決済システムの研究を加速すると報じられており、中銀の中国人民銀行は24日、香港やタイ、アラブ首長国連邦(UAE)の中銀と共同研究を始めると発表した。

 しかし、現実には人民元そのものの使い勝手が悪いこともあり、デジタル化した人民元であれど、ドルを脅かす存在となることは考えづらい。ただし、中国との関係の深い国との取引に使われることは考えられる。

 デジタル人民元の発行の大きな目的として、4大国有商業銀行を保護することが挙げられよう。

 李副総裁は、実験の結果、デジタル人民元の発行・流通メカニズムが既存の金融システムと互換性があり、銀行セクターへの影響を最小限に抑えることができることが分かったと説明した(19日付ロイター)。

 2021年1月に発行予定となっていたはずのリブラ改めディエムもいまだ発行されていないが、民間が発行するデジタル通貨によって既存の金融システムに悪影響の出ることを恐れたことも考えられる。このため、既存の金融システムを利用したデジタル人民元の発行を急ごうとしたものとみられる。

 デジタル人民元の発行を急ぐとともに、アリババなどのIT企業の金融事業に対して徐々に規制を強めていることから、民間によるデジタル決済そのものも狙い撃ちしているように思われる。つまりこれはデジタル通貨の流通も4大国有商業銀行がメインに行うということが前提にあろう。

 日銀も中央銀行デジタル通貨の実証実験をスタートさせた。これもあくまで、民間銀行などの既存の金融システムを使ったものとなり、銀行セクターへの影響を最小限に抑えることも目的としている。

 ただし、中央銀行デジタル通貨にはいくつかの問題点も残る。日本のように1億を超える人口のお金のやり取りをすべて把握し、決済システムを維持させるにはどれだけのシステム容量を必要とするのか。これはあまり現実的ではない。さらに資産家をはじめ、政治家なども決済の透明化は歓迎しないであろう。

 そして、日本のように地震などの災害が多い国にとっては、システムがダウンした際の影響も大きい。その場合には現金というシステムが最も使い勝手が良いということになる。

 さらにこれは中国の動きとは相反することになるが、民間のデジタル決済業者への影響も考える必要がある。デジタル円が普及すれば、スマホ決済などはそれで済んでしまうし、信用度も高いことで、民間業者は撤退を余儀なくされることにもなりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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