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【最新研究】ピーナッツアレルギーに対する新たな治療法「経皮免疫療法」とは?安全性と有効性を解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【ピーナッツアレルギーと経皮免疫療法とは】

ピーナッツアレルギーは、子どもの2%程度が罹患する比較的頻度の高いアレルギー疾患です。一度発症すると、約80%の患者さんで生涯にわたって持続します。

従来の治療法は、原因となるピーナッツの回避が主体でしたが、近年新たな治療法として注目されているのが「経皮免疫療法」です。経皮免疫療法は、ピーナッツタンパク質を含んだパッチを皮膚に貼ることで、体を徐々にピーナッツに慣らしていく脱感作療法の一種です。

【経皮免疫療法の安全性と有効性を検証したREALISE試験】

経皮免疫療法の実力を検証すべく行われたのが、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「REALISE」です。本試験は、4~11歳のピーナッツアレルギー児393名を対象に、ピーナッツタンパク質250μgを含むパッチ「VP250」の安全性を評価しました。

その結果、VP250群では全員に局所皮膚反応がみられたものの、大半は軽度~中等度で、時間の経過とともに改善。重篤な有害事象の発生率はプラセボ群と同程度であり、高い忍容性と安全性が示されました。また、VP250により脱感作が進むことを示唆する所見も得られました。

経皮免疫療法は、ピーナッツを直接体内に取り込む経口免疫療法に比べ、アレルギー反応のリスクが低いと考えられます。皮膚バリア機能の個人差などの課題はあるものの、アトピー性皮膚炎など他の慢性皮膚疾患にも応用できる可能性を秘めた魅力的な治療法と言えるでしょう。

【経皮免疫療法の今後の展望】

REALISEの結果から、経皮免疫療法はピーナッツアレルギーの新たな治療選択肢となり得ることが示されました。今後は、長期的な有効性と安全性の検証、さらには他のアレルギー疾患への適用拡大などが期待されます。

一方、日本における普及にあたっては、皮膚バリア機能の人種差など、海外データをそのまま当てはめられない可能性にも留意が必要です。本邦独自のエビデンスの構築とともに、医療体制の整備や社会的な理解の促進など、克服すべき課題は少なくありません。

経皮免疫療法によりピーナッツアレルギーのQOL改善が進むことを願ってやみません。アレルギー疾患と皮膚の関係性についても、さらなる研究の深化に期待したいところです。

参考文献:

Pongracic JA et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2022 Jul;10(7):1864-1873. Safety of Epicutaneous Immunotherapy in Peanut-Allergic Children: REALISE Randomized Clinical Trial Results.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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