シリア情勢だけではないガソリン高の理由 ~小売価格は2週連続高の161.4円~
資源エネルギー庁が9月11日に発表した石油製品価格調査によると、9月9日時点でのレギュラーガソリン店頭小売価格(全国平均)は前週比+0.7円の161.4円となった。
8月中旬から下旬にかけては3週連続で160.2円となっていたが、9月入りしてから再び値上げ圧力が強くなっている。前年同期の148.2円を13.2円(8.9%)上回っており、2008年10月14日以来の高値を更新している。
引き続き原油調達コストの上昇分を転嫁する動きが、原油価格を押し上げている。東京商品取引所(TOCOM)の原油先物価格(当限)は、7月から8月上旬にかけて1キロリットル=6万2,500~6万6,500円水準を中心に揉み合っていたのに対して、9月4日には一時6万9,800円に達しており、08年9月以来の高値を更新している。石油会社の原油調達コストには強力な値上げプレッシャーが働くことになり、いち早くコスト高を転嫁する動きが開始されているのが、2週連続のガソリン価格上昇という訳だ。
■9~10月ガソリン価格の考え方
1)シリア情勢の緊迫化で地政学的リスクの加算が続いていること、2)リビアの油田におけるでストライキで同国原油生産が麻痺していること、3)米金融緩和政策の縮小を見据えて円安(ドル高)圧力が強くなっていることなどが、原油調達コストの切り上げに直結している。
一般的には、「シリア情勢を巡る混乱状況→原油供給懸念から原油価格が急騰」といった解説が目立つ。このため、足元でシリアの化学兵器を国際管理下に置くロシアの調停案が採用されれば、原油価格は軟化するとの期待感も強い。
ただ実際には、エジプトの隣国であるリビアの石油ターミナルや油田パイプラインなどで大規模なストライキが発生しているインパクトも大きく、シリア情勢一服で原油価格が本格的に下落するのかは疑問視される状況にある。
9月10日に石油輸出国機構(OPEC)が発表した9月月報によると、シリアの産油量は7月の日量124万バレルから、8月には60万バレルまで半減している。一時は25万バレル程度までの減産を強いられた模様であり、11年にリビアの内戦によって原油価格が急騰した当時と類似した供給環境になっている。
世界的には特に原油供給が不足している訳ではなく、消費国の在庫にも十分な余裕がある。しかし、リビア産原油は欧州地区の製油所向け出荷が多いことで、同地区で消費される軽質・中質油需給の逼迫化が、国際原油相場を押し上げている。
このため、シリアに対する軍事介入見送りは原油安の必要条件であって、十分条件ではないと考えている。ウエスト・テキサス・インターメディエイト(WTI)原油先物相場は、1バレル=105~110ドルの高値圏を維持しているが、これが100ドル台を割り込むには、シリア情勢の沈静化と同時に、リビアの原油供給環境が正常化する必要があるだろう。
ちなみに、米エネルギー情報局(EIA)は、今年の原油平均価格を98.59ドルと予測している。いずれにしても、大きく値崩れを起こすような環境ではなくなっている。
■無視できない円安効果
加えて、ここにきて日本の独自要因として警戒すべきが、円安による輸入物価の押し上げ効果だ。足元では1ドル=100円の節目を巡る攻防になっているが、来週18~19日には米連邦公開市場委員会(FOMC)の開催が控えており、ここで債券購入量の削減といった金融緩和策の縮小が決定されると、米金利上昇からドル高(円安)圧力が強まる可能性がある。アベノミクスを背景とした円安圧力は一服した形になっているが、金融政策環境の正常化を志向し始めた米国でドル高圧力が強まれば、日本の原油調達コストは海外原油相場の動向とかかわりなく切り上がることになる。
既にお盆休みの行楽需要が一服し、全国的な猛暑も緩む中、末端のガソリン需要環境は正常化に向かうことになる。このため、例年であれば値下がりプレッシャーが強まり易い時期を迎えている。ただ、今年は原油調達コスト高の転嫁が必要な状況が続く中、160円台前半から中盤で地合の強さを確認するステージが続くことになるだろう。7月のように1ヶ月で8円前後の急騰となる可能性は低いものの、160円を大きく割り込むことは難しいとみている。このまま秋の行楽シーズンまで、厳しいガソリン負担を求められる可能性も想定しておきたい。